【祐巳たんキレる】
あれ?祐巳の母親って、こんなだっけ???
私が福沢祐巳として生まれてから、4年が経った。
マリみて自体は祐巳の1年生時を流し読みした程度なので、詳しいことは知らない。
ただ、彼女ってこんな性格だったっけ?
それが、最近疑問で疑問でしょうがないこと。
っていうか、確実にオーバーワークなんですけど。
習い事5個とか、ありえないと思わない?
酷い時は、1日に3つの習い事をこなさなくちゃいけない。
ああ、これ嫌がらせだ。
ふと悟る。
人を”祐巳たん”とかふざけた名前で呼んでくるのも。
その時、危険なくらいとろけた顔で引きつった私の顔を見つめてくるのも。
いや、福沢家の両親がちょっとおかしいのかもしれない。
このあいだ、そろそろ私たちに部屋をそれぞれ与えようか、という話しを父が切り出した。
ちょっと心惹かれるので、私は大いに賛成、祐麒はお姉ちゃんと離れるの嫌、と反対。
父は言いだしっぺなので賛成派のはず。
だというのに。
それだと祐巳たんが私の膝の上に座ってくれなくなっちゃう!
・・・それもそうか。
え?え?ええ?
何その会話?
何で納得した、父よ??
それと”たん”をつけるな。
で、そのまま個室の話しはお流れに。
もうちょっと成長したらね、とのこと。
乗せられなくなったらねvという声、バリバリ聞こえましたよ?
祐麒は満面の笑み。
私は不満ながらも、もともと絶対欲しいと思っていたわけでもないのでさっぱりと諦めて。
ただ、喜々として私と祐麒の写真を撮るのは止めてもらいたい。
私が写ってる写真って、大概そういう顔なんだけど。
もうちょっと笑顔を撮るとかしようよお母様。
まあ今さらなので、それほど嫌というわけではないけど。
もとい、諦めた。
「おねえちゃん?」
「なんでもない。気にしなくて良い」
幼稚舎に向かう送迎バスを待っている時、祐麒が不安そうな顔で覗き込んでくる。
昨日のことを思い出して、ちょっと遠い目をしていたよう。
私は苦笑をこぼし、そんな祐麒の髪をなでてやる。
私と同じ癖っ毛のはねた髪。
祐麒は私の手を、嬉しそうにしながら受け入れている。
「ゆみちゃん!」
そんな私にかけられる声。
いつの間にか来ていたバスの窓から、桂が声をかけてきたのだ。
「今行く。それじゃあ」
「うん、いってらっしゃいおねえちゃん!」
「気をつけるのよ、祐巳!」
母の言葉をスルーして、もう一度祐麒の頭を撫で、バスに乗り込んむ。
「おはようゆみちゃん!」
「おはよう、桂」
「うん!」
満面の笑みを浮かべた桂の隣に座り、窓の外を見る。
そこには小さな背で一生懸命私を見上げる、可愛い弟の姿。
そんな彼に手をふれば、身体全体で手をふり返してくれる。
その姿は、素直に可愛らしいと思う。
とりあえず、その隣で必死に手をふる母にも一応手をふり返しておいた。
小等部に上がった。
あのオーバーワークは相変わらずで、それでもめげずに頑張る自分を褒め称えたい。
私は小笠原家長女ですか?
違う?
いや、知ってますから。
とりあえず、今まで頑張ってきたわけです。
駄菓子菓子、そろそろ限界。
十分頑張ったよね?私。
ということで。
「やってられるかーーー!!」
ビクッと震えた祐麒。
あ、ごめん。
「どうしたの?祐巳たん」
「母さん、私は習い事を止める」
それと”たん”言うな。
それにその呼び方ってことは、私が爆発することわかってたな?
脳みそ溶けたような笑顔しやがって。
「全部?」
「空手以外」
「はーい」
だから、今の顔を写真に撮らないでって。
そんな感じで、空手だけとなった私。
一気に出来た暇な時間。
とりあえず、祐麒に強請られて遊んだり、本を読んだりしてる。
一気に暇になったせいで、それはそれで微妙だと気づく年頃。
いや、もちろんまたあの生活に戻りたいわけじゃないけど。
そんな、母との攻防を繰り広げる小等部の日常。
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