【3人の日常?】































「主、もう遅い時間です。そろそろ、帰りましょう」

「いや」

「主」

「ヤ・・・」


 敬愛する主の拒否に、長身の美少年と見紛う美少女は、ため息をついた。


 持っているのは、互いに刀。

 警察に見られれば、不審者として追われることは間違いないだろう。


「わかりました。後1時間だけ、この辺りを見回りましょう」

「・・・・」

「不満そうにこちらを見ても、それ以上は延ばしません」

「・・・・」


 拗ねたように口を少し尖らせるのは、可愛らしい顔立ちの少女。

 外見を見れば高校生あたりに見えなくもないが、仕草が幼いゆえに見る者が見れば中学生にでも見えてしまうかもしれない。


 そんな時、長身の少女の持っていた携帯が震えた。


「はい」

『いつまで、主様に見回りをさせる気?もう、丑の刻よ?』

「だったら、あなたからも主に言ってくれる?」

『・・・変わりなさい』

「主」


 携帯を差し出され、少女は無表情ながらどこか慌てたように首を横にふった。

 しかし、ダメです、と手にムリヤリ渡され。

 しゅん、とした様子で携帯を耳に当てた。


「なに?」

『主様、もうすでに代わりの者が見回りを始めております。今日は、もう鬼を狩るのは諦めて、ご帰還くださいませ』

「でも・・・」

『主様の”でも”は聞きません。それに、それ以上は日常にて支障が出てしまわれます』

「うぅ・・・」

「私を見ても、変わりませんよ?」


 長身の少女を、助けを求めるように見上げるが、笑顔でそう返されてしまう。

 そんな彼女を再び不満そうに見れば、苦笑しながら頭をなでられる。


 その苦笑が柔らかくて、優しくて。

 少女は、恥ずかしそうに俯いた。

 その手を、嫌がることができなかった。


『・・・早く帰ってきてください』


 そんな2人の雰囲気を敏感に感じ取ったのだろう。

 電話の向こうの相手が、不機嫌そうに。


「わかった・・・」


 幾分か、まだ渋々といったものを残しつつ、少女は相手に了承を告げ。


「では、帰りましょう。主」


 切った電話を受け取り、長身の少女と少女は並んで自宅へと戻った。


 一見、何の変哲もない家の玄関をくぐり、長身の少女がドアノブの真ん中にある突起を押す。

 知らないものがみれば、少し前まで流通していたドア鍵に見えてしまうだろうソレ。

 けれど、それを押した途端2人の立っていた玄関がスーッと音もなく下がった。


 ぴたり、と止まったそこは、純和風なお屋敷の玄関。

 地下にあるべきものではないその建物のつくり。

 それに2人は驚くことなく、歩みを再開させた。


 そんな2人を出迎えたのは、黒髪の美少女。


「お帰りなさいませ、主様。白虎」

「ただいま・・・」

「ただいま、青龍」


 2人の返事に微笑んだ黒髪の少女は、ゆっくりと少女の体を抱きしめた。


「ご無事で何よりです」

「2体だけ・・・」

「2体だけだとしても、鬼は鬼。油断は出来ません」


 にこりと微笑み、彼女は少女の頬に入った一本の赤い線に触れないよう、頬をなで。

 少女はそれをくすぐったそうに体をひねる。


 黒髪の少女は、そんなことで簡単に逃がしはしなかったけれど。


「それくらいにして、青龍。主が困ってらっしゃる」

「あら、主様。お嫌ですか?」

「・・・(ふるふる」


 少し頬を染めながら首を横にふる少女。

 そんな少女を抱きしめ、彼女は嬉しそうに笑い。

 続いて、挑戦的な笑みを長身の少女に向けた。


「ですって。喜んでくださっているわ、主様は」

「・・・・・・・」


 長身の少女は眉を少しだけつり上げて、黒髪の少女を睨みつけ。

 すっと、刀の柄に手を置いた。


「青龍。それ以上の行為は、私が許さないよ?」

「主様が許してくださっているのに?」

「主の心はお綺麗だから、あなたの下心にお気づきになられていないの」

「それは、あなたではなくて?白虎。鼻の下を伸ばして、いつも主様に邪な視線を向けるのはどこの誰だったかしら?」

「それこそ、青龍には言われたくないな。主を抱きしめると見せかけて、そのお身体に触れる不届きものでしょ?」


 なんだか、段々と2人の間が剣呑になってくる。

 火花が散り、視線は互いを睨み合い。

 互いに、腰にさした刀に手をかけ。


「駄目・・・」


 だがそれも、自分たちが愛してやまない存在の一言で、沈静。


「喧嘩は、駄目・・・」

「申し訳ありません、主様」

「お許しください、主」


 少女の前に片膝をつけて、2人は頭を下げる。

 まるで、王に仕える武官のように。


 少女はそんな2人の前に屈み、顔をあげさせた。


「喧嘩、しない・・・?」

「もちろんです、主様」

「はい」


 真剣な顔で頷く2人。

 少女はそんな2人の頬に、ちゅっちゅ、と口付け。


「仲直り、ね・・・?」


 はにかむように、小さく笑う。


 その威力は絶大で、途端に2人は表情を崩し、嬉しそうに頬を染め、微笑んだ。


「はい、主。では明日も学校ですので、お部屋に戻りましょう」

「今日は布団も干しましたから、きっと気持ちが良いと思いますよ、主様」

「うん・・・」


 立ち上がった2人の手をとり、少女は歩き出す。


 2人も歩き出し、そして顔を見合わせた。

 それは幸せな微笑。


 可愛い人だ。

 ええ、とても。


 そんな、アイコンタクト。

 長年いて、相棒と呼べる存在となったからこその意思疎通。

 そして、お互い想う相手だからこそ伝わる、というのもある。


 さてさて、2人は想い人の可愛らしい寝顔に、今晩も我慢ができるのだろうか。





































 水野家。

 支倉家。

 島津家。


 この三家は、ある家に仕える家であった。

 古来より剣術を使い、主をお護りするのがお役目。


 その家とは、

 福沢家。


 鬼、と呼ばれる悪行を行う悪妖を退治するのを生業とした裏では有名な家。

 その世界では知らぬものはいない、とまで言われるほどの名家であり。

 その世界に関わらぬものは、一切知らない無名の家名。



 水野蓉子。

 彼女が、現福沢家当主である福沢祐巳に仕えるようになり、水野家が代々受け継ぐ”青龍”の名を襲名したのは、まだ10に満たぬ頃。


 蓉子は初めて見たときから、彼女が自らの仕えるものだと認しており。

 子供としては怪奇な、無表情、無口、無感情という三無いがそろった祐巳を気味悪がることなく、尽くしてきた。

 剣を磨き、技を磨き。

 その名が、裏の世界に祐巳の名と共に知れ渡るくらいには、実力を身につけた。


 性格は穏やかで優しく、世話焼き。

 だが、祐巳が絡むと途端に嫉妬深くなったりもする。

 ゆえに、常に令と祐巳を取り合っている。


 それは、”大切な主”という心から、いつしか気持ちは思慕へと変わったがからであり。

 日々、鬼と戦いながらも、理性とも戦っている忙しい少女。


 ちなみに表での性格は、本来と大差はない。



 支倉令。

 蓉子よりも一つ下の彼女は、やはり1年遅れで祐巳に仕えるようになり、支倉家が代々受け継がれる名、”白虎”を襲名した少女。

 剣技は天賦の才か蓉子にも勝り、ゆえに、祐巳と共に外回りに出ることが多い。


 蓉子同様、初めて見たときから祐巳を主と定め、自らを律して剣術の腕を磨いてきた。


 性格は、穏やかではあるものの自分に厳しく、他人には幾分か甘い。

 自らを常に律し、鍛錬は時間が空けば蓉子と手合わせをして力をつけようとする。

 もちろん、こちらも蓉子同様、祐巳に関すると途端に嫉妬深くなる。

 付け加えるなら、蓉子よりも若干エロス。


 祐巳への想いは、1年後輩だからか蓉子よりも自覚するのが遅く。

 それでも、蓉子と張り合えるくらいには祐巳を想っている。

 こちらも、日々鬼や理性と戦っている。


 ちなみに、表の性格は情けないヘタレ。



 島津家。

 祐巳に使えるべき一人娘が、心臓の病を抱えているため仕えることができないでいる。

 本来ならば、”朱雀”の名を受け継いでいるべき少女。

 だが、病気が治るまでは秘密に、という祐巳の気遣いにより、令と蓉子、そして祐巳の裏(本来)のことは、一切知らない。



 福沢祐巳。

 幼い頃からその頭角を現しており、すでに5つの頃には当主となることを決定付けられていた。

 その世界では、福沢家に祐巳あり、と言わしめるほど。

 蓉子と令の名と共に、その名は裏では有名。

 だが反対に、親族達の間ではその”三無い”で気味悪がられており、裏での友人は2人以外いない。


 ”三無い”ではあるが、性格は極めて優しく、他人思い。

 心は、2人が想いを告げるに告げられないほどに真っ白で純真。

 令か蓉子が止めなければ、一日中鬼探しをするほど。


 幼少の頃から蓉子たちと共にいたからか、2人をお姉ちゃん、と認している節があり。

 まだまだ、2人の想いのが届くのは程遠い?

 それでも、2人の頬にキスをしたりなどと、心をかき乱すようなことはしたりする。


 表での性格は、明るく元気な、平凡を絵に書いたような少女。




 これは、そんな少女達の物語。


































「お待ちなさい」


 呼び止められたのは、偶然。

 それとも、運命?


 そんな、いつもとは違う朝の出来事。

 まさかそれが、平凡に徹していた彼女の生活を揺るがすとは露とも思わなかった。





「彼女が、私の妹(プティ・スール)ですわ!」


 蓉子は。

 令は。

 周りにバレないように頭を抱えた。


 ぶつかったのは認めよう。

 まさか、それが敬愛する者だったのは予想外だが、学校でも祐巳を見れたのだから良し、ということにして。


「けれど、これはいただけないわ・・・」


 聞こえたのは、きっと令だけ。

 だから、令はそれに小さく首肯を返す。


 ちらりと2人が祐巳を見れば、戸惑ったように。

 助けを求めるように自分達を見ており。


 それに思わず萌え・・・。


 いや、思ってない。

 思ってないといったら、思っていないのだ。


 頭に浮かんだ感情にとりあえず蓋をして、そ知らぬ顔で祥子に名前を問いかけた。


「それで、その子のお名前を教えてくれるかしら?祥子」

「それは・・・。お姉さま方に、自己紹介なさい」


 蓉子はピンポイントで祥子を指名したのだが。

 まあ、ここにいる誰もが予想していたことだろう。

 祥子が、祐巳の名前など知らないと。


「え、えっと、1年桃組、35番 福沢祐巳です!」


 勢いよく頭を下げる祐巳。


 本来の性格を知っている2人にしてみたら違和感バリバリ。

 知らないものから見れば、かなり普通の生徒として映るだろう。


「そう。・・・で、その祐巳さんが妹(プティ・スール)だと?」


 今、主様のことを名前で呼んでるわ、私・・・。


 蓉子が軽く桃色世界にトリップするが、周りから見れば威厳のある紅薔薇さま。

 祐巳同様、かなり分厚い顔の皮である。


「何か問題でも?」

「問題はないけど。・・・どう見て、祐巳ちゃんと祥子は今会ったようにしか見えないんだけどな〜」


 祐巳”ちゃん”だって(ですって)!?

 不届き者め!!刀の錆にしてくれる(あげるわ)!!


 そんな視線で聖を見る、令と蓉子。

 それに寒気を感じたのか、身体を震わせて辺りをキョロキョロと見る聖。

 2人は一瞬でその視線をとき、何もなかったかのように祐巳を見た。


 祐巳はそんな2人に気づき、きょとん顔。

 思わず2人は祐巳から、違和感なく目をそらす。


 可愛い・・・!!


 2人の思っていることなどわかることなく、祐巳はとりあえずオロオロとした対応をしておく。


「誰になんと言われようと、祐巳は私の妹(プティ・スール)ですわ!」


 祐巳だって(ですって)!!?


 凄い殺気。

 思わず、3人を抜かした全員が肩を震わせてしまうくらい。

 それに気づき、2人が慌てて殺気を納めれば、今のは一体?といった顔で辺りを見渡す祥子たち。


 そんな中、祐巳が訝しげに2人を見ていて。

 2人は慌ててそんな祐巳から目をそらした。


 それを誤魔化すように令も蓉子も率先して話しに加わり。

 祐巳を、大いに戸惑わせた。


 結局。


「じゃあ、祥子が文化祭までに祐巳ちゃんを妹(プティ・スール)に出来なかったら、素直にシンデレラをやってもらうからね」

「わかっていますわ、白薔薇さま」


 ・・・・あれ?


 冷や汗たらり。

 目だけで、蓉子と令は視線を交わした。


 ・・・なんだか、おかしな方向に物事がいってますけど・・・。


 ある意味自業自得。


 その夜。

 祐巳が目も合わしてくれず、2人は大いに凹むのだった。























 あとがき。


 令がカッコイイお話しが書きたくて書いたものです。

 けど、結局へタレ?

 難しいなぁ・・・


 ちなみに、続き物でもないのに玄武はまだ未登場。

 いうなれば、戦隊物でいうブラック?













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