【ぬいぐるみ魔人】































「・・・そう。祐巳さんと仲の良い悪魔」

「ああ。まったく、ぬいぐるみを盗りに来たついでに、人の獲物を横取りしようとするなんてな」

「ご、ごめんなさい」


 ここは志摩子の家の縁側。

 正座をするノリコと、呆れたような顔の祐巳と、苦笑している志摩子がいる。


 ちなみに、ぬいぐるみは大事に袋につめられ、部屋の隅に置かれている。


「まあまあ、祐巳さん。あなたのことを思って来てくれたんだし、許してあげたら?」

「・・・この天使、優しい・・・!」


 しょんぼりとしたノリコは一変、キラキラと輝く瞳で志摩子を見た。

 ちなみに、本来の姿では出歩くことができないので、当然人間の姿になって。


((・・・・軽っ・・・・っ!!))


 祐巳にとっては不本意にも、志摩子と心の中を同じくしてしまった。


「あ、だからって、ユミはあげないから!」

「いつお前のものになった」

「祐巳さんも、こう言っているわよ?」

「ユミと出会った瞬間から、ユミはあたしのモノって決まってるの!」

「・・・お前、そんなこと思っていたのか?」

「あら?どうやら、意思疎通のできていない決定のようね。それは残念だけれど、無効だわ」

「藤堂、貴様も一々挑発するな」


「(え?というか、何故私はこの2人の間に挟まれているんだ?)」

「(まるで、取り合いをされているようじゃないか)」


 注)されているんです。


 祐巳の思っていることなど気づかず、言い争いを続ける2人。

 それをみて面倒くさそうにため息をつき、祐巳はノリコを見た。


「それより、もう報道局から知らせがきたのか?」

「あ、うん。それに、リリアンだんだんカオス状態になってるから」

「・・・・それがあったか」

「ねえ、祐巳さん、カオスとはなに?」


 首を傾げる志摩子に、祐巳は顎に指をあてながら。


「カオスとは、陽と陰の力が混ざった空間のことをいう」

「陰が祐巳さんで、陽が私ね?」


「ああ。稀にな、貴様のように悪魔と共に歩もうとする馬鹿な天使がいたりする。結果、相対する力が混ざり合ってしまうんだ。それによって、その空間にいる人間達から犯罪者が出やすくなるし、聖職者も出やすくなる」

「それに、奇跡も起きやすくなり、嫌な偶然が起きやすくもなる」


「・・・それ、初めて聞いたわ」

「そうだろうな。それは、あくまで極秘だ。上の者にしか聞かされていない」

「・・・・その、お互いの力が混ざり合ってしまうのは、どれくらいで?」

「短くて1時間。長くて数年。それは、悪魔と天使の相性が良ければ良いほど、短・・・・っ」


 ふと、顔を見合わせる祐巳と志摩子。

 思わず口を引きつらせる祐巳。

 反対に、志摩子は笑顔だ。


「ということは、私と祐巳さんの相性が良かった、ということね?」

「・・・・カオスとは、混沌。もっとも、その影響を一切受けない人間もいる。反対に、強く受ける人間もいる」

「そうなのよね?」

「・・・貴様、聞いていたのか?今の」

「ええ。私たちの相性は良いのでしょう?」

「その後だ!馬鹿か、貴様は!」


 それは言うな!とばかりに怒鳴る祐巳を、志摩子は笑顔で見返す。

 何故か嬉しそうな顔で、祐巳は果てしなく嫌そうな顔。


 だが、そんな2人がとっっっっても!、仲が良さそうにノリコには見えて。


「とにかく!その状態をどうにかしないと、今みたいに悪い奴が次々現れるってこと!」

「?それは、私にとっては良い状態だ」

「ユミじゃないよ!そっちに言ってんの!」

「あぁ・・・」


 ノリコは何とか、2人を引き離したいと思っていた。

 だから、志摩子を殺そうとまでしたのだから。

 祐巳に止められてしまったが。


 だって、ユミの一番はいつだって自分で、

 隣にいても良いのは、いつだって自分。

 それは、人間界にきても変わらないと思っていたのに。


 1ヶ月もたたないうちに、祐巳の隣はノリコの大嫌いな天使がいて。

 それも、当然、みたいな顔で。

 さらに言えば、なんとなく、志摩子が祐巳に向ける感情は、ノリコが祐巳に向けるのと同じように感じて。


 だからノリコは、断固反対なのだ、この2人が共にいることは。


「かまわないわ。聖職者も、増えるのでしょう?」

「そ、それはそうだけど・・・。でも、犯罪者も増えるんだし!」

「それは何とかするわよ。・・・祐巳さんが」

「私がか!?」


 最近流され気味な祐巳は、そこで自分の名前が出てきてビックリ。

 さらに、天使なのに自分がどうにかしようとしない志摩子にもビックリだ。


(・・・ユミは、こんな性格じゃない!ユミは、ツッコミなんてしない!ユミは、気高くて、誰よりも強くて、残虐で、非道で、冷徹で、自己中なのに!!)


 たかが1ヶ月。

 されど1ヶ月。


 気がついたら、ノリコは涙をこぼしていた。


「ノリコ?」

「悪魔さん?」

「っうっ・・・っこんなの、ユミじゃない!!」

「・・・ノリコ、泣くな。お前は、悪魔だろ?」


 ペシ、と額を叩かれて。

 それから、そっと撫でられて。


 ノリコは、今までそんなことをされたことがなくて。

 驚いて、目を見開いた。

 思わず、涙も引っ込むくらい。


「悪魔は、何があっても強くあるべきだ。そう、教えたはずだが?」

「それに、私がお前から見て変わったとしても、私は弱くなったか?一人で立てないくらい、弱くなったように見えるのか?」


「っ」


 ぶんぶん、と首を横に振るノリコに、うっすらとだが、祐巳が微笑んだ。

 ノリコだって、当然志摩子だって見たことのない表情。


「ユミ・・・」

「第一、私は変わってなどいないつもりだが?」

「・・・うん、変わってない!」

「だろう?」


 本人は、自分が笑っていることに気づいていないようだが。


 ノリコが見たことある表情といえば、無表情。

 あとは、苛立ったような表情。

 笑ったとしても、それは戦闘での”嗤い”。

 日常の中で、”微笑む”なんてもの、ノリコは初めて見たのだ。


 ゆえに。


(・・・変わったユミ、最高・・・!!)


 と、あっさりと変わった。

 内心、人間界万歳!!である。


 ちなみに志摩子は、1分ほど停止していた。


「ところで、お前はいつまでここにいるつもりだ?」

「え?」

「ちなみに、我が家に泊まるつもりなら、却下だ。家族に迷惑がかかるからな」

「そんな・・・」

「魔界へは一瞬で戻れるんだ。別に問題はないだろう」

「ユミがいない!」

「当然だ。私は降りているんだからな」

「そういうことじゃなくてぇ・・・」


 イジイジ。

 祐巳は訝しげな顔をするが、掌で畳を叩いた。

 その瞬間あらわれる歪みと穴。

 祐巳はノリコを、その中に放り込む。

 もちろん、ここにあっても困るだけのぬいぐるみたちも。


「それ反則!」


 わけのわからないことを叫び、消えたノリコ。

 同時に穴も消え去り、残ったのは志摩子と祐巳だけ。


「じゃあ、私は帰る」

「そうね。そろそろ暗くなってきたものね」


 内心、祐巳とノリコの掛け合いに穏やかではなかったが、笑顔で祐巳を玄関まで見送るために立ち上がった。


「仲良いのね、悪魔さんと」

「悪魔は基本的に同属を仲間とは思わない。が、パートナーだけは例外だ」

「パートナー?」

「我々悪魔が、人間になれなかった魂を素に創られていることを知っているか?」

「い、いいえ」


 それも初耳らしく、志摩子は軽く目を見開いて祐巳を見る。


「我らは、人として人間界に誕生する前に、死産や流産、中絶により、産まれなかった魂が魔界へと流れ、悪魔となる」

「魔界で身体を手に入れ、悪魔として生を受ける。その時、半数のものが1人ではなく2人で、魔界に降り立つ。その相手をパートナーと呼び、行動や戦闘を共に行う相方となる」


「ということは、祐巳さんは正真正銘、16歳なのね?」

「どうだろうな?」

「違うの?」

「魔界と人間界では、時間の流れが違う。こちらが1時間だとしても、魔界では1日、いう感じでな」

「天界は、人間界とほぼ変わらないわ」

「藤堂がそう言うのなら、そうなのだろう」


 そんなことを話しているうちに、玄関についてしまった。

 そこで、志摩子はお礼を言っていないことを思い出す。


「祐巳さん」

「なんだ」


 玄関をくぐろうとしていた祐巳を呼び止め、志摩子は軽く頭を下げて微笑んだ。


「今日は、助けてくれてありがとう」


 祐巳はそれにふん、と鼻で笑う。


「貴様は、私の獲物だ。誰にもやらん」

「・・・・・・・・」

「わかったな?」

「ええ。私の身も心も、祐巳さんのものなのよね」

「・・・私の言っている意味と、藤堂の言っている意味はかなり違うと思うんだが・・・・」


 こめかみを引きつらせる祐巳に、志摩子はやはり微笑む。


「大丈夫よ、受け取ったわ。祐巳さんの想い」

「藤堂、聞け」

「心配しないで。私は、あなた以外を好きにはならないから」

「とうど―――っ」

「早く帰らないと、ご家族が心配するわ。それでは、祐巳さん。また明日ね」


 にっこりと微笑んだまま、志摩子は祐巳の背中を押して閉めた。


「・・・ふふ」


 志摩子は嬉しそうに笑いをもらし、弾むような歩き方で自室に。


 閉めだされた祐巳は、


「・・・・最後の最後で、これか・・・?」


 寒い風を浴びながら、ポツリとそんなことを呟いていた。









 あとがき。


 祐巳が言っていた”あいつ”とは、ノリコのことです。

 もともとこのお話しは、乃梨子を書いてください、というリクを見て、乃梨子を出すために書いていたお話。

 まあ、かなり原作とは違って、頭のゆるい乃梨子ですけどね(爽笑


 そして、以下続くかは未定(は?















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