【従者と仮契約】































 数週間前、エヴァンジェリンさんに従者ができました。

 要するに、戦闘時のパートナーです。

 チャチャゼロさんもいますが、彼女は封印のせいで別荘以外では動けませんからね。


 それで、そのパートナーはガイノイドで魔力と科学を組み合わせたのだそうです。

 そんな凄いものをつくれるハカセさんも超さんも、中学生とは思えません。

 まあ、中学生とはかけ離れた人ばかりですから、うちのクラスは。

 一応、私もその中の一人だと自負していますし。

 もっとも、私は実際の実力を隠していますが。


 というか、絡繰さんがうちのクラスに編入って、なんかおかしくないですか?

 あの長身でスタイルをみると、中学生というよりも高校生です。

 確かに、うちのクラスでは違和感はありませんけど。

 まあ、絡繰さんはエヴァンジェリンさんの従者なのですから、同じクラスなのは当然なのですが。


「ゆえゆえ」

「どうしました、のどか」


 紙パックにストローを挿しながら、私はのどかへと顔を向けました。

 そんな私をのどかはジッと見つめていて。


「のどか?」

「・・・ゆえは、マクダウェルさんのこと好き?」

「好きです。それがどういましたか?」


 不思議な質問に、私は首を傾げてしまいます。

 私は好きでもない相手と一緒にいたいとは思いませんよ?

 人は誰しも、自分から嫌いな相手と一緒にいようとはしないでしょう。


「・・・そういう意味じゃないんだけどな」


 苦笑しながら呟いたのどか。

 どういう意味なのでしょう?

 思わずジッと見つめてしまいます。


「え、えっと、気にしないでっ///」


 そう言って微笑むその頬が、少しばかり赤いです。

 もしかしたら風邪かもしれません。

 パルの栄養飲料など買っている場合ではないのでは?

 むしろ、のどかに飲ませて寝かせるべきなのかもしれません。


 そうとわかれば、ダラダラしているわけにはいきません。


「のどか、帰りましょう」

「え?ゆえ?」

「熱があるのなら、何故教えてくれないのですか。あ、熱冷まシート残っていましたっけ?」

「え!?私風邪なんてひいてないよ!?」

「頬が赤かいです。それは風邪の症状なのですよ、のどか」


 それは!なんて言いながら言葉に詰まるのどか。

 きっと、自分でも気づいたのでしょう。


 体調が悪いのに、わざわざ買出しに来なくても良いのに。

 友達思いなのも程ほどにしてください。

 まずは自分の身体を気遣うべきです。


「っ本当に風邪じゃないんだってばぁっ」

「あまり説得力はありません」


 その日の夕方、別荘にてエヴァンジェリンさんにそのことを話すと、エンドレス3対1で修行させられました。

 私が何をしたというのでしょう。





















「おい、夕映。今日はいつになくやる気がなかったじゃないか」

「常にやる気がないかのように言うのはやめてください」

「そうだな。お前の場合はやる気がない、というより伝わってこない、か?難儀だなあ、表情が変わらんやつは」


 顎に手をあててニヤリと笑うエヴァンジェリンさん。

 悪の顔してるです。


「かまいません。伝えるべき人は現在師匠であるエヴァンジェリンさん以外にはいません。そのあなたがわかってくれているのなら、何も問題はないです」

「っお、お前は、そういうことをほいほいと・・・!」


 顔を赤くして睨んできますが、怖くなどないのです。

 エヴァンジェリンさんは気づくべきですね。

 そういう時の自分は、怖くなどなく可愛いのだと。


「マスター、体温が上昇していますが」

「そ、そういうことは言わなくて良い!」

「すみません」


 最近加わった、絡繰茶々丸さん。

 生まれた(作られた、と言うのは私が嫌です)ばかりの彼女は、まだ人の機微がわからないようです。

 素直で良い人だと思いますが。

 それに関しては、時間がたてば変わるかもしれません。

 変わらないかもしれませんが。


 それにしても。


「少し、寂しいです」

「?なにがだ?」

「今まで風邪をひいたときなど私が看病をしていましたが、これからはその必要がなくなるということがです」

「―――っ!・・・ほ、本当にお前は、恥ずかしいことをほいほいと!///」

「私は恥ずかしくありませんから」

「くっ!」


 悔しそうに顔を背けるエヴァンジェリンさんに首をかしげながら、茶々丸さんが入れてくれた紅茶を一口。

 ふむ、美味しいです。

 一番のお気に入りである【抹茶コーラ】にも負けないかと。


「そ、それで、何か悩み事か?」

「覚えていたんですか」

「ああ、私があれくらいで誤魔化されるものか」


 誤魔化したつもりはないのですが。

 まあ、良いでしょう。


「エヴァンジェリンさん、私は最近思うのです」

「何をだ?」

「エヴァンジェリンさんと、仮契約を結びたい、と」

「にゃ!?」


 何故猫ですか。

 確かに、エヴァンジェリンさんは猫っぽいですが。


「そそそそれは私とキスがしたいということか!!?」

「何故そうなるですか」


 とりあえず、落ち着けと言いたいです。


「私は、エヴァンジェリンさんの仲間だと勝手に思っています。ですが、それを口に出したところで、本気として受け止める者はそれほど多くないでしょう」

「・・・そうだろうな」


 ちょっとぶっ飛んだ思考から戻ってきたようで、エヴァンジェリンさんは真剣な顔になって頷きます。

 私もそれに頷いて返し。


「ですから、証がほしいのです。あなたの友達だと、仲間だと他者に示す証が」

「確かに、それに適した物はパクティオーカードだな」

「はい。最適です」

「だが、私は反対だ」

「何故です?」


 あっさりとした拒否に、自然とムッとしてしまいます。


「お前ならば、わかると思うが?」

「真祖の従者となると、正義の魔法使いから狙われるから、ですか?」


 エヴァンジェリンさんは何も言いませんでしたが、否定をしないところをみると正解でしょう。

 といっても、私自身それを理由に拒否されることは想定済みです。

 エヴァンジェリンさんが優しいことくらい、一緒にいて知っていますから。


「ですが、私は今のような、”いつでもあなたから離れられることを前提にした付き合い”を、続けているつもりはありません」

「お前が離れなければ問題ない」


 確かに、それも一理あります。

 ですが、根本問題はそこではありません。


 私が気づいていないとでもお思いですか?

 いつでも自分から離れられるようにと、曖昧な位置で。

 それは、自分に縛られずに、いつでも”正義”へ移れるようにと。


 あなたが、私の身を案じてのことだと、もちろんわかってはいます。

 ですが、それで納得できるはずもないのです。


「・・・わかりました、今は保留にしておきます」

「私は、お前を従者にする気は―――」


 私はテーブルから立ち上がり、その言葉を遮りました。


 一種の抵抗です。

 ついでに一言物申すですよ。


「ですが、覚えておいてください」


 ジッとエヴァンジェリンさんを見つめ。


「私は、自分が傷つきたくないという理由で、あなたから離れる気はありません」


 それを言って、私はログハウスから出ました。


 ちょっとばかり怒っていたります。

 が、彼女の周りの状況を考えれば。

 そして、エヴァンジェリンさん自身の性格を考えれば、納得もできます。

 不服ではありますが、ええ。


 早急すぎたのでしょうか・・・。

 ただ、エヴァンジェリンさんの仲間だと、言いたいだけなのに・・・。


 ・・・諦めてはいけませんね、はい。

 一度拒否をされたから諦めるなど、女が廃ります。

 これもまた、エヴァンジェリンさんの友でいるための試練。

 きっと、そうなのでしょう。


「おや、夕映殿ではござらんか?」


 ふと気配を感じて振り向くと同時にかけられた声。

 いたのは、同じクラスの長瀬楓さんです。


 私の私見ですが、彼女は忍でしょう。

 気配の隠密に長けていますし、何より、以前山をランニングしている時に忍装束姿の、何人もの長瀬さんを見たことがありますから。

 本人は、一応隠しているつもりのようですが。


「長瀬さん。こんばんはです」

「こんばんはでござる。これから寮に?」

「はい。長瀬さんもこれから帰るのでしたら、一緒に帰りませんか?」

「あいあい♪」


 長瀬さんも了承してくれたことですし、2人並んで寮へと向かいます。


 それにしても、やはり身長が高いですね。

 私との差があまりにもありすぎます。


「ところで夕映殿」

「なんでしょう」

「先ほど、エヴァンジェリン殿の宅から出てきたようですが」

「・・・隠れてみていたんですか?」


 不覚。

 ちょっと悔しいです。

 ふむ、もっと強くならなければ。


「偶々でござるよ。もっとも、お2人は教室でもよく話しておられるゆえ、不思議でもなんでもないでござるが」

「そうですね。私とエヴァンジェリンさんは友達ですから」

「確かに、仲が良さそうでござる。エヴァンジェリン殿も、夕映殿と話している時は優しい顔をしているでござるしな」


 ・・・それは、ちょっと嬉しいです。

 いえ、かなり嬉しいです。


「本当ですか?」

「拙者の目に狂いはないでござるよ」


 自信を持った長瀬さんの言葉に、自然と頬が緩みました。


 自分でも仲が良いとは思いますが。

 他の方からそういわれるのは、とても喜ばしいことです。


「そうですか・・・。・・・?長瀬さん、どうしました?」


 何故か私を驚いたように。

 半月ほどしか共にいませんが、常に糸目の長瀬さんが目を見張って私を見下ろします。

 彼女が目を見張るのを初めて見ますね。


 私の声に長瀬さんはハッとしたように、表情を戻しました。


「いえいえ。・・・夕映殿も、そんな風に笑ったりするのかと感心しただけでござるよ」

「・・・?」


 首を傾げれば、彼女は何故か嬉しそうに笑います。


「夕映殿は、いつも無表情でござろう?拙者も、夕映殿が笑ったところなど見たことはござらぬし」

「・・・確かに、表情筋が硬いのは自覚してるです」

「別に拙者は、それが悪いとは思ってはござらんが。やはり、少し寂しいとは思っていたでござるよ?」


 そ、そうでしたか。

 それは気づきませんでした・・・。


「といっても、無理に笑おうとするのもおかしな話しでござるからして」

「はい。言いたいことはわかります」

「そう言ってもらえると助かるでござる。拙者、あまり頭は良くないでござるからな〜」

「それはお互い様です」

「確かに。お互い、今までのテストでは最下層組みでござったな」


 私たちは顔を見合わせて、笑いあいました。


 今まで長瀬さんと話す機会はあまりありませんでしたが、話しが合うかもしれません。

 もしかしたら、長瀬さんが合わせてくれているのかもしれませんが。


「夕映殿は、笑っているほうが良いでござるよ」

「ありがとうございます」


 糸目でそう言ってくれる長瀬さんに頭を下げて。


「今日は、長瀬さんと話せて良かったです。笑顔から優しい人だとは思っていたですが、思っていた以上に優しい方なのです」

「照れるでござるよ〜」


 頬をぽりぽりとかく彼女は、本当に照れているようです。

 私は浮かべていた笑みが、さらに深まり。


 気がつけば、すでにそこは寮の玄関。

 揃って中へと入って。

 私たちは別れるまで、他愛のない話しをしていました。


「それでは、長瀬さん。楽しい時間をありがとうです」

「ニンニン♪こちらこそ、楽しかったでござるよ」


 機嫌良さそうに背中を向けて去っていくその背中。

 その理由が、私との会話が楽しかったから、だと思いたいです。


「?ゆえ、なんだか機嫌よさそう」

「そうですね。新しくお友達ができたからでしょうか」


 部屋に入ると、テーブルで勉強をしていたのどかが、不思議そうに声をかけてきました。

 私はそれに頷いて返し、


「お友達?」

「はい。長瀬さんです。やはり、勉強ができないもの同士、波長が合うのでしょうか」


 うんうんと頷いていると、のどかが苦笑を浮かべて私を見ています。


「ゆえは、勉強が出来ないんじゃなくてやらないだけだよ」

「そうともいえます」


 頷くと、その苦笑が深まりました。

 私はそんな彼女の隣に腰掛け。


「ところで、パルはどこです?そろそろ食堂に夕飯を食べに行く時間です」

「あ、部活の方が今良いところだから先食べていて良いって、さっき電話があったよ」


 部活とは、漫画研究会の方ですね。

 そういうことでしたら、気にせず食堂にいきましょう。


「わかりました。では、パルのことなど気にせずさっさと行ってしまいましょう」

「ふふっ、うん」


 のどかは口元に手をあてて控えめに笑いながら、頷いてくれます。

 私もそんな彼女に口元を緩めて。

 並んで、食堂へと向かいました。
























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