【見知らぬあなたへ】































 下駄箱の掃除当番。

 それだった私は、誰も使っていない場所の床を掃除していた。

 誰も使っていないため、そうそう汚れることのない床はやはりすぐに終わってしまった。


 と、その一つの蓋がしっかりと閉まっていなかったのか、私が軽く躓いた拍子に開いてしまい。


「あら?」


 その中に、真新しい、青い封筒が入っていることに気がついた。


「手紙・・・?」


【見知らぬあなたへ】


 そう、宛名の書かれた手紙。

 それを見る限り、誰かに宛てて、というものではないように思う。


 そのまま見なかったことにしても良いはずなのに。

 その時私は、それを手にとり、ポケットへと入れていた。

 興味が、あったのかもしれない。

 いつもは理性で隠している、私の好奇心を刺激したのだ。


 放課後、山百合会の仕事を終えて家へと帰ってきた私は、さっそく自室でそれを開封してみることにした。


 綺麗な字。

 変な癖などない。




【見知らぬあなたへ


 これを見つけたあなたは、どうやってこの手紙を見つけたのでしょうか?

 あえて、使われていない場所の下駄箱の一つに忍ばせた、この手紙を。

 もっとも、誰にも読まれずに黄ばんでしまう可能性のほうが高いですが。


 このような手紙を出した理由。

 それは、あなたが思うほど大きなものではなくて。

 何の変哲もない、自らの人生に彩を加えたかっただけなんです。

 ただ、それだけ。


 ですから、不快に思われましたら、返事をくださらなくて結構です。

 あくまで、私の我侭な思いつきなのですから。


 それでも、もしあなたが興味を覚えたのなら、あの下駄箱に、返事をください。】




 どこにも名前の表記はない。

 誰なのかしら?

 そう思うも、きっと彼女は礼儀正しい人なのだろうと思った。


 それを読み終えてすぐ、私は便箋を机の中から取り出し、誰かもわからないその人への手紙を書いた。

 ドキドキする心を抑えながら。


 私の世界に、今までとはまた違った彩が加わった。








































 あれから、見知らぬ人との文通は続いている。

 彼女は私を初めと変わらず、【見知らぬあなた】と呼び。

 私は、そんな彼女のことを【不思議なあなた】と呼ぶようになった。


 そして、文通を続けていくと同時に見えてくる、彼女の性格。


 太陽にかかる雲の隙間から差す、光りの線が見惚れるくらい美しいだとか。

 雨が降りしきる景色が、まるで白いカーテンがかけられているようで好きだとか。

 今の季節の、雨が降る前の肌寒い風が、とても澄んでいるように感じて心地が良いだとか。


 それらの文章が、彼女がとても綺麗な心を持った人なのだと教えてくれる。

 私の気づかない、鬱陶しく感じていた、感じてもいなかったそれらを、教えてくれる。

 17年生きてきて、今、教えられた世界の彩。

 それを自分の目で確かめて、肌で感じて、彼女の言うとおりだと、何度思ったことだろう。


 放課後、誰もいないのを確かめて下駄箱を開けた。

 青い封筒。

 見慣れた、最近待ち遠しいと感じるようになったそれ。


 今日は、私が見つけられてない、どんな素敵なことを見つけたのかしら。



【霧があたりを囲う中、歩くのはとても気持ちがいいものです

 あなたも今度朝早くに、散歩に出かけてみてはいかがですか?

 あなたは、自分は何も見つけられない、とおっしゃいましたが、周りに目を向ける余裕がないのではありませんか?

 見知らぬあなたはどうやら、責任感の強い方のようです。

 ですが、もう少し心を締め付けるモノを緩めてみてはいかがでしょうか。


 それでも、無理だと言うのなら、あなたが見つけられないモノを見つけて、少しでもあなたの心がゆっくりと流れることができるように。

 あなたが少しでも、張り詰めることがないように、あなたの分まで周りを見て、あなたにご報告します。


 見知らぬあなたが笑えるように、私はあなたの糧になりましょう】



「ふふふ」


 私は、聡明な美しい文字をそっと撫でた。


「ありがとう、不思議な人」


 自室にて、私はその手紙にそっと口付けた。

 最近やるようになった、その行為を。





















 一度も会ったことのない、文通相手。

 そんな相手に、私はある感情を抱きつつあった。

 それは、好き、という感情。


 まさかこの私が、見たこともない人を好きになるだなんて考えてさえいなかったけれど。


 それでも私は、純粋な彼女の心に、恋をした。











 あとがき。


 あるサイトさまで掲載されていた【ラブレターフロム】という作品を見て、思いついたものです。

 内容が似てしまったので、その方に掲載許可をいただき、こうして載せさせていただきました。







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