【変わりゆく想い】
ごきげんよう。
いつもの挨拶。
不変の世界。
モノクロの世界。
その中で、ひときわ輝いて見えた人。
思ったことがそのまま出る表情。
けど、いつも笑顔の。
この人に負の感情なんて存在するのかと。
悲しむことなんてあるのかと。
一見、何の変哲もない。
モノクロの人達と、あまり違いのないようにみえる方。
けれど確かに、あなただけがモノクロの中で一つの色を持っていらっしゃった。
あなただけが、モノクロの中で唯一の彩だった。
というのに、長期休みがあけたその日、変貌していた唯一。
怒りを感じ。
苛立ちを感じ。
そして、悲しみを感じた。
偽者だと思った。
あの人は、祐巳さまの偽物だと。
ゆえに正体を暴こうと近づいた。
本当は、祥子さまもどうでもよかった。
私は、そこまであの方に括ってはいなかったから。
それでも、少しでも以前のあなたに戻っていただこうと思って何度も近づいて。
だからこそ気づいた。
彼女は、祐巳さまなのだと。
私を見つめるその瞳は悲しみに染まり。
だというのに、私を気遣う優しい色もあり。
静馬さまのお話しをすれば、とても嬉しそうに微笑み。
彼女は福沢祐巳。
私の唯一であり。
私の彩。
変わってしまったあなたは。
けれど、変わらず。
以前の祐巳さまが良いと、私は思うのに。
今のあなたも知りたいと、そう思ってしまう。
私は、あなたのその悲しみを癒せますでしょうか?
私は、あなたの涙を拭えますでしょうか?
私は、あなたに以前と同じでもなくていい。
それでも、笑顔と言えるくらいの微笑を浮かばせることができるでしょうか?
「祐巳さま」
「瞳子ちゃん」
声をおかけすれば、かすかだけれど微笑んでくださるようになった。
私は変わらず、それに生意気な表情でしか返したことはないけれど。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう。今日は何の本を読んでらっしゃいますの?」
「これ?これはね―――」
祐巳さまがおっしゃったのは、聞きなれない本。
きっとまた、向こうのご本なのでしょう。
自然に私のスペースを横にずれてくださる祐巳さま。
不承不承を装って、その場所に座る。
内心、お優しい祐巳さまに喜びを感じているのに。
「お聞きしましたわ」
「うん?」
「この間の実力テストで、学年で1番だったとか」
「ああ。大したことじゃないよ」
うっすらと、困ったような笑み。
以前の祐巳さまは、テストで平均点数だった。
私はそれを茶化しながら、慰めるのが好きで。
今の祐巳さまに、その行為ができないのが残念に感じてしまう。
けれど、代わりに。
「けど、瞳子ちゃんが授業でわからないところがあったら教えられるから、良いことかもしれないね」
そう、おっしゃってくださるようになったから。
お優しい小さな微笑を見るのも、最近の私は好きになりつつありますの。
「そうですわね。でしたら、今週の土曜日、学校が終わった後に教えていただけますか?」
日曜日は、静馬さまや他校の方とのお約束が入っているのを私は知っているから。
本当は、私も祐巳さまと遊びに行ったりしたいけれど。
それは、私がその方々と同じ位置に立てたときまで、とっておきますわ。
「良いよ」
かすかな微笑の中に、私の意思を理解したがゆえの謝罪の色が見えて。
私はそれが見えない振りをして、祐巳さまから目をそらした。
それから少しばかりお話しをして。
気がつけば何故か、私は祐巳さまの膝に頭をのせていた。
「っ!?」
「あ、起きたんだね」
慌てて飛び起きて。
居住まいを正す。
そんな私を、祐巳さまは小さな苦笑を浮かべて。
「そんなに慌てることないのに」
「い、いえ、淑女としてはしたないですわっ」
「そう?」
「はい」
顔が赤くなるのが抑え切れない。
なるだけ、祐巳さまを見ないように努める。
けれど、私の行動をお見通しなのか、祐巳さまはクスクスと小さく笑った。
「祐巳さま!人を見て笑うなんて、酷いと思いますわ!!」
本当は、今の祐巳さまが笑う、という珍しいそれに内心、喜びを感じているけれど。
それを、私は素直に表に出すことなんてできないから。
いつもの、憎まれ口を叩いてしまう。
「ふふ・・・。そうだね、ごめんね、瞳子ちゃん」
撫でられる頭。
今度こそ赤みが表に出ないようにと、意味のわからないことに頑張ってしまいましたわ。
やはり、この方は祐巳さま。
以前も今も、私の心をかき乱すのは同じ。
これといった理由もなく行う祐巳さまのその行動で、私はいつも取り乱してしまう。
「こ、子供扱いは止めてくださいませ!」
「そんなつもりないよ。瞳子ちゃんが、可愛いなって思っただけ」
「っ!?」
また、そうやって!
静につむぐ祐巳さまの声。
静かな、かすかな微笑。
結局あなたは、私の心を絡めとるだけ絡めとるのですね。
自らの行動の影響を考えることなく。
自らの魅力を理解なさらず。
「さ、そろそろ午後の授業が始まるから、教室に戻ろうか」
「はい、祐巳さま。それでは、ごきげんよう」
「ごきげんよう、瞳子ちゃん」
祐巳さまから離れ、私は顔の赤みを飛ばしながら教室へと向かった。
いつかの私は、遠い彼方。
何故ならあなたは、私の唯一。
私の彩。
「・・・あなたがいるというのならば、リリアン以外に通うのも悪くはありませんわね」
私の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。
ブラウザバックででお戻りください。
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