【何故だ!!】































 不快だ。

 今私は、かなり不快だ。


「祐巳さん。眉間にしわを寄せていては、美味しいものも美味しく感じないわ」


 何故か、こいつとともに昼食を食べることになったからだ。


「・・・何故、私が貴様と昼食をとらねばならない?」

「写真部に追われていたあなたを助けたのが、私だから」

「チッ」

「女の子が舌打ちなんていけないわ」

「貴様には関係ない」


 睨むが、天使は笑う。


「・・・・なんだ」

「いえ。今まで幾人かの悪魔と出会ってきたけれど、あなたのように人を助ける悪魔に会ったのは初めてだわ、と思って」

「不本意だ、と言ったはずだが?自分から人間を助ける気はない」

「そう言いながら、昨日のように階段から落ちた人を助けたのは、どこの誰かしら?」


 くそ!

 思い出すだけでも腹立たしい!

 何故、どいつもこいつも、私のほうへと落ちてくる!

 だいたい、先ほどことに私は関係ないんだぞ!

 普通に階段を登っていただけで、なぜ前のやつが落ちてくる!?

 どんなカトリックの学校だ、ここは!


 ムカムカしながらお弁当の蓋をあけた。


「・・・・・・」


 さすが母さん。

 美味そうだ。


「クスッ」

「なんだ」

「いえ。不機嫌だった顔が、お弁当の中身を見たとたん、機嫌よくなるものだから」

「黙れ」


 機嫌よくなって何が悪い。

 美味そうなご飯は、悪魔が見ても美味そうなんだ。


「けれど、美味しそうね。祐巳さんの機嫌がよくなるのもわかるわ」

「食べるか?」

「え?」

「母さんの料理を美味しそうと言った。ならば、お前にも食べる資格はある」

「・・・ふふ。なら、いただくわ」

「さっきから、何故お前は笑う。不愉快だ」


 そう言うのに、目の前のこいつはやはり笑う。

 だから不愉快だと言っただろう。

 その耳は飾りか?

 むしろ、天使は基本的に無視属性か?


「だって、あなた本当に悪魔らしくないんだもの。悪魔から、お弁当を食べるか?なんて言われたの、初めてだわ」

「・・・お前には、やっぱりやらん」

「駄目よ、祐巳さん。自分で言ったことは守らないと」

「私は悪魔だ。守る必要性がどこにある」

「それでも、あなたはちゃんとくれるのね。本当に、初めて見たわ、あなたみたいな悪魔」


 さっきから、こいつはうるさい。

 初めて、ばかりだ。


「だが、お前も変わっているだろう?悪魔である私と、昼食を共にするのだからな」

「ふふ。祐巳さんは、特別」

「不愉快だ」

「酷いわ」


 クスクス笑うこいつは、本当に変わっている。

 今まで会った天使など、大概は目があっただけで攻撃してくるような奴らだったぞ?

 まあ、当然、全員返り討ちにしてやったがな。


「そろそろ戻りましょうか。午後の授業が始まってしまうわ」

「煩わしいな」

「そう言わないで」


 連れ立って教室へと向かう。


 その途中、強い悪意を感じた。

 悪魔ではなく、人間のものだ。


「おい」

「なぁに?祐巳さん」


 不思議そうに私を見る天使。

 ・・・こいつ、天使のくせに気づいていないのか?

 ・・・・・・・そういえば、天使は悪魔の悪意には敏感だが、人間の悪意には鈍感だとあいつが言っていたな。


 無視しておけば良い。

 が、人間ごときに私の楽しみを減らされるのも、不快だ。

 仕方がない・・・。


「私は、用ができた。お前は、1人で教室に戻れ」

「・・・いいえ。私も一緒に行くわ」

「・・・勝手にしろ」


 私の行動で気づいたのか、天使は私が歩く横をついてくる。

 着いたのは、空き教室。


「・・・誰か、いるわね」

「ああ」


 確実に、な。


 この悪意は、殺害ではない、な。

 だが、人間を不幸にしようとしているのだけはわかる。


「おい。誰かいるのはわかっている、ここを開けろ」

「・・・・・・・・・・」


 返って来たのは、無言。

 もっとも、息を潜めているだけの気配がするから、確実に今の私の言葉は聞こえただろう。

 ふん、人間が悪魔である私を無視するなど、おこがましいにもほどがある。


「開けろ、と言っている」

「祐巳さん。ものには頼み方というものがあるわ」

「私は頼んでいるのではない。命令しているんだ」


 人間ごときに、私が頼みごとをする?

 ありえるはずがないだろう。


 黒板消しクリーナー?

 あ、あれは・・・・良いんだ!

 頼みごとではない!


「とにかく、早く開けろ!」

「とにかく?」


 お前はそこに突っ込むな、天使!

 無視属性なら、無視をしていろ!


「ったすけ・・・っ」

「うるさいっ」


「・・・聞こえたわね」

「ああ。もっとも、いることはわかっていたがな」


 最終手段だ。


「最終手段?」

「ああ。こうする」


 ――― スガァァン


「キャッ」


 ドアを蹴り倒した。

 床に倒れたドアの残骸を踏み越えて中に入れば、


「ほぉ。なかなか非道なことをしているな」

「あなた・・・何をしているの!」


 ちゃんと掃除されているのか、ホコリのない室内。

 そこには、制服のはだけた人間の口を押さえる、同じ制服を着た人間がいた。

 ようは、同じリリアンの生徒だ。


「っ邪魔しないで!私は、この人と結ばれるのよ!」

「ふん、勝手に結(ゆ)われてろ」

「祐巳さん、その”むすばれる”、とは違うわ」

「アホか、貴様は。そんなことくらい、わかっている」


 お前は、私をどれだけ馬鹿だと思っているんだ。

 いい加減ムカつくぞ、お前。


「来ないで!来たら、この人を刺すわ!!」

「刺せばいい」

「え・・・?」

「祐巳さん!」

「ふん。刺したければ、刺せば良いだけだろ。それで、お前が人間どもに拘束されることに変わりはない。罪が重くなるだけで、私には何も痛くはない」


 天使、何故私を睨む?

 本当のことだろう?

 私は悪魔だぞ?

 というよりも、説得をするのは貴様ら天使の役目だろう?

 悪魔である私に説得させようというのが、まず根本的な間違いだ。


「・・・どこのどなたか存じませんが、このようなことをするのは無意味ですよ?」

「うるさい!!」


 お前がうるさい。


「このようなことをしても、その方があなたを好きになることはありません。あなたも、好きな方に嫌われるのは嫌でしょう?」

「そんなことない!きっと、静さんは私の想いを受け入れてくれる!」


 どんな思考回路だ、人間。


「自らを傷つけるような人を、誰も好きになったりはしませんよ?」

「私は、彼女を傷つけてない!私たちは、結ばれるべき関係なのよ!!」


 人間、一度病院、という機関に行ったほうが良いぞ?


「現実を見てください。妄想も、そろそろ終わりにして」

「妄想なんかじゃないわ!!」


 天使、お前も意外と辛辣だな。

 ・・・天使、だよな?


「・・・・祐巳さん」

「なんだ」


 ――― パシン


「・・・?」

「お願い」


 おいおい、おかしくないか?

 何故貴様は、さも当たり前のように私と交代しようとする!

 説得ならば、私ではなくお前だろう!

 何故私が、人間を助けなければ・・・


「ふぅ・・・」


 って、おい!

 疲れました、って貴様天使だろう!?

 助けるのが役目じゃないのか!?


 それ以前に、悪魔に人助けを頼むな貴様!!


「・・・・・おい」


 ・・・・もはや、やる気のない天使に代わって、人間を説得することにした。

 ・・・・何故従う、私!!?

 こいつ、本当に天使か!?

 そして私は、本当に悪魔か!?

 最近の自らの行動を見返すと、断言できないぞ、おい!!


 渋々。

 本当に、心の底から渋々。

 私は、こいつを説得することにした。


 ・・・私は何をしているんだろうな・・・・(遠い目


「な、何よ!」

「とりあえず、そいつを見てみろ。お前と、結ばれたいと望んでいる顔か?」


 驚いたように、人間は自らが拘束している人間を見た。

 そいつは目の前にあるカッターの刃を、蒼白になりながら、身体を震わせながら見つめていた。


「あ・・・」

「第一、貴様がやっていることは、本当に好きな奴に対する行動か?」

「っ!」

「そうだと言うのなら、他の人間にも聞いてみろ。貴様にとって面白い答えが聞けるはずだぞ」


 ・・・・何故、私は説得なんか・・・・。


「あっ・・・あぁ・・・っ!」


 ――― コトンッ


 落ちたカッター。

 私は天使を振り返り、手を差し出した。


「ここまでやったんだ。後でもちろん、それ相応のことをしてもらえるんだろうな?」

「私の良心に恥じぬことでしたら、できる限りのことはしましょう」


 ・・・先ほどの諦めは、貴様の良心に恥じぬことなのか?

 貴様の良心は、どれほど低い位置にあるんだ。

 そして、何度も(心の中で)問うが、貴様は本当に天使なのか!


「・・・・なんだ」


 人間、何故追突してくる。

 いや、それ以前に抱きつくな。


「ありがとう・・・っ!」

「・・・礼なら、そいつに言え」


 私はその手を振り払い、教室を出ようとした。

 悪魔らしからぬ自身の行動に、私は今酷く打ちのめされているのだ。

 少しばかり、現実逃避をしたい・・・。


「・・・・離せ」

「あなたの名前を!」

「言う必要など・・・」

「彼女は、福沢祐巳さんとおっしゃるんですよ」

「貴様・・・っ」


 何を勝手に、私の人としての名を教える?

 何か、私に怨みがあるのか?

 ・・・・対なる存在だから、怨みがあって当然だが。

 いや、そういう話しではなくてだな。


「福沢祐巳・・・」


 人間、貴様も一々復唱するな。

 それに何の意味がある?


「・・・・これ以上、余計なことを言うなよ?」


 天使を睨むが、天使はふふ、と笑うだけ。

 ・・・あの笑み、私の言葉を無視する気だな?

 チッ、無視属性はこれだから嫌なんだ。

 うざったらしいことこの上ない。


 私は今度こそ、教室を出た。

 壊したドアは、当然天使に任せる。

 それくらいしろ。


 ・・・・・ふむ。

 ・・・・家に、帰るか・・・。





















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