【避けるべきこと】































「「・・・・・・・」」

「写真を見る限り、これよね」

「でも、志摩子さんに似合っても、祐巳さんに似合うかどうか・・・」

「って、あら。無地じゃないじゃない」


 こら、そこのカツラさん。

 凄い残念そうにわたしを見ないで。

 なんか、腹が立つから。


「・・・・はぁ。ごめんね?志摩子さん。せっかく、山百合会の用事もないお休みなのに」

「あ、良いのよ、気にしないで。それに、今まで誰かとこうして休日にお出掛けすることって、一度もなかったからとても楽しいの」


 ふんわりと微笑む志摩子さんは、本当に良い人だな〜、と思った。


 わたし達は今日、文化祭で使う夜蝶の衣装を選ぶために色々な服屋を見て回っている。

 このお店で、もう5軒目。


 それというのも、夜蝶の衣装は全て無地の黒で統一されているため、お店では販売されていないのだ。

 和服、洋服、色々レパートリーがあったりするんだけど、どれも必ず黒尽くめ。

 それらは、歴代の夜蝶たちが使っていた服で、今わたしが使っているのはお母さんが着ていた服。

 今度、和服にしてみようかな、と思案中。


「そう言ってもらえるなら安心だけど、疲れたら言ってね?」

「・・・ありがとう、祐巳さん」


 嬉しそうに微笑んだ志摩子さんに微笑み返したところで、背中から圧し掛かられた。

 同時に、目の前に広げられる、無地の黒いTシャツ。

 犯人は、桂さん。


「こんなのしかなかったわ」

「黒一色っていうのは、確かになかなかないよね。どうする?他のお店に行ってみる?」

「残念だけど、ここら辺はすべて見てまわっちゃったのよね」


 わたしの問いに答え、蔦子さんはため息。


「それじゃあ、どうするの?」

「もちろん、作る!」

「嫌そうな顔しないでよ、祐巳さん。誰が言いだしっぺ?」

「蔦子さんと桂さん」

「そうと決まれば、布地の買出しよ!」


 蔦子さんに即答すれば、そのまま無駄に決意してスルー。

 桂さんは桂さんで、意気揚々とわたしと志摩子さんの手をとって歩き出しているし。


 まったく、この2人は・・・。


 浮かぶ苦笑をそのままに、わたしは桂さんに手を引かれて歩いた。


 そのあと、生地を買って蔦子さんの家へ。


「こんにちは、2人とも。よく来てくれたわね」

「小母さん、こんにちは」

「お邪魔します」


 わたしと桂さんが蔦子さんの小母さんに挨拶をすると、小母さんは志摩子さんに気がついた。


「あら?・・・確か、山百合会の子じゃなかったかしら?」

「小母さん、白薔薇のつぼみの、藤堂志摩子さんよ」

「藤堂志摩子です。初めまして」

「初めまして。蔦子の母よ」


 きっちりと頭を下げる志摩子さんに、小母さんはおっとりと微笑み返す。

 小母さんは気がついたら写真を撮りにいなくなってしまう蔦子さんとは逆で、どちらかといえばマイペースな方。

 まあ、蔦子さんも、マイペースといえばマイペースだけどね。


「母さん、確か裁縫得意だったわよね?」

「ええ。何か作るの?」

「これよ!」


 蔦子さんはあの写真を小母さんに見せる。

 すると、


「夜蝶さまね♪私の時と変わらず、凛々しくてらっしゃるわ・・・・」


 そう、蔦子さんの小母さんも、夜蝶ファン。

 正確に言うと、お母さんが夜蝶だったときのファンらしい。

 本人曰く、かなり熱烈だったとか。


 嫌な遺伝をしてるな、って聞いたときは凄い思った。


「そう。それでね、私たち、夜蝶さまの衣装を作ろうと思ってるのよ」

「任せて」


 いつもののんびりした様子はどこにいったのかと、問いたくなるほどに、今の小母さんには気迫があった。

 ・・・この親子、怖いなぁ・・・。


 そのあと、何故か、本当に何故か、小母さんが衣装を担当することになって。


「なんか、暇になっちゃったわね・・・」


 蔦子さんの自室、桂さんがそうこぼした。

 うん、わたしもそう思ってたところ。


「ごめんなさいね。母さん、夜蝶さまが絡むと周りが見えなくなるから」

「(蔦子さんが言えることじゃないけどね)」

「さすが親子」

「ありがとう、桂さん」


 え?今の、褒めてたの?


「けど、わからないでもないわよね〜。こんなに素敵な方なら」

「ええ。薔薇のように気高い雰囲気。鷹のように夜空を飛ぶ雄大なお姿。鮮やかな色をもつ、美しい羽。どれをとっても素晴らしいわ!」

「(うわぁっ、すっごく居辛いっ!)」


 そう思いながらも、褒めてもらって軽くテンションが上がってしまう、わたしを許してください。


「けれど、怪盗は悪いことよね?」

「(・・・その通りです)」


 そして、志摩子さんの当たり前な問いかけに、軽くテンションが下がるわたし。

 うん、下がるというか、もとに戻ったというか。


 すいません。

 なんだか、罪悪感を感じます。

 マリア様のような志摩子さんに言われると。


「わかってないわね、志摩子さん」


 チッチッチ、なんて指をふって古い表現を使う桂さん。

 あなたはいくつ?


「どんな警戒網さえ歯牙にもかけず、するりと盗み取るスマートな技術!かといって、誰にも姿をさらさず、なんてコソコソしたマネはせず、その美しい姿を惜しげもなくさらし、悠然と去っていくその姿!あれほど素晴らしい方が、どこにいるというの!?」

「ええ。まるで、モーリス・ルブランの小説の主人公、アルセーヌ・ルパンのようよね」

「(わたし、あそこまで凄くないけど・・・・)」


 変装しないし。

 詐欺師でもないし。

 冒険もしないよ?

 比べる人、絶対間違えてると思う。


 なんだか白熱している桂さんと蔦子さんを、とりあえず笑いながら見る。

 空笑いかもしれないけど。


「けれど、いけないことはいけないことだわ」

「・・・わかったわ。なら、これを見てもまだそれが言える!?」


 蔦子さんはまたまた写真を取り出して、志摩子さんに見せた。

 いや、姿見たからって、意思が変わるわけじゃないよ?


「・・・・・・・・・」

「(え?無言?)」


 反応がない志摩子さんの顔を覗き込むと、軽く目を見張ってその中にいるわたしを見つめている。


「「志〜摩〜子〜さ〜ん vv」」

「っ!と、とにかく、私は、こういった服を着れば良いのねっ?」

「え?回答は?」

「こらこら、追求したら駄目だよ、祐巳さん」


 またしても圧し掛かられる。

 軽いから苦しくはないけど。


「どういう意味?」

「志摩子さんも、私たちの仲間入りをした、ってことよv」


 機嫌よさそうな桂さん。


「・・・・・・・・」


 思わず志摩子さんを見ると、志摩子さんは頬を赤らめてオロオロ。


「(えぇ〜・・・うそぉ・・・っ)」


 予想外の展開。


 と、志摩子さんがいまだ持っている写真がちらりと見えた。

 それは、わたしがマリア様の前でヘアピンを探しているもので。


 勢いよく蔦子さんを見た。

 蔦子さんはそれに気づくと、まるでチャシャ猫のような笑みを浮かべて眼鏡を押し上げて。

 凄く、悪い顔。


「(わざとだ・・・!)」


 この人、わざと、蔦子さん命名の、あの”黒と白の逢瀬”を見せたんだ!

 マリア様を敬愛している志摩子さんを、落とすために。


 なんて悪どい!

 そして、なんて恐ろしい!

 彼女に、私が夜蝶だということがバレた暁には、どんな恐ろしいことが待ってるんだろう・・・!


 絶対、バレてしまうのは避けなくちゃ!!

 何されるか、わかったものじゃないよ!?


「あれ?祐巳さん、なんだか震えてる?」

「あ、き、気のせいだよ、桂さん」


 いまだ抱きついたままの彼女に、わたしは何とか笑顔を返した。





















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