【輝いた笑顔】































「あら、まただわ」


 江利子の自室。

 一通のメールは、迷惑メールと分類されるもので、出会い系サイトの案内のようなものだった。


「・・・・・」


 江利子は何を思ったのか、それをジッと見つめた。

 そして。


「ちょっと、やってみようかしら」


 とりあえずそのメールを削除し、恋愛の出会い系ではなくて友達を見つける方のサイトを覗いてみることにした。


 簡単に見つけられたそのサイトには、自身の性別で選択。

 それから、友達になりたい人の性別を選択。


「男だと後々(兄たちが)面倒くさそうね。・・・女ね」


 女性の方へと移動。

 メールください、と書かれたたくさんの書き込み。


「アウトドア派の人募集・・・○○という歌手が好きな人募集・・・○○に詳しい人募集・・・」


 これといって興味をそそられず、江利子は下へ下へとすすめた。

 その中の一つ。

 少し、趣の違うものがあった。


「つまらない日常に飽き飽きした人募集・・・?」


 まさに自身ではないか?


 江利子はそう思った。

 つまらない日常。

 飽き飽きしている。


 自然と、江利子の口端が上がった。


「14歳 夏目、ね。」


 書かれている県は、江利子と同じ。

 興味を覚え、江利子はそこに書かれているアドレスにさっそくメールをしてみた。


 その10分後。


「あら早い」


 件名は【初めまして】。


【 あなたは本当に暇そうだね。本文から、凄い伝わってきた。というか、初めてのメールであんなに長文うってくる人初めて(笑 】


 そんな風な出だしで。

 その後に書かれていたのは、今度の日曜日遊びに行かない?といったもの。

 普通の人なら体験しないことをしに行こう、と。


 警戒心を持つべき内容と言えるかもしれない。

 それでも江利子は、相手の子が何故だか危険ではないと、そう思った。


 すぐにメールを返信して。

 内容は了承のメール。


 すると今度はすぐに返信が。

 それは、何時に待ち合わせにするか、というもので。

 江利子は今知り合ったばかりの、ほとんどわからない相手と予定を組んだ。


 それが、始まり。






















 日曜日。

 朝の8時ちょうど。

 江利子の予想に反して、待ち合わせ場所に現れた夏目は普通の女の子だった。

 もっとも、相手はそう思ってはいないようだが。


「うわ、こんな綺麗な人だったんだ、江利子さん」

「あら、ありがとう」

「うわ、慣れた対応。軽くムカつく」


 そんなこと言われたことがなくて、江利子は思わず笑った。


 いつだって江利子は憧れの的で。

 いつだって注目の的。

 それがリリアンの生徒のみだけだとわかっているも、他校の生徒と交流があるわけではない。


 ゆえに、江利子は新鮮だった。


「じゃ、行こっか。なんか注目されてきたし」

「そうね。ごめんなさい、綺麗で」

「あはは〜。凄いムカつくv」


 笑顔で言われ、江利子はさらに笑う。

 楽しそうに。


 電車に乗り込み。

 けれど、線は下りで都心方面ではない。


「どこに行くの?水着を用意しろ、と言われたけれど」

「ついてからのお楽しみv」


 くふふ、と笑う夏目に、江利子も高揚する。

 この先に何が待っているのか、と。

 心配なんてしていない。

 4日くらいだが、夏目とメールのやり取りをしていて、彼女が良い子であることはわかっているから。


 いまだ、本名は明かしてくれないが。

 というよりも、江利子が聞かないのだが。


 それから1時間ほど電車に乗り、着いたのは海の見える場所。


「早く早く!」


 江利子の手を引いて、テマリは駆け出し。

 少し慌てつつも、それに習って江利子も足を速めた。


「まんま海、ね」

「そ。・・・あ、いた!」


 おーい、とテマリが声をかけるのは、2人の男女。


「妙子さん!叔父さん!」


 近づいてみると、女性がどこか夏目に似ていることがわかる。


「良くきたわね」

「もう準備は出来てるよ」

「ありがとう!江利子さん、こちらはわたしの母の妹で、妙子さん。と、妙子さんの夫の健吾叔父さん」

「初めまして、妙子よ」

「健吾だよ。よろしくね」

「鳥居江利子といいます」


 スッと頭を下げて、それから江利子は夏目を。

 それに気づき、夏目はにこりと。


「ウェイクボードって知ってる?」

「ええ。水上スキーのスノーボード版でしょう?」

「そんなところかな。こんなに早く着たのは、初心者の人は指導を受ける必要があるからなの」


 江利子はそれに納得。

 同時に、ワクワクしてきた。

 普通の高校生ならば、確かに体験しないことかもしれない。


「それじゃあ、あそこの更衣室で水着に着替えてきてくれる?」

「うん。行こう、江利子さん」

「ええ」


 妙子に言われ、2人は設置されている更衣室へ。

 水着に着替えれば、妙子たちもすでに水着姿になっていた。


「じゃあ、江利子ちゃんには指導が先ね」

「じゃあ、祐巳ちゃんは身体をほぐしたらやろうか」

「そうだね!」


 2人で駆け出し、残ったのは妙子と江利子。


「・・・祐巳?」

「ええ。?もしかして、あの子の名前知らなかったの?」

「はい。教えられてませんし、私も聞かなかったので」

「何故?」

「別に困りませんでしたから」


 常に、夏目、で呼んでいたから。

 それに、江利子にとってみれば本名を知らない、というのもまた面白い要素になったのだ。


「??そう」


 よくわからない、といった顔の妙子に微笑み返したところで、夏目、もとい祐巳が戻ってきた。

 彼女は身体につける浮きを持っていて、それを着るのだろう、と江利子は察知した。

 もちろん、指導を受ける自分はまだ着ないだろうが、と。


「わたしが一度やりますから、それを見ていてくださいね」

「ええ、わかったわ。しっかりね」

「なんでそう上から目線かな〜?」

「あら、私のほうが年上だもの。当然でしょう?」

「・・・実際にやって転んだら、思いっきり笑ってやる」


 負け惜しみのように言いながら、祐巳は浮きを装着。

 江利子は笑いながら準備運動をする2人を見ていた。


 その後、江利子は虜になる。

 ウェイクボードではなく、祐巳のほうに。


 笑顔ですべる祐巳は、太陽の光りを反射する水しぶきと重なって、とても綺麗だったのだ。

 あの江利子が、言葉を忘れて魅入るくらい。

 とても、綺麗で。

 とても、輝いていた。


 キラキラと、とても美しかった。


「・・・・・」

「綺麗でしょう?あの子」


 ハッとして、江利子はやっと祐巳から視線を外した。


「私も、たまに魅入ってしまうことがあるの。あの子の、活き活きとした笑顔に」


 妙子の視線は祐巳に向けられていて。

 江利子も、妙子から祐巳へと視線を戻した。


 変わらず、美しい光景。


「今のあの子を知ると、何でかしら、日常の祐巳にもドキリとしてしまうようになる」

「・・・旦那さんがいるのに、ですか?」

「ええ。本当、困ったわ」


 そう言って笑う妙子は、まったく困った様子はなくて。

 むしろ、そんな自分が好きだと思っているかのように、江利子には映った。


 わかるかもしれない。


 江利子はそう思った。

 そう思ったとき、祐巳が一回転をした。

 かと思うと、ボードを前後交互に変えて滑ったり。


「あ・・・」

「ふふ、凄いでしょう?」

「はい・・・」

「トリックと言って、うちの人はまだ出来ないの」


 楽しそうにすべる祐巳。

 江利子たちは、2人が戻ってくるまで、そんな彼女を見つめていた。


「こんな感じだよ」


 濡れた髪をかきあげ、祐巳は笑う。

 その仕草さえ、江利子は柄にもなく綺麗だと思った。


「凄いのね」

「見直した??」

「ええ。あなたに教えてもらえば、上手になれそうだわ」

「うわ、プレッシャーかけてきた・・・」


 ビク、と後退する祐巳に、思わず笑う。

 いつもの祐巳。

 つい先ほどまで、悠々と滑っていたのが嘘のよう。


 それでも、江利子の中で、しっかりと始まっていた。

 祐巳への、

 恋。

 それが、芽吹いていた。
























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