【可愛い人達】































 図書室。

 本を選んでいる時、誰かに後ろから抱きしめられた。


 この柔らかさを、私は知っている。


「江利子さまですか?」

「あら、よくわかったわね」


 顔を向けずに問うと、予想通りの声。


 それにしても、私は何故抱きしめられているのだろう。

 今回、私は江利子さまどころか、誰とも恋人にはなっていない。

 ゆえに、それに準ずる行為をされる覚えがない。


 あなたには、何度も抱きしめられましたから、なんて答えることはせず、少しだけ後ろに顔を向けて微笑み返した。

 それに返って来たのは、どこか不満そうなお顔。


「もう少し、驚いてくれても良いんじゃない?」

「では、次からはちゃんと驚きますね」

「・・・・」


 そういう意味じゃない、という顔の江利子さま。

 それに思わず笑みを深めてしまう。


「・・・何よその、妹を見るような暖かい目は」


 そのような目をしているのだろうか?

 けれど、それはきっと。


「ふふ、すみません。江利子さまがあまりにも可愛らしくて」

「っ年上に、可愛いなんて言うものじゃないわっ」


 照れてらっしゃるのか、顔をそらして。

 けれど、私を抱きしめる腕はそのまま。


 私にとって見たら、見慣れた江利子さま。


「本当のことですから」


 やんわりと腕を離して。


 変な噂が立つのは、彼女にとって不都合だろうから。

 あまり、そういうことを気にする方ではないけれど。


「それで、何かご用事が?」

「ええ。あなたに会いにきたの」


 にっこり微笑み、私の目を見つめて告げる江利子さま。

 それに驚き、それから微笑み返した。


「ありがとうございます」

「・・・照れたりしてほしいのだけど?」

「ふふっ。すみません」

「んもうっ。あなた、本当に1年生?手玉にとられているようで、なんだか嫌だわ」


 少しだけ頬をふくらませて、不機嫌そうなお顔。

 それが可愛らしくて、やはり笑みは止まらない。


 たまに見せる、江利子さまの子供のような部分。

 それは、江利子さまが私に気を許しくれている証拠であり。

 私の前でただの”鳥居江利子”でいてくださる証拠。


 そう思うと、笑みも深まる。


「そういうところも、可愛いと思いますよ?」

「っだから―――!」

「お姉さま?」


 ムッとしたお顔で何かをおっしゃろうとした江利子さま。

 けれどそれは、何度も聞き慣れた。

 そして、今回では2回目の声に、遮られてしまう。


「あら、令じゃない。どうしたの?こんなところで」

「お菓子の本を借りようかと思いまして。・・・そっちの子も、ごきげんよう」

「ごきげんよう、令さま」


 微笑み返すと、幼い、はにかんだような笑顔が返ってきた。

 ミスター・リリアンとは程遠い、可愛らしい笑み。


 と、何故か令さまは恥ずかしそうに顔を背けてしまわれる。


「?」

「・・・あなた、誰にでもその顔するのね」

「その顔?」

「だから、近しい者を見守るような笑顔をよ」


 顔に触れてみる。

 先ほども思ったけれど、私は見守るような笑顔を浮かべているのだろうか。

 あまり、自覚といったものはないのだけれど。


「きっと、令さまが可愛いからですよ」

「っ!?///」


 初心な令さまは、それに顔を真っ赤にしてしまって。


「・・・あなたは・・・」

「?江利子さま?ため息などついて、どうかなさいましたか?」

「お、お姉さま?」

「いえ、なんでもないわ。・・・けどいつか、私以外にはそういう発言をできないようにしてあげるわ、”図書室の君”さん」


 不敵に。

 少しだけ不機嫌そうに。

 江利子さまは笑って、去っていってしまう。

 令さまをつれて。


「?」


 なんだったのだろう。


 引っぱられながら、慌てて私に手をふってくださる令さまに、微笑んで小さく手を振り返しながら、そう思う。


 ああ、けれど。

 やはり、お2人とも綺麗な方で可愛いらしい方だな。

 そう思った。

































「あら、あなたは・・・」


 やはりそれも、聞き慣れた声。

 身体全体で振り返れば、予想したとおりのお姿があった。


「ごきげんよう、祥子さま」

「ええ、ごきげんよう」


 少しだけ染まった頬。

 もしかして、体調があまりよろしくないのではないだろうか。


「図書室の帰り?」

「はい。祥子さまは、書類を職員室に届けた帰りですか?」

「ええ、よくわかったわね」


 何度も薔薇の館と職員室を往復した経験がありますから。

 内心ではそう答えて、表面では微笑み返す。


「たまにお見かけするときがありますから」

「そうなの」

「もう、お仕事は終わったんですか?」

「ええ、そうね。きっと、今日はお終いだと思うわ」

「そうですか。お疲れ様です」

「ありがとう」


 祥子さまと、歩きながら話す。

 時計を見ると、5時30分少し前。

 それを確認して、私は鞄の中から、昨日作ったクッキーを取り出した。


 以前、お菓子を作ったりすることもあると言うと、蔦子さんがどうしても食べたいと言い出したので今日みんなに配ったもの。

 の、残りだけれど。

 みんな、というのは、蔦子さんが言ったのと同時にクラスメイト達も言い出したので、多めに持ってきたのだ。


 終わっていなくとも終わっていたとしても、後30分。

 これくらい、皆さんで食べきれるはず。


「残り物ですが、いりますか?」

「それは、クッキー?」

「はい。疲れたときは、甘いものが良いとされていますし」

「・・・いただいて良いの?」

「はい。残り物で申し訳ありませんが」

「いいえ。喜んでいただくわ」


 受け取ってくださった祥子さまに微笑む。


「あまり、ご無理はなさらないようにしてくださいね?」

「ありがとう」


 嬉しそうに微笑む祥子さまの可愛らしさに、私も笑みを深めて返した。


「令さまもお菓子を作るようですので、品評もお願いします」

「?何故令がお菓子を作ることを?」

「今日、図書室でお会いしたんです。その時、お菓子の本を借りに来たとおっしゃっていたので」


 本当は知っているけれど。

 違和感のない返答をする。


「・・・普通の子なら、信じないと思うのだけれど」


 それは、意外と失礼な発言だと思うのですが・・・。


「そうですか?令さまは、女の子らしい方ですよ?」

「・・・そう」


 何故か眉をよせて。

 不機嫌顔。


 何か不機嫌になるようなことを言ってしまったのだろうかと、首を傾げる。


「祥子さま?」

「いえ、なんでもないわ。お菓子ありがとう。それでは、ごきげんよう」

「ごきげんよう、祥子さま」


 祥子さまと別れて家へ。

 それにしても、何故祥子さまは不機嫌に・・・?





















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