【目をそらしたい現実】
私には、好きな子がいる。
2つ年下の、福沢祐巳ちゃん。
妹(プティ・スール)である祥子の、さらに妹(プティ・スール)。
私から見ると、孫となる位置。
初めは、孫ができたことを純粋に喜んでいた。
どちらかといえばおっちょこちょいで抜けていて。
それが心配で、フォローをするために彼女へと向けていた視線は、いつの間にか違うものへと変わっていた。
祥子にむける笑顔、
由乃ちゃんや志摩子へとむける笑顔、
令へとむける笑顔、
私たちへむける笑顔。
同じようでいて、よく見れば違うそれ。
彼女の気持ちが誰に向けられているのか一瞬でわかる笑顔は、当然私の心を沈ませる。
聖が好きだったはずの私は気がつけば消えていて、あるのは元気で明るくて頑張り屋さんへの気持ち。
それでも、祐巳ちゃんが好きなのは祥子で、祥子もまた祐巳ちゃんを好いている。
大切な妹(プティ・スール)と孫のあいだを壊せるはずもなく、私はこの気持ちを押し殺していた。
「まったく、祐巳ったら」
「すみません、お姉さま」
祥子は祐巳ちゃんを咎めるような言葉をはきながらも、その顔は優しくて。
祐巳ちゃんも、祥子に謝っているけれど、その顔には笑顔がある。
姉(グラン・スール)として祥子の変化は喜ぶべきものなのに、私は心のそこから喜ぶことはできないでいる。
薔薇の館からの帰り道、憂鬱な気分で私は帰路していた。
家についてすぐに私は自分の部屋に戻り、鞄を机に置くとベッドに腰掛けた。
「はぁ・・・」
自然と出るため息。
とりあえず着替えてしまおうとクローゼットを開け、
「え?」
―――目を見張った。
何故なら、いつもなら服があるはずのそこにあったのは、服ではなく広大な自然だったから。
慌てて扉を閉め、また開けた。
変わらずにそこにある、自然。
「何よ・・・これ・・・・っ」
非現実的なことに、私は思わず呟いてしまう。
それは、仕方のないことだと思う。
それでも、心ではわくわくしている自分もいた。
少しの恐怖と、大きな好奇心。
本来、私は好奇心が旺盛である。
理性でそれを押さえているから、あまり人には知られていないけれど。
私は、心のどこかで思っていたのかもしれない。
今のこの現実から、逃げ出したい、と。
だから、きっと私は、そこに足を踏み入れたのだ。
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