【お見舞い】
目が覚めたら、目の前には祥子さまのお顔があって。
「っ!?」
「大丈夫よ、落ち着いて」
握られた手の甲を、そっと撫でられる。
何故かそれだけで、私は恐怖が和らいだ。
「先生は、学校へ報告に帰られたわ」
「・・・・・・」
「私?私はあなたにこんな怪我をさせてしまったんだもの。その責任があるわ」
祥子さまのせいではないと伝えるために首を横に振るけど、祥子さまは綺麗な笑みを浮かべて同じように首を横に振った。
「いいえ、私のせいだわ。あなたは、私を助けようとして怪我をしたんだもの」
そう言って、私に頭を下げて。
その行為に、慌ててしまう。
「っ」
「良いの、無理に話さなくて。というか、話せないのでしょう?」
「・・・・・・・・(こくん」
「だから、良いの。その原因も、私にあるのだし」
それこそ違うのに。
否定するために体を起こそうとするけど、祥子さまはそんな私を押さえて制した。
初めて見たような、綺麗な微笑を浮かべて。
「まだ起きては駄目。寝ていなさい」
あまりに優しい表情をなさるものだから。
あまりに優しい声でおっしゃるものだから。
意識とは関係なく、私はそれに従っていた。
「一週間入院してみて、その経過を見て退院を決めるそうよ」
「・・・(こくん」
「・・・私がこんなことを言うのもおかしいけれど。早く、良くなってちょうだいね」
きゅっと、手を握る力が強くなったのを感じて、私も微笑んでその手を強く握り返す。
そうすると、祥子さまも綺麗に微笑んでくださった。
今の状態の私が、見惚れるくらい、綺麗な笑みを。
「祐巳、傷のほうはどう?」
あれから1週間、祥子さまは毎日お見舞いに来てくださる。
何をキッカケにしたのかは覚えていないけれど、祥子さまは私を呼び捨てで呼ぶようになった。
起こしていた体を祥子さまに向け、微笑んで答える。
大丈夫です、という意味の。
祥子さまはそれを読み取って、微笑み返してくれた。
「そう。それならば良いわ」
「ごきげんよ〜」
祥子さまに続けて入ってこられた方。
私がそれに目を見開いていると、続々と。
その中には志摩子さんや由乃さんもいて。
そう、山百合会の方々がいらしたのだ。
「祐巳さん、ご加減はどう?」
「ごめんね?祐巳さん。昨日はこられなくて」
志摩子さんに頷いて、由乃さんには首を振って答える。
2人も、毎日はさすがに無理だから、2日に1度くらいの割合できてくれた。
それでもとても、嬉しい。
「あなたが祐巳ちゃんね。初めまして、私は水野蓉子よ」
「初めまして、佐藤聖だよん」
「初めまして、鳥居江利子よ。これからよろしくね」
「初めまして、支倉令だよ。それで、怪我、大丈夫?」
みなさんに、頭を下げる。
皆さん、それに笑顔で返してくださった。
「ごめんなさいね、祐巳。お姉さま方が、祐巳にどうしても会いたいとおっしゃられて」
「・・・(ふるふる」
「あら、祥子。あなたを助けた恩人に、感謝をのべさせてもくれないの?」
「ですが、これほど大勢では」
ため息をつく祥子さまの袖をつかんで、もう一度首を横に振る。
祥子さまは優しい微笑を浮かべると、そっと私の手を握ってくださった。
私も、握り返す。
「あらあらv」
「まあまあ♪」
「江利子も聖も、くだらないことを言わないで」
蓉子さまは何故かお2人を叱り、私に顔を向けてくる。
「今回のことは、本当にありがとう。あなたのおかげで、祥子が傷つかずにすんだわ。最悪、あなたを傷つけた釘で祥子が死んでいたかもしれない。本当に、感謝しているの。ありがとう」
「・・・お姉さま・・・」
「・・・・っ」
そして、頭を下げてそうおっしゃった。
一瞬理解ができなかったけれど、すぐにハッとして蓉子さまの肩に手を置いた。
それは右手だけど、触れるぶんには問題ないくらいには回復しているから。
顔をあげてくださるように促して、顔をあげてくださった蓉子さまに微笑んだ。
蓉子さまは潤んだ目で微笑み、私の右手を痛まないようにか、そっと握ってくれる。
私も、傷口が開かないように気をつけながら、ゆるく握り返した。
「本当に、ありがとう」
「・・・・(ふるふる」
首を横に振ったあと、頭にかかった負荷。
顔を少しあげると、何故か聖さまが笑顔で私の頭をなでていて。
「?」
「いや、祐巳ちゃんて良い子だな〜って思って。思わず撫でてるの」
良い子だなんて言ってもらえて、顔が熱くなった。
それでも、顔を軽く下げれば。
何故、ギュッと抱きしめられた。
「っ!?」
「白薔薇さま!」
「聖!」
「だって、すっごく可愛いんだもん、祐巳ちゃん♪」
「そうね。私もそれに同感だわ」
今度は、江利子さまからナデナデ。
こんなことを他人からされたのは初めてで。
どうすれば良いのか、わからない。
だから、思わず助けを求めるように、祥子さまを見上げてしまった。
「お2人とも、祐巳が困っていますわ」
そんな祥子さまの口から出た、低い声。
思わずそれにビクついてしまう。
すると、聖さまの抱きしめてくれる手が、
江利子さまの頭を撫でてくれる手が、
穏やかなものへと変わった。
大丈夫だと、そう言っているかのような。
「そんなことないよね?祐巳ちゃん♪」
「そうよね。むしろ、喜んでくれているはずよ?ねぇ?」
なのに、お2人はまるで祥子さまを煽るようで。
思わず、ドキドキしてしまう。
「祐巳!」
「っ!!」
「どうなの!?あなたは、お2人にそんなことをされて嬉しいの!?困っているの!?どっち!!」
そんなことを聞かれても、答えられない。
嬉しいと答えれば、きっと祥子さまは怒ってしまわれる。
けど、困っていると答えれば、お2人の優しい手が離れてしまう。
あたふたとしていると、
「祥子、落ち着きなさい。聖と江利子も、祥子をからかわないでちょうだい。ここは病院なのよ?TPOを弁えなさい」
いまだに私の手をとっていた蓉子さまがそうおっしゃった。
聖さまと江利子さまは渋々離れ、祥子さまも落ち着かれて。
蓉子さまは凄いと、内心思ってしまう。
「ごめんなさいね、祥子たちが迷惑をかけて」
「っ!(ふるふる」
「ありがとう」
今度は、蓉子さまが頭を撫でてくれる。
「お姉さま・・・!」
「あ、結局自分も撫でてる」
「良いとこ取りね」
蓉子さまは、そうこぼしたお3方を、何故か睨んだ。
少し、怖かったです。
ブラウザバックでお戻りください。
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