【新しい担任?】































 私は今、学園長室にいます。

 私だけではなく、裏の先輩である刹那さんと真名さんもです。

 ですが、エヴァさんと茶々丸さんがいないのは何故でしょう。


「夜の警護についてですか?」


 私たち3人は、今でもたまに一緒に警護をするので。

 エヴァさん達がいない、ということは私たち3人の時に何か問題でも起こったのでしょうか?


 私の問いに学園長は笑って。


「いやいや、違うんじゃよ。新学期のことについてじゃ」


 ・・・それを聞くかぎりでは、私たち3人のみに関わることではない気がするのですが。

 思わず私たちは顔を見合わせて。


「どういう意味だい?」

「うむ。3学期から、おぬしらの担任が代わるんじゃが」


 真名さんの質問に答える学園長。

 ですが、担任ならばなおさら私たちだけを呼ぶ必要はないかと。

 というか、仕事で忙しい高畑先生をようやく外すのか、とも思うです。

 あの人、いつか過労で死ぬんじゃないでしょうか。


「”その子”は、魔法使い見習いでのう。この間メルディナ魔法学校を卒業したんじゃが、その卒業課題が日本で先生をやること、での」

「”その人”が、私たちの担任になる、ということですか?」


 どことなく不機嫌そうに表情を険しくする刹那さん。

 彼女のことなので、ストーカー対象(木乃香)が危険かも、と考えているのかもしれません。


 というか、聞き捨てならない言葉がありましたよ?

 メルディナ魔法学校の卒業課題、というと・・・。

 ・・・いくつです・・・?


 刹那さんの言葉に学園長は頷きます。

 私は背中を冷や汗が伝うのを感じながら、手をあげました。


「なんじゃね、夕映君」

「3学年時の担任も、その人がするですか?」

「一応課題は与えるが、そうなると思ってもらってかまわんよ」

「ではその人は、私たちの受験を任せるに値する人、と受け取ってかまわないのですね?」

「う、うむ。そうじゃな・・・」


 曖昧な表現。

 私はそんな学園長を、ジッと見つめ。

 けれど、学園長はそんな私から目を逸らします。

 ああ、嫌な予感をビシビシ感じるです・・・。


「・・・その人物の詳しいこと、教えてもらえるかな?」


 真名さんも訝しく思ったようで、そう問いかけます。

 刹那さんも私と同じように、ジッと学園長を見つめて。


「・・・これが、彼に関する書類じゃ」


 差し出された書類。

 それを受け取ると、両サイドに立っていた真名さんと刹那さんも覗き込んできます。


 私たち3人は、そこに載っている詳細を読み、目を見張りました。

 予想以上に若いです。

 飛び級でもしたのでしょうが・・・。


「・・・・・・学園長、私の目が確かならば、ここに載っているのは9歳の子供のようですが」

「まさか学園長、お嬢様の担任をこの子供にさせる、などとはおっしゃいませんよね?」

「普通受験生を、ようやく2桁いった子供に任せるかい?いくら麻帆良がエスカレーター式だとしても、常識を疑うね」


 私、刹那さん、真名さんが順に学園長に疑問を投げかけます。


「じゃ、じゃが、彼は大学卒業相当の語学力は」

「勉強ができれば、教師となるに適しているのですか?ということは、大学を卒業した者は等しく教師になれると?」

「そ、そうは言っておらんが」

「言っているも同じことです。大方、他のクラスでは受け入れられなかったのでしょう、子供が担任になるなど。良識があるものであれば、これから大切な時期である生徒を子供に任せようなどとは思いませんからね」


 魔法・一般関係なく、そんなことを了承すればその人の人格を疑われるです。

 生徒のことをちゃんと考えている新田先生あたりならば、学園長室に怒鳴り込むこともありえます。


「も、もちろん、サポートとして高畑先生にしずな先生もつけるつもりじゃ!」

「当たり前です。生徒よりも年齢の低い者を担任にするんですから、それくらいするのが義務です。もっとも、サポートなどを初めから2名つけるくらいならば子供を教師にするな、とも言えるですが」

「う、うぅむ・・・っ」

「とりあえず、これでわかったです」

「な、何をじゃ?」

「あなた方は、我々生徒をこの子供の課題道具としか見ていない、ということです。木乃香のことも含め」


 手で履歴書を軽く叩きながらいえば、学園長は慌てたように首を横にふりました。


「そんなこと思っとらん!!」

「思っていなければ、普通はこんなことしないですよ。”スプリングフィールド”、英雄の子供だか血縁者だか知りませんが、あなた方”正義”の魔法使いは狂ってるです」


 私は風を使って履歴書を学園長の机に戻し、部屋を出ました。

 その後を追うように、刹那さんと真名さんも出て私の隣に並びます。


「かの英雄の血縁者だったのか。学園長たちがおかしな行動に走るのも、それが理由なわけだね」

「だからといって、たった9歳の子供にお嬢様の担任だなんて、学園長は一体なにを考えているんだ!」

「真名さんの言ったとおり、英雄の血縁者、というフィルターがかかっているのでしょう。私にしてみたら、約束も守れない者のどこが英雄なのかさっぱりですが」


 約束とはもちろん、エヴァさんの封印です。

 もっとも、エヴァさん曰く、初めから封印を解く気はなかったのだろう、とのことですが。

 今回エヴァさんを呼ばなかったのも、彼女が彼に何かするかもしれない、と思ったからなのかもしれないです。


「所詮英雄という名称など、戦地で誰よりも多く人を殺し、そして”正義”に都合の良い位置にいた魔法使い、というだけで使われているだけでしょう」

「同感だ。ところで、学園長はどうすると思う?」

「現担任の高畑先生はかつてサウザンドマスターと共に戦った人ですし、学園長もフィルターがかかっているようですから、躊躇いなく息子さんを担任にすると思うです」

「というと、学園長は夕映の言葉を聞き入れない、と?」

「所詮、私も14歳の子供です。そんな子供の言葉で考え直すことはないでしょう」


 考え直すくらいならば、もとからこんな馬鹿げたことをするはずがありません。


 というか、元々何のために私たちは呼ばれたですか?

 子供先生のフォローとかでしょうか。

 だとしたら、本当に馬鹿げています。

 サポートを2名つけ、さらに生徒にフォローを頼むくらいならば、あんな子供を担任にしなければ良いです。

 馬鹿ですか。


 真名さんと刹那さんに私の考えを述べながら、ため息が止まりません。

 盲目過ぎる魔法使い達は、本当に面倒です。

 そして、厄介です。


「この学園に認識阻害の魔法がかかっているとはいえ、それを過信するのは愚行です。できるかぎりフォローはしますが、率先してしたくないのが素直な気持ちです」


 もっとも、あったこともない相手がどのようなことを仕出かすかなど、今から考えても無駄な行為です。

 行動よりも考えることを先にできるものだと嬉しいのですが。

 はあ・・・。


 若干落ちた気持ちのままお2人とは別れ、エヴァさん達の住むログハウスへ。

 そこで、英雄の関係者が3学期から担任になることを、エヴァさん達に告げました。


「ネギ・スプリングフィールドか・・・」

「その噂でしたら聞きました。内容は、ナギ・スプリングフィールドの息子が3学期にやってくる、と」


 ニヤリと笑うエヴァさんと、そう教えてくれる茶々丸さん。

 その言葉に、私は片眉が上がりました。


 血縁者。

 それも、一番血の濃い息子、ですか。

 ありえないことではないですね。


「噂の出所は?」

「不明です」

「なるほど・・・」


 考えすぎ、と言われてしまうかもしれないですが。

 ・・・気にはなりますね。


「どうした、夕映」

「私の考えですが」

「言ってみろ」

「もしかすると、その噂を流したのは学園長かもしれません」


 どういうことだ、と目で問いかけてくるエヴァさん。

 私は自分の考えを言うことにしました。


「これはあくまで憶測ですが、学園長はあなたが行動を起こすことをふまえた上で、噂を流しているのかもしれません」

「だから、何故だ」

「エヴァさんは何年もここに閉じ込められています。当然、封印をかけた者の子供が現れれば、封印をとくために行動するでしょう」

「ああ。一応そのつもりだが?」

「学園長は、それを利用し、あなたを息子さんの踏み台にしようとしている可能性があるです。9歳ですから、強いはずもないでしょうし」


 目を見開くエヴァさん。

 その可能性を考えていなかったと思われます。

 エヴァさんは、たまに抜けてるところがあるですからね。


「弱者を鍛える上で一番効率が良いのは、実践です。私の経験上、それは実際に効果があるです」

「実践、要するに私と戦わせようと?・・・確かに、以前の私であればなりふり構わず実行しただろう」


 顎に指をあてて頷くエヴァさんに、私も頷き返します。


「・・・ふははははは!この私を利用するか!この闇の福音を!!」

「出所不明で、時期も英雄との関係も明確な噂が立っていることを考えると・・・。もちろん、私の考え過ぎといえなくもありませんが・・・」

「くくくっ・・・。夕映、私がなにもせずにいたら、じじいはどうすると思う?」

「憶測の域をでませんが、多分、何故行動を起こさないのか、と遠まわしに聞かれるでしょう。その後、依頼される可能性が高いです」

「ならば、何もせずにいるとしよう」


 悪い笑顔で笑うエヴァさんにわかりました、と答えて、茶々丸さんの淹れてくれた紅茶を飲みました。

 喋り続けたせいで喉が渇いたので、一気です。

 すぐに追加を注いでくれた茶々丸さんにお礼を言って。


「それにしても、貴様は本当に頭が回るな」

「褒められるほどではありません。第一、全て憶測です」

「そういいながら、自信はあるんだろう?」


 それに肩をすくめて返すだけで。

 もっとも、それが肯定になると自覚してはいますが。


 話しは変わりますが、刹那さんから、つい先日お木乃香との関係を聞きました。

 何故傍に行こうとしないのかも。


 私には、考え過ぎだと思うのですが。

 そういうことは他人がいってどうにかなることでもありませんし。

 ただ、遠くにいて、いざという時本当に護れるのか、とは思いますが。

 まあこれも周りがどうこういって、変わることではありませんからね。

 それでも、今までのように刹那さんをムリヤリ傍にいさせるくらいはするつもりです。


「・・・ところで、珍しく不機嫌そうだな」


 一気に変わった話題。

 まるで、そちらの方が本題、とでもいうようですが、私の気のせいでしょう。


「何か言われましたか?」

「いえ。私が勝手に不機嫌になっているだけなので、気にしないでください」


 茶々丸さんに手を横にふりますが、エヴァさんも私の方を見ていて。

 2人から、無言の促しが。

 早く言え、と。


 私はそれに小さく息を吐き出して。


「私たちは来年受験です。そんな私たちを2年の3学期から卒業まで、人生経験の少ないであろう者に任せる。一般的に考えて、頭がおかしいとしか思えないです」

「・・・それはそうだな」

「私や真名さんといった、将来を漠然としつつも設計している者は良いです。ですが、この歳からすでに将来設計ができている者は少ないです。

 やりたいこと、それがいまだ見つけられていない者が大半であり、それが普通です。もっとも、学園長はエスカレーター式だから、と深く考えてなどいないようですが」


 今度はため息。

 本当、どういうつもりなのでしょうか。


 というか、指摘されない限り利用していること自体に気づけないなんて。

 ”正義”のためなら何をしても良い、とそんなことを思っているのかもしれませんね、所詮学園長も。

 表では否定をしていても、無意識にそれを行っていては意味がありません。

 むしろ、意識せずに行うことの方が最低です。


「まるで、私たち生徒を軽んじているとしか思えないです。一般生徒たちは、魔法使いの道具ではないのですよ」

「なるほどな。夕映が怒るのも無理はない。それで、お前は将来なにをするつもりなんだ?」

「今考えているのは、エヴァさん達と一緒に世界をまわること、でしょうか」

「・・・・・・・・は?」

「どうしましたか?」


 ポカンとした顔で私を見るエヴァさんに首をかしげると、彼女はハッとしたように。


「何を言っているんだお前は!私は封印されている身だぞ!?」


 それこそ、なにを言っているですか。


「まさかエヴァさん。私が、一時解印だけで満足するような人間だと、そう思っていたですか?」

「どういう、ことだ・・・?」

「私の最終目標は、卒業までにあなたの封印を解除することです。中学卒業までにできなくとも、高校を卒業するまでにはできるでしょう」


 そうするため今頑張ってるですよ?

 何も、修学旅行を一緒に行くためだけではありません。


「夕映・・・」

「私は、友人を光りの牢獄に閉じ込めたまま自由に生きるほど、腐ってないつもりです」


 勢いよくうつむいたエヴァさん。

 目を手で覆ってるですが、エヴァさんが意外と涙もろいこと知ってるです。

 私は茶々丸さんと顔を見合わせてから、笑い合いました。


 エヴァさんと茶々丸さんとチャチャゼロさんと、笑いあいながら生きたいのです。

 ちなみにこれは私の我がままなので、エヴァさん本人に何を言われても気にしないです。






















 今日は珍しく、エヴァさんも楓さんも用事があり、なにもすることがありません。

 刹那さんともたまに修行をしますが、彼女も木乃香に連れて行かれていません。

 のどかとパルも、なにやら用事があるとのこと。


 何もやることがありません。


 【どろり濃厚ゴーヤ】を飲み歩きながら、やれることを思案します。

 たまには休め、とエヴァさんに言われましたが、なにをすれば良いのかわかりません。

 本も借りたものや買ったものは、全て読み終えてしまいましたし。

 図書館島にでも行きましょうか。


「あ、夕映さん」


 と、知っている声に名を呼ばれて振り返れば、助けて以来仲良くなった大河内さんがいました。


「こんにちはです、大河内さん」

「こんにちは。・・・夕映さん、今暇?」

「はい。かなり」


 頷いて答えると、大河内さんは何故かホッとしたように息を吐きます。

 私に何かご用でしょうか。


「これから亜子たちと遊びに行くんだけど、一緒に行かない・・・?」

「・・・では、お邪魔でなければ」


 ???

 大河内さんの周りを、一瞬ですが華が乱舞したように見えました。

 手で目を擦っても、何も変化はありません。

 気のせいですか。


「ですが、和泉さん達に了承を取らなくても良いのですか?」

「う、うん、平気・・・(もともと誘うつもりだったから・・・///)」


 大河内さんは俯いてしまいます。

 どうしたのでしょうか。


「行こ・・・?」

「はい」


 並んで寮へと向かいます。

 一度準備する必要があるですから。

 お金もジュース代くらいしか持ってきていませんし。


 その後は和泉さん達と合流して、街へとでます。

 街といっても、麻帆良市内ですが。


「綾瀬さんとこうやって話すの、初めてだよねー」

「よろしくね♪」

「そうですね。今日はよろしくです」


 佐々木さんと明石さんに答えて、和泉さんにも頭を下げます。

 和泉さんは人見知りをするのでしょうか、少しオドオドしてるです。

 私がいて良かったのでしょうか。


「あれ?綾瀬さん、こんな傷あったっけ?」

「あ、本当だ・・・。痛くない・・・?」


 明石さんが指したのは、昨日の警護で負った傷でした。

 右腕の5センチほどの裂傷。

 少し太めの赤い線が、手首下から斜めにあります。


 私にしてみればそれほど大した傷ではなく、そのうち治るだろうと回復魔法を使わずに放置していたものです。

 修行ではこんな傷日常茶飯事ですし。

 これくらいであれば、うっすら痕が残る程度だと今までの経験上知っていますから。

 それに、ガーゼなどを貼ると私の場合、変に悪化するです。


「見た目ほど酷くも痛くもありません。痕が残ったとしても、うっすらとでしょう」

「けど、結構大きいよ?」

「これくらい、傷のうちに入りません。ですが、心配してくれてありがとうです」


 それでも心配そうな、大河内さんを筆頭にした人達。

 本当に心配するほどのことではないのですが。

 といっても、一般人である彼女達に心配するなという方が無理かもしれませんね。


「・・・綾瀬さん、女の子やのに嫌やないん?」

「嫌、といいますと?」


 和泉さんからの質問に、私は首を傾げて彼女を見ました。

 何故か彼女は、大河内さん達とは違う苦しそうな顔です。


「うっすらでも痕が残って、変な目でみられるかもしれんやん・・・。好きな人ができても、恋人が出来ても、大きな傷あったら・・・」


 何故和泉さんは泣きそうなのでしょう。

 まるで自分のことのように。

 いえ、まるで自分のことを言っているような。

 それに、大河内さん達もそんな和泉さんを悲しそうに見つめていますし。


「・・・私は恋愛といったものがわかりませんが、一つ言わせていただきます」

「なんや・・・?」

「私は、傷が一つ二つあるだけで人を嫌うような狭量な者を、好きになったりはしません。共にありたいと思ったりはしません」


 私がそう断言すると、和泉さん達は目を見開いて。

 驚愕して、私を見つめてきました。


「もしのどかやパルが事故にあい、消えない大きな傷痕が残ったとしても、2人と私は親友だとハッキリいえるです。

 同様に、あなたに消えぬ傷痕があったとしても、大河内さん達は蔑んだりはしないはずです」

「綾瀬さん・・・」

「それとも、和泉さんは大切な人に傷痕があれば、嫌うのですか?」

「っそんなことあらへん!」

「はい、そういうことです」

「あ・・・」


 ふむ、わかっていただけたようで何よりです。

 それにしても、和泉さんがここまで食いついてくるとは意外です。

 もしや、彼女自身に大きな傷痕があるのかもしれません。

 そうだとしたら納得するですが。


「ご、ごめんな、綾瀬さんっ」

「かまいません」

「・・・ウチな、昔事故にあって・・・」

「やはりそうでしたか」

「え?やっぱり?」


 納得すると、佐々木さんが目を見張って私を見てきました。

 他の皆さんも同じです。


「和泉さんとの会話を顧みると、自然とソレにいきつくので」

「かえりみる???」

「えっと、思い返すとか振り返るとか、そういう意味だよ・・・」

「あ、なるほどー」


 佐々木さんへの意訳感謝します、大河内さん。


「にしても、綾瀬さんってカッコ良いこと言うにゃー」

「どうか〜ん♪」

「私も・・・(カッコよくて、凛としてて、綺麗、だったな・・・///)」

「ウチも見習わんと!」


 カッコイイ、ですか?

 いまいちよくわかりませんが、感謝の言葉を返しました。


















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