【標的変更?】
『ねぇ、祐巳さぁん』
「どうしたの?天和さん」
急にかかってきた電話。
祐巳はすぐにあるボタンを押し、電話の内容がみんなにも聞こえるように変更した。
『これからぁ、ヒマぁ?』
「うん、暇だけど。どうかしたの?」
『ちょっとぉ、来てほしい所があるんだけどぉ』
「まだ7時だし・・・・うん、良いよ。どこに行けば良いの?」
えっとねぇ〜、と、天和が言ってきたのは、どちらかといえば人気のない、寂れた公園。
地元の人でも知っているかどうか、わからないそんな場所。
「わかった。じゃあ、30分後に」
『はぁい。待ってるねぇ』
切った電話。
切る瞬間小さく聞こえた、天和の笑い声。
「きっしょい笑い方するヤツだな」
「あれが本当の姿の欠片なんでしょ」
祐巳は椅子に座りながら、祐麒に返した。
「あの公園は、まったく知られていないと言っても良い場所よ?」
「おおかた、それを利用して、そこで殺したり連れ去ったりしているんだろう」
みきと祐一郎が真剣な顔で。
「・・・俺も一緒に行くか」
「そうね。祐麒も一緒にいたほうが、向こうも仕掛けてこないでしょう」
「まだこちらを見せるのは早いからな」
「うん。じゃあ行こうか、祐麒」
「おう」
2人一緒に、人気のまったくない公園へ向かった。
閑散としていて、外灯も一つしかないくらいの公園。
「凄いピッタリ過ぎじゃないか?」
「先入観もあるんじゃない?あんな子が変なことをするはずない、とか」
小声で、けれどはたから見ると楽しそうに会話をしているように笑顔で言葉を交わす。
「おぉい!」
駆け寄ってきた天和。
「ごきげんよう、天和さん。それで、用事って何?」
「ちょっとぉ、祐巳さんと会いたくてぇ」
「そ、そうなんだ」
照れたように笑い返した後、2人は普通になんでもない会話をした。
だが、天和は一切祐巳の隣にいる祐麒には触れることなく。
「どうだった?祐麒。実際に彼女を見てみて」
祐一郎の問いに、祐麒は嫌そうな顔をした。
「終始俺のこと無視してたぞ、あいつ」
「むしろ、殺気はなってたよね。わたしにも、祐麒にも」
「そう・・・・。きっと、今日祐巳ちゃんを殺そうとでも考えていたんでしょうね」
みきの言葉に、全員も同感だったのか頷いている。
「それに、隠れてたけど数人の男達の気配がしたぞ」
「きっと、彼らにわたしを殺してもらおうと思ってたんじゃないかな?」
「知ってる気配だったか?」
祐一郎に、祐巳と祐麒は首を横にふる。
「全然。わたしたちの一族の者ではないと思う」
「あんなのに手を貸す忍者がいること自体、ありえないだろ。規定に反する」
「それもそうだな」
忍者にも、揉め事を極力避けるための規定が色々あるのだ。
「それにしても、リリアンにそんな子が入ってくるなんて・・・・」
「抜け道は、探せばいくらでもあるよ。わたしたちみたいな存在でも、それを隠していれば何の問題もなく入れるんだし」
「それはそうだけど・・・・」
みきは憂鬱そうにため息をはいた。
卒業生としてはやるせないのかもしれない。
リリアンで楽しい日々を過ごしていたから、なおさら。
「とりあえず、わたしに仕掛けてきたっていうことは、そろそろ始めるつもりなのかもね」
「そうね。・・・祐巳ちゃん、絶対に護ってあげるのよ?」
誰を、とは言わなくても全員に伝わっていた。
「もちろん」
祐巳はそれに満面の笑みを浮かべ、同時に一本の箸が壁に刺さった。
それは、残像さえも見えない速さで。
壁には、箸で串刺しにされた5センチほどの蜘蛛が。
「志摩子さんに手を出したら、それこそ楽になんて死なせてあげないよ」
笑っていない目。
「少しの傷でも、許してあげない」
家族であるにもかかわらず、祐巳が放つ本気の殺気に、みきたちは冷や汗を流した。
祐巳がそんなことを言っているとは露知らず、狂った殺人者はこれから起こるであろう楽しい妄想に浸っていた。
「っ!?」
「うわぁ・・・・」
「ゆ、祐巳さん!」
教室に入ったとたん、見えたものに祐巳は思わずそんな声をあげてしまう。
隣にいる志摩子など、目を見開いて固まっている。
慌てたように蔦子が駆け寄ってきて、そこでようやく周りも当人がやってきたことを知る。
祐巳の机は、無残にも木の部分が深く傷つけられていた。
カッターではないだろう、そんな浅いものではない跡。
もはやこの机は使えないことが、誰の目にもあきらかなほど無残な机。
中でも、【消えろブス】と彫られた跡が見るものの眉を寄せさせる。
「また、ずいぶん過激な」
「そんなのんびりしている場合じゃないでしょう!?」
蔦子に同意するように、勢いよく頷くクラスメイト達。
それによって我にかえった志摩子は、怯えと悲しみ、怒りを滲ませた表情を祐巳に向けた。
祐巳はそんな志摩子に、大丈夫、という意味をこめて微笑み返す。
「だって、わたし自身には何もされてないし。けど、これは酷いよね」
机がもったいない、と呟くその声は、志摩子にしか聞こえない。
けれどそれを聞き、志摩子は強く祐巳の手を握った。
祐巳はちゃんと、その意味を理解している。
問題はそこじゃないでしょう!!?
そんな、激情の叫びを。
だから、握られた手を離さず、親指で志摩子の手の甲をそっと撫でた。
「そうよ!誰がこんなことをしたのよ!!」
「蔦子さんや他の人が来た時には、もう?」
「私が一番最初に教室に入ったのだけれど、もうすでに・・・・」
祐巳が首をかしげながらクラスメイト達を見れば、クラスメイトの優子がおずおずと手を上げて答えてくれた。
「そっか。大丈夫だった?怖かったよね?」
優子の顔色が少し悪いことに気付き、祐巳は心配そうに問いかける。
リリアンで、イジメというものを見たことがないのだろう。
というよりも、ほとんどの生徒がリリアンにイジメなどといったものがあるとは、想像もしてない。
少なくとも、桃組の生徒はそうだ。
ゆえに、それを見て恐怖を感じたのである。
祐巳はそれを瞬時に察知して、そう問いかけたのだ。
優子はそれに頬を緩め、頷いた。
祐巳の優しさに安堵したように。
「それにしても、誰がこんな・・・・っ!?」
何かに気づいたように、蔦子が目を見開いた。
そして、ちらりと気まずそうに祐巳を見るが、祐巳と目が合うと目をそらしてしまう。
「(気付いちゃったかな)どうかした?」
「な、なんでもないわ!」
「そう?」
「え、ええ!」
必要以上に強く頷く蔦子に言及はせず、祐巳は笑う。
「まあ、考えててもわからないし。それより、どうしようこの机」
「・・・・・先生に、代えてもらいましょう」
硬い、志摩子の声。
志摩子も当然、誰がやったのか検討付けているから。
「そうだね。そうしようか」
「ごきげんよぅ」
「っ!?」
その声に、志摩子が咄嗟的に、怯えたように祐巳の腕に抱きついた。
「あ、ごきげんよう、天和さん」
祐巳はそんな志摩子を受け止めながら、計ったように登場した天和に笑みを向ける。
天和は志摩子が祐巳に抱きついたことにだろう、多少の苛立ちを放つも祐巳に笑顔を返す。
「どうかしたのぉ?」
「うん、ちょっと机が、ね」
「机ぇ?」
不思議そうにしながら祐巳の机を見て、わざとらしく目を見開いた。
「わぁ、なにこれぇ」
「学校着たら、もうこうなってたみたい」
「祐巳さんてぇ、嫌われてるのぉ?」
「まさか。祐巳さんを嫌う人間なんて、この世にいるはずないわ。・・・・よほど、性格が歪んでる人じゃなければ、ね」
首を傾げる天和に、蔦子の鋭い視線が飛ぶ。
蔦子の中で、この行動したのは天和、と決まっているのだろう。
蔦子の言葉、そして視線を受けて、天和からかすかに沸き立つ殺気。
「(蔦子さんが、危険だな・・・・)とりあえず、先生に言って机代えてもらうね」
「私も手伝うわ」
「私もね」
「ありがとう、志摩子さん、蔦子さん」
「天和もぉ、手伝おうかぁ?」
その問いかけ。
祐巳がそれに答える前に、
「いいえ。大丈夫よ」
無表情に、蔦子が拒否をした。
ピクリと、天和のこめかみが引くつく。
祐巳はそれに気づくも表情には出さず、蔦子と志摩子をともなって教室を出た。
「ブスの癖に・・・・」
小さな呟きは、祐巳にしか聞こえなかったようで。
けれどその”ブス”が誰を指しているのか、祐巳はすぐに自分ではないと悟った。
蔦子だ。
「(・・・・・・・・・・・・・・)」
「祐巳さん?」
「どうかした?」
「ううん、なんでもないよ」
心配そうな顔で問いかけてきた志摩子と蔦子に、にっこり笑顔。
その目が笑っていないことを、志摩子は気づいた。
だから、ことさら心配そうに祐巳を見つめる。
蔦子は、そう返されたが信じていないよう。
祐巳はそんな志摩子と蔦子に苦笑し、今度はその感情を隠して微笑み返した。
「本当に、なんでもないから」
「・・・・それなら良いけど」
そう答える蔦子は信じていないようだ。
それは、志摩子も同じ。
特に志摩子は、祐巳が感情を完璧に隠すことができることを、知っているから。
「(わたしのことをブスっていうのは気にしないとしても、蔦子さんをそう言うのは・・・・・許せない)」
志摩子と蔦子にバレないように、深呼吸。
「(覚悟してよね・・・・阿東天和・・・・)」
2人から見えない位置で、祐巳はくすりと笑った。
それは、志摩子さえも知らない、妖艶な笑み。
あとがき。
もはや、収拾がつかない?
今さら今さらv
久々に書いたせいか、祐巳の性格がなんか歪んでますが、お許しください。
ブラウザバックでお戻りください。
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