【真祖な友達】































 彼女に声をかけたのは、このクラスになってから一週間ほどたってからでした。


「少し、お時間よろしいですか?」


 返ってきたのは無言の一瞥。

 その反応はこの一週間見慣れたもの。


 彼女は、他者と関わろうとせず。

 諦めを瞳に宿して。

 それでいて、返ってこないコタエに泣きそうにしていて。


「無言は肯定ととってもよろしいですか?よろしいですね?」

「な!?」


 パッと彼女の手をつかみ、離せやら止めろやら喚くマクダウェルさんを無視して、私は廊下の隅へと移動しました。


「っ何なんだ貴様!」

「強引にすみません。強行に出なければ、あのまま何事もなかったかのように終わってしまうと思いましたので」

「・・・ふん」


 それは多分、彼女にとっての肯定だったのでしょう。

 それを見越しての、教室での彼女の対応なのでしょう。


 ですが、私は嫌です。

 そのまま終わってしまうなんて、嫌です。


 かつての私のような眼をした彼女を、ただ見ているだけだなんて。


「あなたが600年生きていることを知りました」

「・・・ほう。貴様、こっち側か」

「一応ですが、そうです」


 興味のなさそうな視線が、一気に凍てついたものへと変わりました。

 感じる威圧も、ずいぶんと重いです。

 ですが、私は自分を虚弱ながら武人であると自負しています。

 それに根負けしているようでは、武人とはいえません。

 たとえ、その威圧に足が震えそうになっていたとしても。


「で?封印されている私を殺すか?正義の魔法使い」

「いえ、私はあなたにお願いがあります」

「願い?」


 片眉をあげて、マクダウェルさんは私を促します。

 それに応えて、私は口にしました。


「はい。あなたが600年の中で面白いと思った本を、教えていただきたいのです」

「・・・・・・・・・・は?」


 ポカンとした、マクダウェルさんの表情。

 内心、してやったり、と思いました。


 誰も彼も、あなたを殺そうと思っているだなんて思わないでください。


「どうでしょうか?」

「・・・なにを、言っているんだ、貴様」


 おお、さすが真祖の吸血鬼です。

 睨みが半端じゃありません。


「何を、と言いますと?」

「私が何者か知っていて、何故そんなことを言える?」

「ふむ、私がいえる言葉は、魔法使い全てがあなたを嫌いっているわけではない、ということでしょうか」

「・・・ほぉ?それは、私を侮辱しているのか?この【闇の福音】を」

「いえ、あなたが弱い、と言っているわけではありません。ですが、あなたを怖いと感じるよりも、面白い本が読みたいという欲求の方が強い、それだけです」


 何より、お友達になりたいのです、とは口にはしなかったですが。


 またまたポカンとした表情のマクダウェルさん。

 ふむ、さすが美少女。

 そういった顔も、可愛らしく綺麗なものがありますね。


「それでどうでしょうか。お勧めの本を教えていただけませんか?」


 言い終るよりも前に、大きな声に遮られてしまいました。

 それは、マクダウェルさんの笑い声です。


「マクダウェルさん?」

「くくくっ。・・・良いだろう、私が良いと思った本を教えてやる。それに、家にあるやつは貸してもやろう」

「・・・見返りはなんですか?」

「いや、いらんさ。久々に貴様のような馬鹿に出会えた祝いだ」


 笑うマクダウェルさんは楽しそうで。

 もちろん、自分が笑われていることくらいわかっていますが。

 ですが、あんな瞳をしているよりは良いです。


 ちなみに、馬鹿は褒め言葉としては適しません。


「ありがとうございます」


 ふむ、お友達計画第一歩目、一応成功とみて良いのでしょうか。


「だが、良いのか正義の魔法使い。私と一緒にいるところを見られれば、貴様も色々言われるぞ」

「私は正義だなんて掲げていませんから、問題ないです」

「ほぉ?」


 面白い、と不適に笑うマクダウェルさん。

 私はそれに肩をすくめて返しました。


「私は純粋な魔法使いではありませんから。数年前までは何も知らない、ただの武人でした」

「というと?」

「麻帆良に入る前、鬼と出会い、同時に魔法使いと出会いました。それ以来、こちら側です」

「なんだ?本の中のファンタジーにでも憧れたか?」


 冷めたような視線で。

 そんな甘い世界ではないぞと、言外に語りかけてくれます。

 きっと、彼女なりの心配の仕方なのかもしれません。

 もちろん、馬鹿な女への忠告ともとれますが。


 ですが私は、そんなことすでに知っているですよ?

 すでにその洗礼は受けましたから。

 かつて助けてくれた。

 そして、私に魔法を教えてくれた彼女に甘えは捨ててもらいました。


 それでも、私は魔法を捨てようとは思いません。

 この身体を捨てられないのと同じように。


「そうですね、それを否定はできないかもです。ですが、それのなにがいけませんか?」

「・・・なんだと?」

「物事とは、興味を覚えるからこそやる気が起きるのではありませんか?」


 ニヤリとした返答。


「貴様は、真っ先に死ぬタイプだな」

「そうならないように精進してるです」


 健康な身体を手に入れたんですから、早々朽ちるわけにはいきません。

 やりたいことができる身体を手に入れたんですから、かつての歳よりも前に死ぬつもりはありません。


「・・・貴様、面白い。まだまだ、いつ死んでもいいほどに弱い人間だが、貴様の考え方は嫌いじゃない」

「ありがとうございます」

「貴様、強くなりたいか?」

「と、言いますと?」


 唐突な言葉に、私は首をかしげ。

 そんな私を見る、マクダウェルさんの視線。

 鋭く。

 けれど、笑みを浮かべた。


「私が強くしてやろう」

「それは嬉しいのですが、見返りはなにを?」

「なに、少しばかり血を分けてくれさえすれば良い。それで、貴様の望むような本を貸し、鍛えてやろう」


 ・・・そこまでの展開は予想外です。

 ですが、強くなることに否はありません。


「・・・お世話になります」


 驚きましたが、それは嬉しい誤算です。

 私のなにが彼女の心をくすぐったのかはわかりませんが。


 いつか、友として彼女の隣に立てるよう、頑張りたいと思います。
































 こうして、私は鍛えてもらうようになったのですが。


 ・・・・・・ハードです。

 まさに、地獄と呼べるほどの。

 もちろん、マクダウェルさんは手加減をしてくださっているのですが、私の元々のスペックが低いからでしょうか。


 腕が折れるのは日常茶飯事。

 血を吐くのも、最近では恒例となってきました。

 意識を失うことも少なくはありません。

 その度に、自分で回復したり。

 マクダウェルさんも、わざわざ調合してくれた魔法薬で回復させてくれます。


 それでもマクダウェルさん曰く、強くなっている、とのことです。

 自分ではよくわからないのですが。

 ただ、回復魔法が強化していることだけは、ハッキリわかります。

 嬉しくない上達の仕方です。


「ゆえ〜、最近お疲れみたいだけど、大丈夫・・・?」

「なにも問題はありません。面白い本をマクダウェルさんから貸していただいたもので」

「へ?マクダウェルさんから?」


 本大好き仲間であり、同じ部活の同士であり、ルームメイトでもあるのどかに私は頷きました。

 一般人であるのどかに、本当のことをいえるわけもありませんから。


「・・・最近、ゆえマクダウェルさんと仲良いね」

「そうですね。といってもまだ、お友達未満、といったところですが」

「そっか・・・」

「?のどか、どうしました?」

「あ、ううんっ、なんでもないよ!」


 慌てたように手を横に振るのどか。

 ?

 本人がなんでもないというのなら、そうなのかもしれませんが・・・。

 なんだか、釈然としません。


「おい、綾瀬夕映」

「どうしましたか?」


 マクダウェルさんのところへと行こうとして。


「・・・のどか?」

「え?・・・あ、ご、ごめんねっ」


 袖をつかんでいたのどかへと顔を向けると、慌てたように手を離します。

 今のは、どういった意味があったのでしょうか???


「おい、早く来い」

「わかってます。・・・のどか、行っても良いですか?」

「あ、あの・・・一緒にいっても、良い?」

「もちろんです」


 そう答えると、のどかは嬉しそうにはにかんで私の手をとりました。

 私はそれに内心首を傾げつつ、のどかの手を引いてマクダウェルさんのもとへ。


「どうしましたか?」

「・・・ほら」


 何故かこちらは不機嫌そうに。

 その表情のまま、私に本を差し出してくれます。


 いえ、多分ですが、のどかを睨んでいます?


「ありがとうございます」

「・・・なんだ、宮崎のどか」

「ひぇっ!べ、別に何でもありません!」


 ?

 のどかが、マクダウェルさんのこと見つめていたのでしょうか?

 もしかしたら、のどかもマクダウェルさんと仲良くなりたいのかもしれません。


 ならば、私のするべきことは一つです。


「マクダウェルさん、放課後お暇ですか?」

「何故だ」

「ゆえ?」

「私どもは図書館探検部なのですが、今日一緒に図書館島にもぐりませんか?」

「・・・・・ええぇぇ!?」

「・・・貴様からの誘いとは珍しいな。良いだろう。今日は部活もないし、暇つぶしだ」

「ありがとうございます」


 マクダウェルさんも私も、のどかの驚く声を無視して話しをすすめます。

 躊躇っていては、友達になれないですよ、のどか。


 そうして、放課後。

 のどかは緊張からでしょう、カチコチしています。

 反対にマクダウェルさんはいつもと同じ様子です。


「パル、木乃香、部活に行きましょう」

「わかったえ〜。・・・?マクダウェルさんもなん?」

「部活を見学するためです」

「あ、そうなんや。一緒にがんばろなー」


 木乃香たちにも了承を取って、私たちは図書館島へ。

 そのまま、地下へと進みます。


「マクダウェルさん、御存知かもしれませんがここには罠が仕掛けてありますので、ご注意ください」

「こんなせこい罠に引っかかるわけないだろう」


 まあ、確かにマクダウェルさんがこういった罠に引っかかるとは思えませんが。

 彼女の実力はわかっていますし。


「のどか、パル、木乃香、準備は整いましたか?」


 マクダウェルさんに一応額に巻くライトを差し出しつつ、みんなの方へと顔を向けて確認です。

 ふむ、みんな準備万端ですね。

 っと、マクダウェルさん、ヘッドライトはそうやってつけるものではありません、お手伝いしますから。


「では、進みましょう」


 ヘッドライトのスイッチをいれて、いざ出陣です。


 で、地下へともぐるわけですが。


「なに!?」

「うお!」

「にゃ!?」


 と、マクダウェルさんが狙っているのではないかと思ってしまうほどに、罠に嵌っています。

 矢に網に、落とし穴に。

 本棚が倒れてくる、というのにも中りました。


 せこい罠には嵌らないのではなかったんですか?


「・・・マクダウェルさん、わざとですか?わざとですよね?」

「わざとなわけあるかーーー!なんなんだあの罠は!?」

「対・盗掘者用です」


 カチ、と音が鳴ると同時にマクダウェルさんへと矢が飛んできて。

 私はそれを横から掴み取って折りながら、思わず呆れた目を向けてしまいます。


「決めました。マクダウェルさんはきっと、運がなさ過ぎる人です」

「なさ過ぎるとは何だ!過ぎるとは!」

「でなければ普通、ここまで罠にかかりません」

「ぐっ・・・!」


 自分でも自覚があるのか、マクダウェルさんは言葉に詰まり私を睨みつけてきました。

 それくらいの睨みならば修行でいつも向けられているので、一切気にしません。

 むしろ可愛いです。


「2人ともー、大丈夫かー?」

「はい。今いきます」


 木乃香に返事をして、私はマクダウェルさんの手をとって歩き出します。


「ちょっ!離せ小娘!」

「初めからこうすればよかったんです。マクダウェルさん、私が歩いた道以外は歩かないでください」


 また引っかかりますよ?と続ければ、不機嫌そうに黙り。

 それでも、私の手を離そうとはしませんでした。

 可愛らしいです。


 む、ちょっと頬が緩んでますね。

 気をつけねば。


「・・・罠に嵌っていたとしても、放っておけば良いだろう。第一、矢で射られたとしても私は死なん」

「そうでしょう、死なないでしょうね。ですが、だからといって私は、友達が傷つくのを良しとするような人間ではありません」


 そう言うと、彼女は固まって。

 私は不思議に思いながら振り返ると、何故かマクダウェルさんは目を見開いて私を見ていました。


「どうしました?」

「きききき貴様今、友達と・・・っ」


 どもり過ぎです。

 落ち着くですよ。


「いけませんか?」

「っ私は、真祖だ・・・っ」

「真祖と友達になってはいけないと、誰が決めたですか?」


 そのまま歩いて、木乃香達のところへ。

 パルにからかわれましたが、手は離しませんでした。

 のどかの視線を凄い感じるですが。


「ゆえ・・・」

「のどか、どうしたん?」

「う、ううん、なんでもないよ・・・っ」


 のどかと木乃香の会話に、不思議に思って顔をそちらに向けますが。

 それよりも先に、マクダウェルさんの呟きが聞こえました。


「・・・馬鹿だな、”夕映”、お前は」


 ・・・驚きました。

 友達になりたかった人に認められることが、こんなに嬉しく思うだなんて。

 生まれ変わったと知ったときと同じくらい、胸が熱くなります。


「自分では、そうは思いません」


 私は、だらしない表情にならないよう気をつけながら、彼女の。

 ”エヴァンジェリン”さんの手を引いて歩きました。


 その日の夜、エヴァンジェリンさんの別荘での修行は今までで一番厳しいものでした。

 というのも、彼女曰く。


「私の友ならば、もっともっと強くあらねばらない」


 とのことです。


 まあ、強くなることに否はないから良いのですが。

 エヴァンジェリンさんの呪いを解くこともできるかもしれませんし。

 もっとも、それはまだまだ秘密です。




















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