【祐巳たん戦う】































「祐巳さん!」


 桂と帰っている時、背中からかけられた声。

 それに振り返るよりも先に、桂の「妖精さんvvv」発言で誰だか気がついた。


 やはりキモイです、この子。

 誰か逮捕してください。


 桂とちょっと距離をとりつつ、振り返る。

 そこには桂の言ったとおり、ヨウセイさん。

 もとい、藤堂さん。


「少し、お話ししたいことがあるの」

「桂、悪いけど先に帰って」

「そんな!私も一緒に!」

「帰れストーカー」


 手をワキワキさせるな。

 いい加減通報するよ?

 変態は、もうすでに我が家に1人いるんです。

 だから、これ以上近くに変態さんはいらないんです。


 しょぼん、として1人帰る桂の背中をしっかり見送って、あとをつけてこないことを確認。

 それから藤堂さんへと身体を向ける。


「どこで話すの?」

「ここではちょっと・・・。ついてきてもらっても良いかしら?」

「うん」


 連れてこられたのは、空き教室。

 そこで行われた暴露話。


 私の家はお寺で。

 私の夢はシスターで。

 本当はリリアンにいる資格はないの、云々。


 まあ、原作とほぼ同じお悩み、ということで。


「ちぇすとー」

「きゃっ」


 話すに従って鬱々とし始めたその頭に、チョップをしてみた。


 あら、可愛い悲鳴。

 なんてどうでも良い、一瞬の感想。


「ゆ、祐巳さん?」

「どうでも良いのです」

「え・・・?」

「私は、藤堂さんの家がお寺だろうが教会だろうが、いっそ万里の長城だろうが、果てしなくどうでも良いのです」


 ポカンとした顔の藤堂さん。

 意外とレアかも、というのはとりあえず端に置いておいて。


「私にとって、藤堂さんの住処など付属品なの。それであなたに対する、ボケボケ天然系の印象が変わるわけでもない」

「・・・祐巳さん・・・」

「というか、お寺住所の人がリリアンに入っちゃダメ、ってなったら、うちはどうなるの?」

「え?」

「我が家は、弟が花寺なんですけど?」


 姉がリリアンで弟が花寺のミックス家なんですけど何か?


 いと予想外、的な表情をした藤堂さん。

 それから数秒後、へたりこんで。

 乙女座りで、立っている私を見上げている。


 私はそんな彼女の前に屈みこんで、肩に手をおき。

 心からの優しい笑みを浮かべた。


「それとね、住所録見れば藤堂さんの家が何なのか、バレバレなんだぞ☆」


 訂正、生暖かい笑みでした。


「あ・・・っ」

「ちなみに我がクラスには、藤堂さんの家がお寺だって知れ渡ってるから」


 どこかのストーカーが喜々として喋ってたからね。

 だからといって、藤堂さんへの対応は変わってなかろう?

 桂への接し方は変わったけどね。

 必要以上に優しい対応へと。


 それを、愛されてるからv、と解釈する桂は大物だ。

 時おり、何故桂と友人なんだろう、と思う。

 ・・・アレの姉(グラン・スール)になる人も、きっと頭のネジが何本がないんだろうな・・・。


 今度こそ唖然とした顔で。

 けどすぐに、藤堂さんは私の胸に飛びついてきて。

 わっ、と泣き始めた。


 そんな彼女を受け止め、抱きしめる。

 とりあえず泣き止むまでこのままにしておこう、と思いつつ。


 ああけど、相変わらずシスコンの祐麒君をお迎えに行く約束をしていたんだったと思い出した。

























 3学年に上がりました。

 すでに季節は秋に入る頃。

 相変わらず桂は変態だ。


 と思っていたら、驚きの出来事勃発。

 藤堂さんが休み時間やら昼食の時間にやってくるようになって、一緒にいることが増えた。

 それに反比例して、桂のヨウセイさん大好きvv魂が減少していった模様。

 あのいついなくなるかわからない儚さが良かったらしい。

 趣味がマニアックすぎて、もはやなんて言って良いのやら・・・。


 本人曰く、

「思い出は思い出のまま心の中に・・・」らしい。

 ストーカーのお前と藤堂さん改め、志摩子との間に、思い出なんてないだろうが。

 ともかく、以前の桂に戻ったのは喜ばしい。


「ねえ、祐巳たん・・・んきゃっ!」


 桂にデコピン一発、強烈なのをお見舞いした。


「祐巳、たん・・・?」

「復唱しなくてよろしい」


 きょとんと首を傾げる志摩子に釘をさして、額を押さえて身悶えしている桂へと顔を向けた。


「その不愉快な名称で呼ぶってことは、よっぽどの内容なんだよね?」

「・・・祐巳たん、顔怖い」

「”たん”言うな。それで何?」


 もう一発同じところにデコピンをして、乙女らしからぬ呻き声をあげている桂に問う。


「あ、あのね、今度の日曜日に高等部の見学に行かない?」

「ああ、もうそんな時期か・・・」


 委員会でちょくちょく書類渡しに行くから、大体の構造は覚えちゃったんだけどね。

 それは多分、志摩子も同じだろうなー。


「良いよ。志摩子も行く?」

「ええ、ご一緒するわ。祐巳たん」


 とりあえずデコピンを一発お見舞いしてやった。


 そんなわけで、日曜日です。

 中等部の制服を着て出陣。

 案内してくれるのは、激しくやる気のない上級生。

 桂曰く、白薔薇のつぼみ、らしい。

 要するに、佐藤聖、なのだろう。


 やる気なさMAXの理由に一人納得。

 志摩子は何故か苦笑していて、桂と佐藤さんに気づかれないように囁いた。


「なんで苦笑?」

「・・・なんだか、少し前の私を見ているようで」


 なるほど。

 確か、佐藤さんが志摩子を妹(プティ・スール)にしたのは似てるから、だったか。


 その後もやる気ない校内説明は続けられ。

 私にとって、空気読めない、いわゆるKYの桂もいつものテンションでの会話は無理らしい。

 いや、桂の場合AKY、あえて空気を読まない、かもしれないけど。


 そんな、明らかな人選ミス加減に私が笑い出しそうになった頃。


 そいつは現れた!


「佐藤!」


 なんて濃い登場の仕方。

 今まで必要最低限の会話しかなかった静かな空間から一変、最大ボリューム。

 耳が痛いです。


「・・・なんですか」

「何をやってる!」


 見てわかんねーのかよ。

 中等部の制服を着た生徒をこの時期に校内連れて歩いてるんだよ?

 それも、日曜日に。

 普通、教師なら一発で理解できませんか?


 ギョロギョロした目してるくせしやがって、ただの飾りか?

 だったら病院で目玉取り替えてもらえ、コノヤロウ。


「来年入ってくる中学生の案内です」


 佐藤さんの返答に、ぎろりとこっちを睨む男性教師。

 ビクリと震えて桂は私の後ろに隠れて。

 志摩子も怯えたように、さり気なく私に近寄ってきた。


 ・・・こいつ、喧嘩売ってる?


「お前にそんなことできるのか?お前みたいな、顔が良いだけの落ちこぼれが!」


 あ、顔が良いのは認めるんだ。

 軽くキモイんですけどー(棒読み


 そのテンションで、手をあげてみた。


「せんせー、なにが欲求不満なのか知りませんけど、八つ当たり相手に生徒を選ぶのはどーかと思いまーす」

「・・・なんだ、お前」

「せんせー、初めて会った相手がいくら年下だからって、お前呼ばわりは不愉快でーす」

「お前みたいに頭の悪い奴はそれで十分だ!!」


 声でけーっつーの!


「うわ、祐巳ちゃん、この間の全国模試で1番だったのに、馬鹿って言われてる」

「違う違う、こういう場合で使われる馬鹿は、人間としての偏差値のこと。初めての相手にはそれなりの対応をしたり、子供だからって見下したりしないことを言うんだよ」


 遠まわしに馬鹿と言ってみる。

 さあ、こいつに皮肉が通じるか!?


「っ貴様!!教師に向かって!!」


 わー、通じたー。

 パチパチパチー(やる気ない拍手

 少なくとも、クロマニヨン人くらいの知能は有りかしら?


「まだここの生徒じゃないですしー」


 総じて、テンション低めでお送りしております。

 あしからず。

 って誰に言ってんだよー(やる気ないツッコミ


「ふん!この時点で貴様はここに入れると思うなよ!俺が手を回して入学で気ないようにしてやる!!」


 わー、そういうこと大声で言って良いんだっけー?


「別に良ーですよー。ただ、お祖母ちゃんに今せんせーが言った言葉そのまま伝えておきますけどー」

「は?」

「うちのお祖母ちゃん、高等部の理事長と学生の頃からの大親友なんですよねー。たまに、うちに遊びにきたりしますしー」


 本当だよ?

 佐織さんに今日のこといったら、是非理事長室によってね、って言われてるしー。


「な!?」

「あれですよねー。コネって、使える時に使うべきですよねー。最善尽くさずに後悔とか、目も当てられませんしー」


 あ、そうそう。


「ちなみにお祖母ちゃん、毎年リリアンに2千万ほどの寄付もしてるそうですよー」

「ぐっ・・・!!」


 株で総資産ウン十億だからねー、お祖母ちゃん。


「えっと、それで私が入学できないようにするんでしたっけー?・・・まあ、反対にせんせーが首切られない程度に頑張ってくださいねー」


 忠告してるように聞こえない?

 当たり前当たり前。

 むしろ首になれ。

 ケケケ♪


 唇を戦慄かせて、顔を歪ませて踵を返したせんせー。


「・・・祐巳ちゃん、あくどーい」

「コネは使ってこそ。っていうか、ボリュームでっけーんだよ。あの距離であの音量って、不愉快通り越して笑いそう」


 桂の言葉に、あっはっはと爽やかに笑って返す。

 そんな私を志摩子は微笑んでみていて、佐藤さんは引きつった顔で見ていた。


「あ、あなた、本当にリリアン生?」

「リリアン生全てが純粋培養なわけじゃないですからね」


 というか、前世の記憶持ちよ?

 純粋初な少女と一緒にしないでくださいまし。

 一応内面は40歳こえてましてよ?


「とりあえず、案内の続きお願いできます?」


 その後色々まわって佐織さんに会いにいったら、遅いと拗ねられて。

 途中でであった愉快なせんせーの話しをしたら、あらあら、と怖い笑顔を浮かべて。

 私以外が全員ビビッていた。


 私は慣れてるから別になんともなかったけど。

 お祖母ちゃんと2人でするときもあるしね。

 っていうか、家に帰ったら同じ笑顔を浮かべたお祖母ちゃんに出迎えられましたよ?

 佐織さんから電話がかかってきたみたいでーす。


 後日、何故かアドレス交換した佐藤さんからのメールにて、生気のないせんせーがいて、会うたびに怯えられるようになったと教えられた。

 なにがあったんだろうねー♪


















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