【呆れ果てて】































 神楽坂明日菜にとって、綾瀬夕映という存在は”友達の友達”でしかない。

 同じクラス、けれど話すとしても間に木乃香がいるからであり、対で会話などすることなどなかった。

 バカレンジャーのレッドとリーダーという関係でもあり、互いに下の名前で呼び合ってはいるが、だからといって友人とハッキリ言えるほど仲が良いわけではなく。

 ああ、それと一つ。

 乙女としては外せない認識もある。

 急に、女の子らしくなった子。


 2年生の夏休み、寮が同じであっても会うことがなかった。

 それは明日菜と夕映に重なる時間がなかった、というのが大きい。

 それでも本来なら重なることがあってもいいはずだが、夕映自身が忙しかったのだから仕方がない。


 だからこそ、驚いたのだ。

 夏休みの最終日、再会したクラスメイトのあまりの変貌振りに。


 明日菜の中で夕映は、ただのクラスメイトで。

 友達の友達で。

 スタイルは、鳴滝姉妹の上。

 悪い言い方をすれば、小学生でも通るスタイルの持ち主だ。


 それがどうだ。

 1ヶ月近くあっていないだけで、身長は少なく見積もっても5センチ以上高くなっているし。

 以前お風呂場で見たときはつるぺただった胸が、自分より、とはいかないまでも、平均値よりも少し小さい程度の大きさになっている。


 恥ずかしさがなければ彼女も、他のクラスメイト達と一緒にそこまで成長した理由を問いただしていただろう。

 ・・・その時の、エヴァの【私のおかげだ】発言はとりあえず聞かなかったことにして。


 ともかく、綾瀬夕映は神楽坂明日菜からみても、綺麗になった。


 日頃あまり笑うことがない彼女が、たまに友人たちに笑いかける時など、自然と目が行ってしまうほどに。

 そしてそれは明日菜だけではなく、他の者たちも同じ。

 そうしてようやく気づくのだ。

 綾瀬夕映という人物の持つ、深い色と強い意思を湛えた瞳に。


 そんな彼女が、現在明日菜の前で不良達をのしていたりする。


「すご・・・っ」


 隠れ運動神経抜群だと、夏休みのプールで明日菜もわかってはいたが、こういう場面を見ると思う。

 もしかしたら、彼女は古菲たち四天王と肩を並べられるんじゃないか、と。


「そういえば最近、桜咲さん達と一緒にいるのよく見るっけ・・・」


 初めて見たときは、運動神経ゼロの文学少女にしか見えなかったのに、と。


「明日菜さん、怪我はありませんか?」


 何事もなかったかのように近づいてくる夕映の手には、先ほどまで彼女が手足のように自由自在に操っていた棍が。


「平気よ。綾瀬さんこそ、怪我とかない?」

「いえ。あの程度に傷を作るほど弱くないです」

「そ。ありがとね。いいんちょと喧嘩したりはするけど、ああいうのってそういうのとは別物でしょ? だから助かった」

「いえ。けど、明日菜さんでしたら、余裕で倒せそうですが」

「ちょっとー、それどういう意味よ!」


 ムッとして夕映を見下ろす明日菜。

 夕映はそれに目を逸らし。

 わざとらしく、手をポン。


「そういえば、シャーペンを買いたいんでした。それでは失礼します」


 どこか慌てたように、足早に歩き出す夕映の背中に、明日菜はプッと吹き出し。

 その隣に並んだ。


「なら、私も行くわ。ちょうど消しゴムなくなったからね」

「・・・そういえば、消しゴムをちぎって飛ばしていましたね」

「えーっと、文房具店はこっちだったっけ」


 明日菜の方もわざとらしく誤魔化し、さっさと歩き出す。

 夕映は小さく口端をあげて、その後を追った。


 求めていたものを買い終えた2人は、女子寮へと戻った。

 明日菜は暖かいカフェオレを飲み。

 夕映はいつものように、不思議な飲み物を飲みながら。


「それにしても、意外よね」

「何がです?」

「夕映さんの運動神経」


 短く告げられた内容に、よく言われます、と慣れたように夕映は返し。

 明日菜はそれを聞き、でしょうね、ともう一度短く返す。


「けど、そのわりには体育の時、率先して動いたりしないわよね」

「めんどくさいので」

「なにそれ!」


 あまりにも、な理由に明日菜は思わず吹き出してしまう。

 夕映も自分で言った内容を理解しているため、怒るようなことはなく。


 2人きり、という初めての状況であるにも関わらず、明日菜は思ったよりも夕映と話しているのは落ち着くと思っていた。

 正確には、一緒にいるのが、である。

 物静かで、元気な明日菜とは真逆の、どちらかといえば苦手な部類に入ると、明日菜は勝手に思っていたのに。

 2人きりになっても、会話は続かずに微妙な沈黙で気まずくなるんじゃないか、なんて。

 むしろ、反対に話しやすくて。


「・・・実際に話してみないと、わかんないもんねぇ」

「?何か言ったですか?」


 明日菜の呟きが小さすぎて聞こえなかったのか、夕映はきょとんとし。

 それに苦笑をこぼし、明日菜は手を横に振る。


「ううん、別に。夕映さんって、不思議だな、って思っただけ」

「む、それはなんだか心外です」


 眉を寄せる夕映に明日菜は笑い。


「まあ、気にしないでよ」

「むぅ・・・」


 ジッと少し下から見つめられ、その上目遣いに内心。


「(うわっ、夕映さんって綺麗だとは思ってたけど意外と可愛いかも・・・)」


 なんて思いつつ、それは決して口にせず。

 明日菜は少し頬を染めて、気にしない気にしない、と誤魔化した。



 寮に戻った夕映は明日菜とわかれて自室に戻り、夕飯作り。

 多彩な趣味を持つ夕映は、料理も趣味の一つとしており、いつもは食堂で済ますのだがたまに夕食を作るのだ。

 前世のことがあり、様々なことに興味を持ったのが理由である。


「のどか、パル、できたですよ」

「お、今日は生姜焼きか〜!」

「美味しそう」


 ハルナとのどかが嬉しそうにテーブルにつくと、みんなでいただきます。


「うん、美味しい!」

「美味しいよ、ゆえ」

「ありがとうございます、パル、のどか」

「なんていうか、ゆえって結構何でもこなすよね〜」

「そうですか?」

「頭も良いし、運動神経も良いでしょ?料理もできるし、最近はスタイルもよくなってきたし。こりゃ、男が見逃さないよね〜」


 うんうん、と1人頷くハルナ。

 だが、のどかは不安そうに夕映を見つめ。


「・・・ゆえ、そうなの?」

「質問の意味がわからないのですよ、のどか。それに、私は恋愛事に興味はないですから」

「そっか・・・」


 安心して良いんだか残念なんだかわからない、そんな複雑な表情でのどかはご飯を口に運んでいる。

 彼女にとって、夕映が恋愛事に興味がないのは、誰かと恋人にならない、という意味で喜ばしいことだ。

 けれどそれは同時に、アタックしてもソレを理由にふられる可能性がある、ということでもある。

 恋する少女としては複雑な心境になるのは当たり前。


 そんなのどかの内心に気づかない夕映は、のどかのそんな表情を気にしつつもご飯を食べ。

 ハルナは、【あれ?ラブ臭が・・・???】と内心首をかしげていたり。


 夕飯を食べた後、1時間ほどのんびりお腹を休めて大浴場へ。


「・・・いるですね」

「?ゆえ?」

「どうしたの?」


 ため息をつかんばかりの夕映にのどかとハルナは首をかしげ、彼女はそれに首を横にふって返した。

 夕映は気がついたのだ。

 お風呂場に、ネギがいることに。

 それでも相手は10歳になっていない子供、そこまで過敏になる必要ないだろう。

 そう思い、夕映はのどかとはルナ、それと脱衣場で会った木乃香とあやかと共に、浴室へ入っていく。


「それにしても、何ですのさっきのは!何で、あの暴力的で無法者のアスナさんの部屋にネギ先生が・・・・」

「あー、それはウチのおじーちゃんが、そーするように言ったんよ」

「学園長先生が?」

「へー。じゃあ、私たちもネギ先生と相部屋になれるように、このかのおじーちゃんに頼んでみよーかな?」


 若干驚いたように木乃香を振り返るあやか。

 その隣でハルナが笑いながらそんなことを言っている横で、夕映は我関せずと。


「のどか、身体を洗うのならばタオルは外した方が良いです」

「う、うん」


「勝手に決めないでいただけます?ネギ先生と同居し、立派に育てるには、もっとふさわしい人物がいると思いますわ。

 いかに天才少年とはいえ、ネギ先生もまだまだ子供!そんな先生を日々お世話するのは、もっと母性的で包容力を持った女性でなければ・・・」


 そう、自分のような。

 なんて自画自賛するあやかに、ハルナが胸は自分のほうが大きい、と対抗。

 そうこうしている間に続々とクラスの者たちが入ってきて。

 気がつけば、誰が胸が大きいかを争いだしていた。


 夕映は髪を洗いながら、そんな彼女達を生暖かい目で見ていて。


「参加しないのか?」

「こんばんは、夕映、宮崎さん」

「こっ、こんばんはですっ。マクダウェルさんっ、桜咲さんっ」

「エヴァさん、刹那さん、こんばんはです。エヴァさん、今日は珍しくこちらのお風呂ですか?」

「ああ。たまにはな。で?参加しないのか?」


 答えなどわかっているだろうに、わざとらしく二度も問いかけてくるエヴァに夕映は呆れた目を返す。


「私の部屋はすでに3人います。子供であろうと、さらに増えれば狭くなるだけで、快適になることはありえません」

「そういえば、夕映の部屋は3人部屋だったな」


 刹那の言葉に頷いて、夕映は頭にタオルを巻いてさっさと湯船につかる。

 エヴァと刹那、のどかも一緒に。

 ハルナはいまだ胸の大きさ選手権に参戦しているので放置。

 そこに、真名と楓も。


「相変わらず、うちのクラスはイベント好きだね」

「賑やかでござるなー」

「アホばっかです」


 夕映にしてみれば、ネギと同室になるために騒ぐあやか達の気が知れない。

 ネギが来てから、明日菜の次に被害にあっているといっても過言ではないだろう人物が、影ながらフォロー(主にくしゃみをした時に魔力で相殺したり)をしている彼女だからだ。

 彼女にとってネギは、災いの元でしかない。

 ネギが来て、まだ4日と経っていないのに。


「夕映、なんや疲れとるなー」

「どこかの馬鹿が好き勝手に動くので」

「へ?誰のことなん?」

「秘密です」


 座る位置をずらして、口元までお湯が来るくらいまで沈む。

 スーッと近づいてきた木乃香は面白そうに笑い。

 さり気なく逃げようとする刹那の腕を、夕映と一緒につかんで離さない。

 最近の彼女は強くなってきたらしい。


 と、夕映たちは魔力を感じて一斉に振り返った。

 木乃香も何かを感じたのか、同時に。

 のどかと楓の方は、そんな彼女達につられるようにそちらに顔を向け。


 止める暇もなく。

 もとい、隠そうとすることもなく堂々と魔法を使うネギを、もはや止めようという気さえ起こらず。

 明日菜の胸が膨らみ、そして破裂するところまで、夕映たちは呆れ全開で傍観していた。


「・・・杖に不思議な力・・・。やっぱり、ネギ先生は魔法使いなのかも・・・」

「ほぉ、魔法使いでござるか〜」

「魔法使いって本の中の話しやない?けど、ほんまやったらおもろいなー」


 一方のどかは納得するように、明日菜に怒鳴られているネギを見つめていて。

 楓は否定も肯定もせず。

 木乃香はそれを否定しつつ、願望としてはそうであるといいな、と。


「もう、オコジョにでも何にでもなって、さっさと帰れです」

「まあまあ」

「落ち着くんだ、夕映」


 今までで一番平坦な声で呟く夕映の肩を、真名と刹那が苦笑しながら、宥めるように叩いたり撫でたり。

 エヴァはそんな2人を睨んでから嘆息。


「本当に、先が思いやられるな・・・」


 その呟きは、夕映たち全員の思いだろう。

































<夕映 視点>


 朝早くから、習慣であるランニングをしています。

 そんな私の前で繰り広げられた光景。

 怒っているのか、険しい顔で走る明日菜さんと。

 明日菜さんを追う、箒に乗った彼。


「・・・マジでオコジョになってしまえ、です」


 朝から、テンション下がりました。


「テンション低いが、どうかしたのか?」


 教室の席に座り、不思議そうに声をかけてきた刹那さん。

 私は彼女を引き寄せ、その耳に今朝の出来事を小声で。

 すると、刹那さんは無言で私の肩を叩いてきます。


「まあ、その・・・頑張れ」

「お気遣い痛み入ります」


 その後、刹那さんのおかげで何とか通常時のテンションを取り戻した私は、のどか達やエヴァさん達と彼が来るまでお喋りを。

 ですが、その時木乃香が。


「そういえばなー」


 刹那さんの腕をつかんだまま。


「朝目が覚めた時、ネギ君が杖に乗って窓から飛んでったんよ。ウチ、寝ぼけとったんかな?」


 そんな爆弾発言を。

 思わず固まる私たち。


 不意打ちです。


「なにそれ〜?何時くらい?」

「う〜ん。6時ちょい前くらいやったかな?」

「じゃあ、寝ぼけてたんでしょ。本当だったら凄いけどね〜」

「そやなー」


 パルが本気で残念そうに言いましたが。

 私たちは、固まったままです。


 確かにその時間であれば、普通寝ぼけていた、と思うでしょう。

 ですが、私たちはそれが幻ではないことを知ってます。

 そして、彼がそのような行動をする可能性を否定できないとも思っています。


「杖で・・・」


 のどかだけは、何かを考えているように呟いてるです。

 私たちはさりげなく彼女達からはなれ。


「あのぼうや、本当は魔法をバラしに来たんじゃあるまいな?」

「マスターの意見に同意します」

「大方、お嬢様は眠ってらっしゃるから平気とでも思ったのでしょう」

「だからといって、寮から杖に乗ったまま外に出るかい?彼女が寝ていたとしても、寮にいる者が全員寝ているとは限らないだろう、その時間帯なら」


 エヴァさん、茶々丸さん、刹那さん、真名さんがそれぞれ意見を言います。


 この分だと、最悪他の者たちも見ている可能性が高いです。

 寮内でなくとも、私のように外であの光景を見ていた者もいるでしょう。

 目の前で飛ばれては、認識阻害もどれほど効果があるか・・・。


「綾瀬」


 その声に私達が顔を向けると、いつの間にきたのか千雨さんが。

 どことなく、言うのを躊躇っているかのような表情です。


「どうしたですか?」

「・・・今朝、あのガキが杖に乗って飛んでたって言ったら、お前信じるか?」


 ・・・最悪です。


「え?おい、綾瀬!?」


 思わず頭を抱えて座り込むと、千雨さんは慌てたようです。

 ですが今は、あまり余裕がないのですよ・・・?


「・・・まあ、だろうね」

「もともと長谷川千雨は効きづらい人間だからな」


「き、気を確かに、夕映!」

「ふふ・・・もはや、全員に教えるですよ。どうせ、すぐにバレるです・・・ふふふ・・・」

「笑ってるのに笑ってないぞ!?」


 本当に、いっそ話してしまったら良いです。

 1週間もしない現在ですでに疑いを持っているのが2人、完全にバレているのが1人ですよ?

 このままいけば、木乃香も気づくはずですし。

 だったら、いっそ全てぶちまければ良いのです、ええ。


「・・・何の話しだ?」

「・・・・・・・・・放課後、詳しいことを話すよ。どうせ、バレるのも時間の問題だろうからね」


 千雨さんに真名さんが答えるのを聞きながら、私は頭を抱えていた手を片方だけ外して手をあげました。


「なんだ、夕映」

「エヴァさん、私は思うですが、のどかや木乃香にも話してはどうですか?」

「ま、待て。宮崎さんはわかるが、お嬢様は何故だ!?」

「木乃香も同室ですから。彼が隠そうとしていないようですし、言わずにいても近いうちにバレるですよきっと」


 これほどのことをしていて隠す気がある、などといわれる方が驚きです。

 学園長含め。


「何の話なん?」

「いえ。パル、明日は確か、漫画研究会の方ですよね?」

「そうだよ?それが?」

「いえ、明日の部活には、刹那さんやエヴァさん達も見学に来てくれるそうなので、その確認です」


 パルはそれに納得したようです。

 刹那さんが驚いたようにこちらを見ますが、エヴァさん達は納得顔です。

 木乃香とのどかに説明をするのに、パルがいると困るですからね。

 もちろん、学園長に許可はとりますが。

 許可してくれないかも、なんて気にしません、させますから。


「そういうわけですので、千雨さんも明日の放課後あけておいてください」

「・・・ああ」


 めんどくさいことになった、という思考がだだもれの不快顔で千雨さんは頷きました。

 一応落ち着いたです、ふぅ・・・。


 その日の放課後、私は居残り授業です。

 こういうことは普通、2日前、最低でも前日にいうものです。

 当日に言って、その人に用事があったらどうするですか。

 学校の用事だから優先しろ、とでも言うつもりですか?

 まあこれは、彼が悪いのではなくその周り、ひいては高畑先生の引継ぎ不備のせいだと言えなくもないですが。

 彼は私たちバカレンジャーの成績が悪いことを、今日知ったばかりのようですし。


「えーと、じゃあまずこれから10点満点の小テストをしますので、6点以上取れるまで帰っちゃ駄目です」


 彼の号令と同時に、テスト用紙をうめていきます。

 と、ふと私は気づきました。

 フォローのために、私は先に帰っては駄目ですか?もしかして。

 ・・・いえいえ、今までもいつも引っ付いていたわけではないですし。

 律儀に全てフォローをする必要などないわけで。

 むしろ、同室にならなければ全てのフォローなど出来ませんよ、彼の場合。


 ぐだぐだ悩んでいるうちに、古さんに楓さん、佐々木さんが終わったようで。

 ですが、採点の結果3人とも合格にはならず。


「綾瀬さんとアスナさん、終わりましたか?」


 私は素直に差し出しましたが、明日菜さんは不機嫌そうです。

 理由はなんとなくわかりますが。

 そして結果、私は10点で合格。

 明日菜さんは2点で不合格でした。


「ま、満点!?綾瀬さん、できるじゃないですか!」

「英語は得意です」


 私は、テストの時気がつくと寝てしまっている、という不思議な現象に襲われるです。

 そのため、大体のテストの点数が悪く、必然的に成績も悪くなるのです。

 わからないから寝てしまう、と周りに認識されているようですが、あえて訂正はしませんし。

 ですが、英語は特に得意です。

 英語で書かれた原本を読む時、英語が出来なければ困るですから。


 フォロー?

 いえ、それはもうめんどくさいので帰ります。

 何より、この後はのどか達と本屋に行く約束してるですから。

 本屋を蹴ってまでフォローしようか、なんてそんなこと、考えるまでも無かったですね。


 私は待ってくれていたのどかとパルと共に教室を出て、本屋へと向かいました。

 夜の警護と、あのホレ薬での残りがあるので、お金に不自由はしていません。

 なので、少し高めの1万前後の本を3冊ほど買います。

 それに内心テンションが上がる私。

 ですが、夕方自室に戻って、読みかけの本を教室に忘れてしまったことを思い出しました。


「・・・のどか、パル。本を学校に忘れてしまったようなので、取りにいってくるです」

「1人で平気?」

「大丈夫です」


 心配してくれるのどかに頷いて返し、私は寮を出ました。


 駆け足で校舎の中へと入り、教室に向かえば。

 そこにはいまだ、居残り授業を続ける彼と明日菜さんの姿。


「・・・まだいたですか」

「あれ、綾瀬さん?」

「夕映さん!?」


 これは、明日菜さんの理解力が低いのか。

 それとも、彼の指導力が低いのか。

 どちらなのでしょうか、いや、両方という可能性もありますね。

 ですが、この時間まで付き合う彼を少し見直したです。


「どうしたのよ?」

「忘れ物です」


 少し疲れたような明日菜さんへと近づいて。


「なんなら、教えましょうか?」

「え?」

「先生は元々向こうの人ですから、英語に慣れていない人に教えるのは実際問題不向きだと思うです。といっても、何がわからないのかの根本をちゃんと理解しているのなら話しは別ですが」


 話せる人は(外国人)、話せない人(日本人等)が何故わからないのかがわからない、と聞いたことがあります。

 それを理解していないと、いくら教えても理解できないのだ、と。


 例えば、サッカーを好きな人がまったく知らない人にオフェンスがどうとかディフェンスがどうとか言っても、知らない人にはまずその時点でわかりません。

 その上、人によってはサッカーの出場人数さえ知らない人もいるですからね。

 ですが、サッカー好きは、初歩的な用語や基本を知らないことが理解できないし、初歩的だからこそまさか知らないとも思っていないのです。


「そ、それじゃあ、僕職員室にちょっと用事があるので、頼んでも良いですか!?」

「はい」

「お願いします!できるだけ早く戻ってきますので!」


 彼も教師ですから。

 教師としての仕事が当然あります。

 多分それをしに行ったのだろう彼は、慌てたように教室を出て行きました。


「とりあえず、どこがわからないのか教えてください」

「あ、えっと、まずここなんだけど・・・」


 明日菜さんの隣の椅子に座ると、彼女はわからないところを教えてくれます。

 私はその問題の内容を読み、できるかぎりの説明をし始めました。

 私が英語を覚える時に苦労した部分などを特に。


 30分後、1点、という悲惨な点数が書かれたプリントは全て埋めることができました。

 説明しながらなので、明日菜さんだけの力、とは言えませんが、私も答えを言ったわけではありませんので。


「オッケーです、明日菜さん」

「ありがとう、夕映さん。それにしても、教えるの上手いわねー」

「疲れているはずなのに、諦めずに頑張ったのは明日菜さんです」


 それは本心でした。

 今までやったテストが教卓の上にありますが、結構な数です。

 それでも、明日菜さんはめげずに質問を繰り返してきました。

 なんだかんだいって、やる気あるです。


「ちゃんと、段階を踏んで教えれば飲み込みは早いですし」

「そ、そう?」


 照れたように頬をかく明日菜さんに、口端が上がりました。


「お疲れ様です。もう一度テストをすれば、今度は合格できるでしょう」

「・・・ありがとね///」

「いえ」


「遅くなりました!」

「ナイスタイミングです。何度目かは知りませんが、小テストお願いするです」

「はい!」


 彼はすぐに頷くと、さっそく明日菜さんにプリントを渡します。

 明日菜さんはそれにゆっくりですが、確実にペンを走らせ。


 私の予想では、7,8点くらいはいくと思うです。


「でき―――!」

「おーい、調子はどうだい、ネギ君」


 明日菜さんの言葉にかぶるようにして聞こえた、聞き覚えのある声。

 そちらに顔を向ければ、高畑先生でした。


「たっ・・・!

「おっ、やっぱり例によってアスナ君か―――。あんまりネギ先生を困らせちゃ駄目だぞー、アスナ君」

「た、高畑先生・・・っ。いえっあの・・・これは・・・!」


 慌てる明日菜さんに笑い、高畑先生は頑張れよ、と去っていきました。

 なんだったんだろうと思っているうちに、明日菜さんが泣きながら走り去って。

 彼もそれを追い。

 私も慌てて教室を出ました。


「・・・杖を使うなです・・・」


 窓の外に目を向ければ、凄い速さでかけている明日菜さんと。

 当たり前のように、明日菜さんを杖に乗って追う彼。


 見直したのは撤回するです。

 誰もいないと言い切れない校内で飛ぶとか。

 ましてや、そのまま校内を出るとか最低です。

 邪魔しにきた高畑先生も最低ですが。


 大体、困らせるのは駄目だぞ、などと言う資格はハッキリいって高畑先生にはないと私は思うです。

 彼よりも前に私たちを教えていたのは高畑先生であり。

 高畑先生が好きな明日菜さんが相変わらずテストの点数が悪いのは、ある意味彼の指導力のなさが原因ともいえるですから。

 まあ明日菜さんにも、好きな人の担当教科なのだから覚えようとしなかったのか、と言えるですが。

 いえ、教師である高畑先生は教えるのが仕事なのですから、そんなこと関係ありませんね。


 だから、もっと早く高畑先生は裏に専念すべき人で、教鞭をとるべき人ではなかったと思うですよ。


「はあ・・・」


 一応テストの採点をしてみれば、7点でした。


 もう一度ため息をついてから、本を持って寮へと帰りました。

 フォロー?

 あんなに堂々と飛んでいて、今更でしょう。

 誰かが見ていたとしても、オコジョになるのは彼ですし、自業自得です。

 まあ私としては、オコジョになってくれた方が被害がなくて良いですが。


















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