【祐巳たん軽く引く】
「祐巳ちゃん!私、桜の妖精さんに会ったの!」
・・・・・・・。
「オメデトウ」
桂がそろそろヤバイみたい。
中学に上がって、何か電波受信した?
朝、教室にやってきて開口一番に言ってきた桂。
キラキラお目々で満面の笑みの手前、出そうになった言葉を飲み込んで。
生暖かい目で、祝ってあげた。
「ふわふわの髪の毛でね!顔もとても綺麗なの!その顔は悲しそうで、それがまた綺麗だったの!」
「そうなんだー」
手を組んでポーっとする桂に適当に答えながら、授業の用意。
「ねえ、聞いてる?祐巳ちゃん!」
「聞いてる聞いてる」
あれ、もうノートがないや。
帰りにでも買わないと。
「また会いたいな〜・・・」
「そうだねー」
って、消しゴムがねぇ。
これも帰りに買いだね。
「彼女みたいな子を、西洋人形、って表現するんだわきっと」
「かもねー」
おっと、シャーペンの芯もねぇ。
そんな使った覚えないんだけどなぁ。
「どんなところに住んでるのかしら。私服はどんなの?どんなシャンプーを使ってるの?」
「・・・カツラサン?」
残りの一本をシャーペンに入れていた手を止めて、目の前のイタイ子に声をかける。
だが、相変わらず夢見る乙女顔。
別名、脳みそ溶けた怖い顔。
「祐巳ちゃん、今日の放課後暇!?暇よね!?あの子のこと知りたいんだけど、付き合ってくれる!?大丈夫、あとつけるだけだから!!」
「近づくなストーカー」
それは、私なりの遠くへ言ってしまった元友人への最後の優しさ。
けして本心ではない。
犯罪に走ろうとしている元友人を、止めようと思っての言葉なのだ。
そう、本心ではないのだ。
「祐巳ちゃんに迷惑はかけないから!」
「すでにかけてるから」
クラスメイトが、まるで私を同類のように見てくるじゃないか。
変なのこの人だけですから。
犯罪者予備軍はこの子だけですから。
「ね?お願い!」
「近づくな」
ああ、何度でも言おう。
この言葉は、けして本心ではないのである。
2年に上がって、学級委員なるものをさせられた。
激しく不満だ。
不満すぎて、頬もパンパンだ。
それもこれも、何が面白いのか、クラス全員が推薦してくれやがったせいだ。
何が、その不満そうな顔が可愛い、だチクショー。
クラス全員が病んでる。
または、集団イジメか。
まさか、最近いわれている社会問題がリリアンにも発生するとは。
学校裏サイト?
「福沢さん、お願いがあるんだけど」
「嫌です」
「できればこの書類を、高等部のほうに持っていってほしいの」
「だが断る」
「お願いね」
「・・・(プク」
「あら可愛い♪」
聞いちゃいねぇ。
たしかに、今まで何度もあったやり取りですけど?
けど、無視とかいけないと思いまーす。
「祐巳さん、私も行くわ」
「・・・(こくん」
「ふふ///」
同伴を申し出てくれたのは、桂曰く、サクラノヨウセイさん。
私は頬をふくらませたまま頷いて。
2人並んで、歩いて10分ほどのところにある高等部へと。
校舎へと続く道を歩いていると、マリア様の前でヨウセイさんは停止。
即お祈り開始。
私はそれを後ろから傍観。
高等部まで着てお祈りとか、普通にごめんなさい。
「知ってる?サクラノヨウセイさん」
「え?さくらのようせいさん?」
おっと間違えた。
テイク2。
「知ってる?藤堂さん」
「え、えっと何がかしら?」
「桜の木の下には、死体が埋まってるらしいよ」
「・・・・・・」
数秒沈黙、藤堂さんはニコニコ笑顔で、頭の弱い子を見る視線。
すべったらしい。
もう少し反応してほしかった、という儚い願いは叶えられなかった。
現実はとても厳しいのです、要チェック。
「それはどうでも良いとして、藤堂さんってよく桜見てるでしょ?」
「ええ、よく知ってるのね」
ストーカーが近場にいますから。
歩き始めると、藤堂さんも隣に並ぶ。
そんな彼女を見ず、視線はまっすぐ。
「それって、自分と重ねてるから?」
「っ・・・どういう、意味かしら?」
「深い意味はないけどね。儚く散る桜を、自分に重ねてるのかな、と」
「・・・・・・」
「別に、藤堂さんの事情を知っているわけでもないし、藤堂さんの在り方に文句を言うつもりはないけどさ」
ちらりと見れば、無表情。
けど、それは多分感情を押し込めているゆえのもの。
原作知識って、反則ですよね。
「そんな風に、”私は誰かと馴れ合ってはいけないの”的な日常送ってて、楽しい?」
「っ!!?」
息をのむような音。
それはどこか、悲鳴にも聞こえた。
「そんな風に過ごしてるから、サクラノヨウセイ、なんて実際にいないものに例えられちゃうんだよ」
「・・・祐巳さんには、わからないわ」
「わからないよ。わかるはずがない。私とあなたは違う人間だもん。けど、そうやって【私のことなんて誰もわかってくれない】なんて諦めてたら、いつか後悔するよ」
「そんなことっ!」
「思ってないって言える?・・・後悔しないって、断言できるの?」
足を止めてその目を見つめると、瞳が揺れていた。
今にも泣き出しそうに。
今にも逃げ出しそうに。
「私には藤堂さんが、背負わなくてもいい悲しみを背負ってるようにしか見えない」
「・・・っ!」
その後、私たちは無言のまま書類を渡し、中等部へと戻っていった。
ブラウザバックでお戻りください。
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