【皆神村へ】































 暗い霞みに覆われた村。

 ぽつぽつと灯された唯一の光源である松明が、恐怖を煽る。


 皆神村。

 すでに地図上には存在しないその村。

 けれど、ある筋の者たちの間では噂の耐えないその村。


 100年前消えたこの村は。

 それを境にするように、ここを通る者達を無差別に飲み込み始めた。


 多発する、行方不明者の数。

 調べようとして、そのものたちさえも消息をくらまし。

 30年ほど前、この村に関わらないようにと、その業界にて暗黙の了解とまでなった村。


 そこに今回、3人の少女が。


 一人は、射影機と呼ばれるカメラで、霊を浄化させる能力をもつ一族の当主。

 齢16歳にして、一度のシャッターで50もの霊を浄化させるといわれている強い能力を持った少女。

 その強さは前当主であった父を軽く超越してしまえるゆえに、13歳の頃に当主となった一族の精鋭。


 一人は、その拳で霊を浄化させる能力を持った一族の、同じく当主。

 霊気をまとわせた拳は、触れた瞬間にどんな悪霊さえも浄化するといわれている。

 その体術は大の大人でさえ簡単に伸してしまうほどで、いまだかつて霊・人関係なく負け知らずだとか。

 こちらは少し遅く15歳、去年一族の当主となったけれど、その腕は他の一族のお墨付きもある。


 一人は、その2人でさえ足元にも及ばない能力を秘めた者。

 もともとその業界ではトップをほこる能力を持つその一族の中で、11歳という年齢で当主となった実力者。

 業界では、事実的に最強であり、誰もが認める能力者。

 強い力ゆえに、ただの霊ではただ言葉を発しただけで浄化させてしまうほどで、歩いているだけで勝手に霊たちが浄化されてしまう時もあるとか。

 銃、刀、護符、言霊。その者が扱えるのは多く、ゆえに最強。



 彼女達の名、それは。


 武嶋 蔦子。

 榎本 桂。

 福沢 祐巳。


 その業界では、彼女達の名を知らぬ者はモグリと呼ばれるほどの名前である。



















「ひゅぅ〜、これは凄いわねぇ」

「これはこれは、撮り甲斐がありそうね」

「フィルム足りそう?」

「ちょっと祐巳、私を侮ってる?」

「まさか」


 にっこりとした笑顔に同じように笑顔を返して。

 残りの一人も、2人に笑顔を向け。


「「「行きますか」」」


 同時に、足を踏み入れた。























「あらら〜?」

「さっそく、凄いのがきたわね」

「様子見、というところかな?」


 3人の前には、白い着物を着た少女の霊が立っている。

 ただその形相は今にも噛み殺さんと狙っている獣のようであり、ただの霊ではないだろうことが瞬時にわかる。

 その上、白い着物は血と思われる赤いもので色を変えている。


 祐巳の言ったとおり、少女はただ睨むだけで、すぐに消えてしまった。


「どうだった?蔦子。って、それ普通のカメラじゃない」

「そりゃそうよ。ああいった大物は、早々撮れるものじゃないもの」

「もう。祐巳からも言ってやってよ、蔦子のこの趣味」

「でも、私たちに実害があるわけじゃないし、楽しめるものがあるのは良いことだよ」

「さすが祐巳、わかってるじゃない♪」

「はぁ・・・。祐巳って、蔦子に甘いわよね?」

「そうかな?桂には甘くない?」

「そういうわけじゃないけど」


 顔を覗き込まれ、桂は口を尖らせる。


 自分よりも蔦子の方が贔屓されているように見える。

 隣の家の芝の方が青く見える、という例えそのものだ。


「それより、そろそろ行きましょうよ。なんだか、もう一人いるみたいよ?・・・それも、一般人が」


 蔦子の言葉にすぐに反応を見せる祐巳と桂。


 2人は真剣な顔に変え。

 桂は手に第二関節くらいまでの手袋を嵌め。

 祐巳は突如空中に現れた暗い穴に手を突っ込み、真っ白い銃と刀を取り出し、腰にさす。


「行こうか、2人とも」

「「ええ」」


 3人は、祐巳を先頭にして駆け出した。

 


 3人が生きた人間の気配を追って着いてみれば、そこには3対の霊と、祐巳たちと同じくらいの少女が。


「あれは、ずいぶん型が古いけど射影機だわ」

「それについてはあの子に聞くとして」


 桂が一瞬のうちに、3体のうち1体に近づきを浄化。

 その間に、祐巳も発砲音がしない真っ白な銃で1体を浄化。

 蔦子も即座に撮影、最後の1体を浄化した。


「あ、あなた達は・・・!?」


「初めまして、私は福沢祐巳と申します。彼女達は、髪の短い子が榎本桂、カメラを持っているのが武嶋蔦子です」

「私どもは、この村、皆神村の調査及び異変の解決のために参りました」

「あなたは何故、この村に?」


「え、えっと、ここの近くが故郷で。近々、ここがダムの底に沈むって聞いて、家族でやってきたんです」


 慌てたように彼女が答えると、祐巳たちは顔を見合わせ、視線を鋭くさせた。


「もしや、ご家族がこの村で行方不明に?」

「あ、いえ、お母さんは泊まってる宿で休んでいるんですけど、一緒にここまで来たお姉ちゃんがいきなりどこか行ってしまって」


 一瞬和らいだ3人の視線。

 けれど、最後の部分でさらに鋭くなった。


「お姉様が・・・。そうですか。では、その方をすぐに探しましょう」

「え?」

「とりあえず、あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」

「あ、はい。私は天倉澪っていいますっ」

「お姉さんのお名前は?」

「繭。天倉繭です。双子なので、すぐにわかると思います!」


 蔦子と桂に答える澪。

 1人で心細かったのか、どこか安堵しているようだ。


 そんな澪の手を、祐巳がそっと握った。


「あ、あのっ」

「大丈夫ですよ。あなたのお姉様は、ちゃんと見つけますから安心してください」

「・・・ありがとうございます!」


 戸惑ったように恥ずかしそうにしていた澪は、祐巳の言葉と優しい笑顔に笑顔を浮かべ、頷いた。

 手も一緒に握り返す。

 祐巳はそれを受け、同じように握り返し。


 それを見ていた蔦子と桂は、微妙な顔。

 やっぱりなぁ、というような顔と。

 さすが祐巳、というような顔。


「でた、エンジェルスマイル」

「祐巳はずっと修行してたから、俗世に染まってない分真っ白なのよね」


 桂のいったエンジェルスマイル、”天使の笑顔”。

 それは、祐巳が浮かべる笑顔の総称。


 その能力の高さゆえに幼い頃から修行に明け暮れていた祐巳は、蔦子や桂と違って普通の女の子のような習慣を持っていない。

 祐巳が学校に通いだしたのでさえ、今年入学した高校からだ。

 ゆえに、打算などない祐巳の心からの笑顔は、周りにとって見たら眩しすぎて。

 けれど、綺麗で優しいからこそ、周囲からは天使の笑顔と呼ばれていた。


 祐巳を溺愛する両親が、写真にとって額縁に飾るくらいには。

 祐巳にシンパができるくらいには、人気の笑顔だ。


「はいはい。じゃあ、さっそく澪のお姉さん助けに行きましょう」

「あ、そうでした」

「いや、そうでしたってあなたね」


 蔦子の割り込みに返ってきた澪の返答に、桂は苦笑。


「とりあえず、この子も戦えるみたいだし。仲間ってことで、祐巳も敬語止めたら?」

「あ、お、お願いします!」

「・・・わかった。それじゃあ、澪も敬語は止めようね?」

「あ・・・。うん!」


 祐巳の笑顔に見惚れつつ、澪は元気に頷いて。

 祐巳はそれに笑みを深めた。


「「まったく、綺麗に笑いすぎ」」


 そんなことを、蔦子と桂は呟く。











 あとがき。


 蔦子が皆神村に行ったら最強なんじゃないか、という拍手を読み、いつか書こうと思っていた蔦子IN零〜紅い蝶〜です。

 楽しんでいただければ幸いです。







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