【会いたい】

































 仕事中、祐巳ちゃんのことを目で追ってしまう。

 いつもの顔も。

 笑った顔も。

 拗ねる顔も。

 怒ったような顔も。

 慌てる顔も。

 仕事をしている顔も。


 どれもこれも、ユミとは違う。

 わかっているのに、どうしても彼女を見てしまう。

 祐巳ちゃんの中に、ユミを見つけようとしてしまう。


 一週間前までは、ありえなかったこと。


 長くも短い、向こうでの36日という期間。

 それが、こちらの世界では1秒にも満たない間。


 夢だったのだろうか。


 楽しくて、幸せだったあの日々は。

 自分の周りにいる仲間と同じ顔でありながら、性格はまったく違っていたユミの仲間たち。

 彼女たちを思い出すたび、夢ではないのだと言い聞かし続けてきていた。


 今でも思い出せる、ユミの低い声も。

 紅の髪も。

 輝く、金の瞳も。

 独特の口調も。


 あれが、夢だったなんて、思いたくない。


 会いたい。

 貴女に。

 会いたいのよ。


 幻でもなんでもない。

 私が創りだした幻想ではないのよね?

 ユミが言ったとおり、わたしはまたあなたに会うことができるのよね?

 ねえ、誰か、そうだと言って?


 答えられる人はどこにもいないとわかっているのに、私はそう問いかけ続けていた。

 帰ってから、ずっと。

 そうしなければ、みっともなく泣き叫んでしまいそうになるから。

 周りのことなど省みず。


「お姉さま?」

「・・・・・・・・あ、祥子。どうしたの?」


 慌てて祥子を見ると、祥子だけではなく全員が私を心配そうに見ていた。

 あの、江利子や聖も。


「いえ。顔があまり優れないようですが、お体の具合でも悪いのかと・・・」


 そう言われ、自分がどんな顔をしているのかなんてわからないけれど、江利子と聖にまで心配されるなんてよほどだったのね・・・・。


「大丈夫よ。少し寝不足気味なの」


 ユミのいなくなったベッドはとても寂しくて、寝られない。

 8年間、ずっと1人で寝ていたというのに・・・。


 ため息をつくと、さらに心配そうな目で見られてしまった。


「とりあえず、今日は帰ったらどう?」

「そうそう。祥子たちが代わりにやってくれるよ」

「あのねぇ・・・・」


 そんなことできるわけないでしょう?

 そう言いそうになった言葉を飲み込んだ。


 蘇る、ユミの言葉。


「・・・そうするわ。江利子や聖もお願いね。・・・・頼りにしているわ」


 私は今まで、2人には言ったことのない言葉を口にした。

 2人はポカンと口をあけて、立ち上がった私を見上げてくる。

 江利子のこんな顔、なかなか見られるものじゃないわね。


 内心、少しだけ笑う。


「・・・・江利子。わたし、蓉子の家まで送るよ。なんか、途中で倒れかねない・・・・」

「それなら、私も行くわ。こんな重症の蓉子を、聖1人で抱えるなんて無理だもの」


 なんだか、酷い言われようじゃない?私。

 私がこんなこと言ったら、倒れることが確定なの?


 心の中で不満を呟くも、心底心配してくれているらしい2人に心が温かくなる。


「聞き捨てならない言葉を言われたような気がするけれど、ありがとう」


 お礼を言ったのに、2人して背筋を震わせるものだから腹立たしく思う。


「これは、家に帰るよりも病院に連れて行ったほうが良いんじゃない?」

「蓉子の家に帰る道に病院なんてあったかしら?」


 本当に腹が立つわね。

 それでも、私の鞄を聖が持って、私の手を江利子が慌てたように引くその姿は、私を嬉しくさせる。


 いくらユミだって、2人がこんな行動に出るなんて、予想していなかったでしょう?

 私だって、予想していなかったもの。

 だって、マリア様さえも通り過ぎようとするのよ?2人とも。

 悠長にお祈りなんてしてる場合じゃないでしょう、ですって。


「うわっ!ちょっ、蓉子ってば笑いながら泣かないでよ!」

「もう!どうしたのよ最近のあなた!!」


 聖と江利子にいわれ、私は手を引かれていないほうの手で自らの頬に触れた。

 濡れた感触を、手に感じる。


 泣いていたのね、私・・・。 


 理解すると同時に、勢いよくながれでる涙。

 自分でも驚いてしまうほどなのだから、2人も驚いて私を見ている。

 その足は、すでに止まっていた。


「本当になんなのよ!!」

「この場合、どっちの病院が良いの!?心!?体!?」

「聖!少しは黙りなさいよ!!」


 江利子が私を抱きしめながら、聖に怒鳴る。

 その横で、聖が混乱したように騒いでいる。

 そして、私はぼろぼろ泣いている。


 そんな状況が楽しくて、なんだか笑いがこみあげてきた。


「「だから、笑いながら泣くな!!」」


 2人の怒鳴り声に、私は涙を流しながら声をあげて笑った。









































 ねえ、いつになったら会えるの?















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