【幸せですか?】































 ある日、蓉子と祥子が口論をした。

 その原因は、文化祭の劇について。

 原作を読んだ者ならばすぐに想像つくだろう、アレである。


 そうして、


「お姉さまの意地悪!!」


 祥子の口から、名言(?)がはきだされ。

 そのまま、祥子はドアを開けて・・・・。


「キャッ!」

「っ!?」


 誰かと激突し、押し倒した。


 蓉子たちは驚きつつ、駆け寄り。

 またしても、驚いた。


 見てみれば、祥子に押し倒されていたのはある少女だったから。

 彼女は有名な子で、知らない者がいないとされている子。

 福沢祐巳、という名の彼女は。


 ある事情により、髪が白く、左目が見えない子なのだ。


「祐巳、さん?」


 彼女と同じクラスの志摩子が、慌てて祐巳を起こそうとする。

 が、祥子が上に乗っているため、祐巳は体を起こせるはずもなく。


「祥子、彼女からどいてあげなさい」

「あ、はい」


 蓉子の言葉に、祥子もあわてて祐巳の上からどき。

 志摩子が、今度こそ祐巳の手を引いて体を起こさせた。

 軽く頭を押さえている祐巳を、志摩子は心配そうに見つめる。


「祐巳さん、大丈夫?」

「大丈夫、のようですね」


 軽く頭を振る祐巳に、志摩子はホッと安堵の息をはいた。


「ごめんなさいね、あなた」

「いえ。お気になさらないでください」


 表情を変えることなく、祐巳は立ち上がり。

 そんな祐巳に、志摩子以外が驚いたように軽く目を見張った。

 噂しか知らない彼女達は、祐巳の性格を知らないから。


「ところで、ご用事は何かしら?」

「図書委員の、来週購入する本のことについて書かれた書類です」

「あら?いつも来ている方は?」

「今日はお休みなので」


 蓉子はそれに納得して、祐巳を中へと促そうとしたが。

 祥子が、その手をつかんだ。


「何か?」

「あなた、本当に大丈夫なの?」

「はい。平気です」


 こくん、と頷く祐巳に、祥子は表情を緩めてその身体を抱きしめた。

 それにビックリしている、祐巳を含めた全員を無視して。

 彼女は、祐巳に囁いた。


「あなた、姉(グラン・スール)はいて?」

「・・・いませんが」

「よろしい」


 なにやら納得の表情を浮かべて離れた祥子を、少しのあいだジッと見る。

 が、祥子は普通に微笑み返してくるため、何も言わずに改めて中に入った。









































「祐巳、ジッとしていて」


 急な展開に、一部が戸惑い、一部が楽しそうに見ているその目の前。

 祥子は、祐巳の首にロザリオをかけようとしていた。


 だが、祐巳はその手に触れ、制止する。


「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」

「なにかしら」


 ぴたりと、祥子はロザリオをもつ手を止めて。

 周りも、祐巳へと視線を向ける。

 この状況にもかかわらず、冷静な祐巳に驚きながら。


「あなたは、私と姉妹(スール)になることで幸せになりますか?」

「え?」


 驚いたのは、祥子だけではない。

 全員を驚かせた。


 祐巳はそれに気づいていないのか、それとも気にしていないのか、続けた。


「私と姉妹(スール)になることで、あなたの瞳に宿る翳りは消えるのですか?」

「・・・・・」


 目を見開いたままの祥子のそ手に、今度は片手ではなくて両手を重ね。


「もし、そうでないのならお断りさせていただきます」


 ですが。

 祐巳は、そう続ける。


「ですが、あなたの瞳が明るさを取り戻すのなら、私はあなたと姉妹(スール)になりましょう」


「「「っ!!?」」」


 独特の言い回しに目を見開いたのは、蓉子、由乃、志摩子の3人。

 その口調は、3人にとって馴染みのあるものだったから。

 自らの文通相手も、同じような言葉を使うから。


 ――― ガタン!


「「「あなたは―――!!」」」


 勢いよく立ち上がった3人へ、うつされる視線。

 そんな見慣れたメンバー達の視線の中で、ひときわ優しい色で自分達を見てくる、慣れない視線。


 3人は、初めて祐巳の顔を。

 唯一の瞳を。

 真正面から見たような気がした。


「どうかなさいましたか?蓉子さま、由乃さん、志摩子さん」


 けれども、だからこそ気がついた。

 祐巳は、手紙の相手が自分だと、気がついていないことに。


 そこで、ふと蓉子たちは他2人を見た。


「あなたたちも、なの?」

「・・・そういう紅薔薇さまも、ですか?」

「まさか、お2人もそうだとは思いませんでした」

「それはこちらのセリフだわ、志摩子」

「それはこっちのセリフよ、志摩子さん」


 何でか、妙な連帯感。

 もちろん、互いに相手へ向ける想いに気がついてもいる。

 だが、何故かそんなこと関係ないと、3人は思った。


 もっとも、その抱いている感情ゆえに、争うことはあるかもしれないが。


「・・・あのさ、3人で意気投合してないで、説明してくれないかな?」

「私たちにはサッパリなんだけれど?」


 テーブルに肘をつく聖に、何か面白いことを期待する江利子の目。

 きょとん、とした顔の令。

 なんとなく、中断されて不機嫌な祥子。

 無表情に、小さく首を傾げる祐巳。


 そんな彼女達に、3人は微笑み返した。

 正確には、祐巳にだが。


「なんでもないわ。ごめんなさい、邪魔をしてしまって」


 蓉子が代表するように言い。

 由乃と志摩子は何も言わずに椅子に座る。

 令と聖は、不思議そうに各々の妹(プティ・スール)を見つめるが、何も回答はなかった。


「それでは、私はそろそろ失礼します」


 ハンコの押された書類を手にとる祐巳の手首を、祥子は咄嗟につかむ。

 祐巳はわかっていたように、それをやんわりと外して。


「考えてください。私と姉妹(スール)になることで、あなたが幸せになれるのかどうか。答えが見つけ出せるまで、お待ちしています」


 それだけ言い残し、祐巳はビスケット型のドアを開けて出て行ってしまう。

 祥子はそのドアを見つめ。

 江利子と聖は、わぁお、といった顔で顔を見合わせていた。


「祥子」

「っ・・・はい」


 蓉子に呼ばれ、祥子はハッと顔をあげた。

 そんな彼女に、蓉子は優しく微笑み返す。


「あの子のいう”幸せ”の意味、わかるわよね?」

「・・・・・・・」

「あなたは、花寺の方と踊りたくないがために彼女と姉妹(スール)になろうとした。けれど、そんな理由で彼女と姉妹(スール)になって、あなたは幸せ?」


 スッとうつむく祥子に、蓉子は変わらない笑顔を。


「あの子が言っているのは、目先の”偽りの幸せ”ではなくて、あなたが”笑顔でいられる幸せ”なのよ」

「私が、笑顔でいられる幸せ・・・・」

「ようするに、遠回りに、突発的な行動ではなくて、ちゃんと考えて妹(プティ・スール)にしたい人を見つけろ、ってことよね」

「まあ、そうとも言えるわね」


 江利子が要約すれば、蓉子はそれに苦笑。

 けれど、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


 もし、祥子があの瞬間、「幸せになれる」と言えば、祐巳は姉妹(スール)になることを受け入れただろう。

 そして、本当に祥子が幸せになれるよう、ちゃんと支えるのだろう。

 蓉子だけではなくて、由乃たちもそう思った。


「ああ、けれど。彼女を妹(プティ・スール)にするの、私は賛成よ」


 蓉子の言葉に驚くのは祥子たちで。

 由乃と志摩子は、頷いて同意を示した。

 それに、姉(グラン・スール)の2人はさらに驚いて。


 後日、祥子と祐巳は姉妹(スール)となった。

 そしてそれは、蓉子たちの戦いの幕開けでもあった。







































 オマケ。


「お3方が、ですか?」

「ええ。驚いた?」

「はい」


 本当に驚いているのかわからない、そんな表情で。

 けれど、3人はちゃんと知っているのだ。

 祐巳が、表に出ないだけで、感情豊かで、感受性も豊かで。

 とても、綺麗な心を持っていることを。


 だから、彼女の左目が見えなかろうが。

 彼女の過去に色々あろうが、3人は好きの感情を止めないのだ。


 だって3人は、

 純粋で。

 優しくて。

 強さをもった。


 そんな祐巳(手紙の相手)に惹かれたのだから。


「ごきげんよう」


 そこに入ってきた祥子。

 彼女は、祐巳がいることに気づくと、とたんに嬉しそうな顔をした。


「ごきげんよう、お姉さま」

「ごきげんよう、祐巳」

「お姉さま、タイが曲がってらっしゃいます」

「あら、本当だわ。直してもらっても良いかしら?」

「はい」


 シュル、と結び目を解く祐巳を、祥子は変わらず嬉しそうな顔で見つめる。

 祐巳はそんな祥子にかすかに目を細めて返し、綺麗にタイを結ぶ。


 恋とは、人をずいぶんと変えてしまうものであるようだ。


「・・・コロッと変わっちゃって」

「仕方ありませんわ、紅薔薇さま。祐巳さんは、とても素晴らしい方ですから」

「それは認めるわよ?けど、あんなあからさまな」


 ため息をつく蓉子と由乃。

 志摩子はそれに苦笑。


 仲の良い3人は、新たにライバルを加えて、争うのだった。


「・・・令、何、アレ」

「さ、さあ?」

「ふふ、祐巳ちゃんて面白い子ね」















 あとがき。


 最後のオマケを書くのが、無性に恥ずかしかったです。

 なんなんでしょう。

 デレ祥を書いたからでしょうか?

 それとも、原作とは逆転した2人の関係を書いたからでしょうか?


 恥ずかしい・・・・!!


 それに、何を書きたかったのか・・・。

 最後は、あれ?あの3人は?これで終了?状態に。

 ・・・まあ、あの、珍しい?組み合わせの3人が、仲良くなった、と。

 よくわからない、そんな感じで(本当に、よくわからん・・・


 とりあえず、手紙はこれにて完結です。

 読んでくださり、ありがとうございました!















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