【江利子もビックリ】
正座している蓉子。
その前には、腕を組む親友2人。
「さて、話をしてもらいましょうか」
「最近変だったわけをさ」
「い、言わなくちゃだめ?」
「「当然」」
はっきりと、強く頷く2人に、蓉子ははぁとため息をつき、うなだれた。
「信じられないと思うわよ?」
「蓉子が嘘をつくわけないしね〜」
「ええ。あなたがこういう場で嘘をつくとは思えないもの」
なんだかんだ言いつつ、2人は蓉子の性格を知っているし、自信も持っている。
蓉子はそんな親友たちに笑みを浮かべた。
「・・・1週間くらい前、家に帰ってきて着替えようとしたら」
蓉子は立ちあがると、クローゼットの扉を開けた。
「くろーぜっ・・・・」
途中で止まる、蓉子の声。
それを訝しく感じて、2人もたちあがり蓉子の隣に立った。
「・・・・・・・・・は?」
「ちょ、ちょっと、これどういうことよ・・・・!」
聖が唖然とし、江利子が驚いて蓉子を見る。
蓉子は見開いた目から、涙をこぼしておりそれがさらに江利子の驚きを助長させた。
クローゼットの中。
そこは、以前とは違い、自然があるわけではなかった。
けれど、蓉子にはとても見覚えのある部屋だった。
帰ってきてから、いつもことあるごとに開けていたクローゼット。
その度に、変哲もない木目を見せていたのに。
それなのに、何故・・・?
蓉子の頭にそんな疑問が浮かんだが、体は勝手にクローゼットの中へと駆け込んでいた。
「ちょ!・・・・もう!聖!いつまで呆けているつもりよ!」
「いった!って、待ってよ江利子!」
蓉子に続いて駆け込む江利子は、ちゃんと聖を正気にさせてから向こう側へ。
聖も慌てて2人を追う。
「ここ・・・なに・・・?」
江利子が窓により、窓の外から見える月を見上げた。
昼間だというのに、存在を主張するようにはっきりと浮かんでいる。
それも、江利子たちの世界よりも2周りほど大きい。
「・・・・ねえ、江利子。蓉子がいない」
聖の呆然とした声に、江利子は慌てて部屋の中を見渡した。
確かに、蓉子がいない。
けれど、部屋のドアが開いているのを見て、蓉子が部屋を出たのだと気づく。
「部屋を出たみたいね」
江利子が早足で部屋を出るが、どこに蓉子が行ったのかわからない。
「・・・・どうする?」
「・・・・探すしかないじゃない。あの反応からして、蓉子はここを知っているみたいだし」
「・・・・ここを?」
「・・・・・・・・・・」
長い廊下。
突き当たりさえ見えない。
江利子と聖はため息をつき、江利子が歩き出した。
その隣に、聖も並ぶ。
「ここってさ、どこなんだろうね?」
「それがわかったら苦労しないわよ」
「だぁね」
「どちらさまですか?」
ビクッと、2人の体がはねた。
ゆっくりと振り向き、目を見開く両名。
江利子は目を見開いたまま、目の前の相手と隣にいる聖を見比べるように交互に見た。
水銀色の髪をして、細長いメガネをかけた少女。
髪は腰まであり、手には数枚の書類と本が。
そこにいたのはセイだった。
「・・・・話には聞いていましたが、まさか本当だとは」
我にかえり、セイがいち早く呟いた。
「「え?」」
「とりあえず、殿下のところに行きましょう」
「「で、殿下?」」
歩き出したセイを、とりあえず追う2人。
「殿下は、この国を治めている王です」
「国って・・・」
「蓉子は、ここに来たことがあるの?」
「ヨウさまは、15日ほど前まで住んでおられました。もっとも、36日間だけですが」
この答えに、2人は目を見開いて顔を見合わせた。
そんなに長い期間、蓉子がいなくなったことなどないから。
それも、15日くらい前。
セイは一つのドアの前に立ち止まると、そのドアを軽く叩く。
「殿下、失礼します」
セイがドアを開けると、中には蓉子がいた。
それも、誰かに抱きついているようす。
しかし、誰に抱きついているのかがわからない。
「ヨウさま、あなたのご友人をお連れしました」
「あ!」
セイの言葉でようやく2人のことを思い出したのか、蓉子が慌てて離れる。
そうなると、蓉子が抱きついていた人物が見えるわけで。
「「祐巳ちゃん!!?」」
「またちゃん付けか・・・」
「あちらの貴女のことは、そう呼んでいたんだもの。仕方がないわ」
「まあ、良い。セイ、ご苦労だった」
「いえ。では、私はこれで」
ユミに微笑みかえし、セイは頭を下げると部屋を出て行った。
残ったのは、何がなんだかわかっていない2人と、そんな2人をみて笑うユミと、苦笑している蓉子の4人。
「とりあえず、座れ」
「こっちよ」
ユミと蓉子に促され、江利子と聖は戸惑いながらソファに腰掛ける。
それを見届けると、ユミは自分の椅子に座り、にやりと笑いながら2人を見た。
「名のらずともわかるようだが、一応名のっておこう。我はユミ、この国の王だ」
「あ、えっと、わたしは佐藤聖」
「私は、鳥居江利子よ」
ユミが片眉を上げ、隣に立つ蓉子を見上げた。
蓉子はそんなユミに微笑み返す。
「私たちの世界に苗字があることは教えたわよね?鳥居も、佐藤も、2人の姓よ」
「なるほどな。・・・さて、2人に問う」
「「え?」」
「お前たちは、これからどうする?」
祐巳そっくりな少女から、お前呼ばわりされることに違和感を感じるが、目の前にいるユミを見ているとなんだかそれが普通に感じて、2人は笑ってしまう。
笑いながら顔を見合わせ、ユミを見た。
「この世界のことが知りたいわね」
「この世界のことが知りたいな」
ユミはくつりと笑い、2人を見返す。
「良いだろう」
「けど、いつ帰れるかわからないのよ?」
「それは心配するな。あの道を開けたのは、我だ」
「「「え!?」」」
「お前が帰ったあと、歪みの残留を調べ、どこにつながっているかを解析し、歪みが多発しないよう気をつけながら道を開けたのだ。まあ、予想とは違い、自室に開いてしまったようだがな」
くつりと笑うユミを、蓉子は唖然と見つめる。
それに気づき、ユミはにやりと笑った。
「何を驚いておる。我は言った筈だぞ?また会える、と」
「っ!」
蓉子が涙を流し、ユミに抱きついた。
ユミは蓉子の体を軽々抱き上げ、自らの膝の上に乗せる。
「言ったであろう?我は、嘘などつかぬと」
囁き、けれど江利子にも聖にも聞こえるその声に、蓉子は首を縦に振ることでしか答えられない。
嗚咽をもらす蓉子の顔を上げ、次々とあふれ出る涙を拭い取る。
「少しは泣きやめ」
それでも蓉子の涙は止まらず、ユミはそれを舐めとった。
「「っ!??」」
それを見ていた江利子と聖がビックリ。
蓉子も一瞬驚いたように目を見張ったが、涙を流しながら笑い、ユミの唇に自らの唇を押しつけた。
ユミもそれを受け入れ、目を閉じている。
だが、江利子と聖は親友のそんな姿に、体をカチン、と固まらせた。
あの江利子だってそうなってしまうくらいの威力があるようだ。
ゆっくりと離れていく蓉子。
閉じていた目を開ければ、ユミがふわりと微笑んで最後に流れた涙を親指で拭ってくれる。
「愛しているぞ、ヨウコ」
「私も」
江利子と聖の存在を忘れたように、2人はもう一度キスをした。
ブラウザバックでお戻りください。
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