【気づいて、とは言えないけど】
蓉子は、頭を抱えていた。
江利子は、口に手をあてて笑いを我慢していた。
聖は、あ〜あ、といった顔をしていた。
そんな3人の反応を気にした様子もなく、祥子は胸をはっている。
周りにいる者たちは、祥子の発言に唖然。
祥子の隣にいる少女も唖然。
室内を、微妙な空気がうめつくす。
ここは、リリアン・キッズオン。
その名の通り、子供用のものを製作、販売している会社である。
子供服、おもちゃ、学校用品、など。
6年前に出来たこの会社は、うなぎのぼりに業績を上げ、今では世界でも有数の大企業として知られている。
そして、その会社は独特の形態をとっており、それは姉妹(スール)と呼ばれる関係だ。
入って5年以下の社員を、5年以上務めた社員に指導、育成させるシステム。
互いの合意があって初めて成立するそれは、一対一での指導である。
もちろん、姉妹(スール)を持たなくてもいいのだが、ほとんどの社員が契りを結んでいる。
そんな形態が、社員の能力向上に繋がっているのだ。
そんな社員達の中で人気があるのが、”山百合会”と呼ばれる幹部達。
彼女達は特に成績が良いことからそう呼ばれ、社長に一番近いこともあり尊敬されている。
彼女達のみの部署が特別に設置されたことも関係しているのだろう。
ただ、社長が誰なのかは社員にも知られておらず、知っている物はごく少数。
正確に言うと、社長直属の部下である、
水野蓉子。
鳥居江利子。
佐藤聖。
この3人だけが、社長と直接会うことを許可されており、事実この3人しか社長の顔を知らない。
ゆえに、現在困ったことになっていた。
「祥子、もう一度いってくれるかしら?」
「ですから、この子を私の妹(プティ・スール)にいたします!!」
どーん、と効果音がつきそうなほど強く宣言した祥子に、蓉子は眩暈を感じた。
江利子が楽しそうな笑顔で祐巳を見れば、唖然とした顔はもうそこにはない。
おどおどとしたような顔で祥子や周りを見渡している。
確かに祥子にはちょうど良い人材、新入社員っぽい子だ。
感じ的には、誰とも姉妹(スール)にはなっていなさそうである。
「(やはり、素晴らしいわ)」
大声で笑いたい衝動をこらえながら、江利子は心の中で賞賛する。
隣の聖は、微妙な顔で祥子と祐巳を見つめているのみ。
事の起こりは、30分ほど前。
「お姉さま、この企画では問題があると思います」
「例えばどんな?」
「収入と支出を計算すれば、確かに利益はあります。ですが、これよりも私の出した企画のほうが、はるかに利益が出ます」
「でも、わが社は利益を追求する会社ではないわ」
「江利子の言うとおり。利益ばっかり求めてたら、普通の会社と同じじゃない」
江利子と聖にまで言われ、祥子はムッとした顔になる。
「そうはおっしゃいますが、事実会社としては、利益が多い方がいいと思いますが?」
「あなたの企画だと、”それ”目的なのよ。そんなのを社長に見せても、跳ね返されるだけだわ」
「でしたら、私が直接社長と交渉します!」
姉(グラン・スール)の言葉に、祥子はとうとう椅子を倒して立ち上がった。
けれど、それに慣れている蓉子たちは気にしない。
「駄目よ。社長と話しをして良いのは、私たち3人のみ。当然、社長の顔を知っていて良いのも」
「それが不満なのですわ!!なぜ私達はいけませんの!?」
「そんな根本的な問題を言われても。それが嫌なら、この会社に入らなければ良かったのに」
聖の言うことはもっともで、でもそれで祥子は納得なんてできない。
「そんなこと―――!!」
「祥子、いい加減にしなさい。何より、誰かを指導したこともないあなたを、社長に会わせるわけにはいかないわ」
「っ!・・・・わかりましたわ、でしたら、すぐに妹(プティ・スール)を連れてきます!!それで良いのでしょう!!?」
こうして祥子は会議室を飛び出し、たまたま通りかかっていた祐巳と激突、さらには蓉子たちの前で彼女が妹(プティ・スール)だ、と宣言したのだ。
ほとんどの者が状況のつかめないまま、由乃と志摩子が飲み物を配る。
ちなみに、由乃も志摩子も入社2年目社員である。
天賦の才があったのか、すでに能力が開花し始めている、優秀な子達。
「・・・・・祐巳さんは、今年入社した子かしら?」
「え、えっと、に、2年目、です」
「なら、わたしたちと同期なのね」
「あ、お2人もそうなの?」
「ええ。由乃さんも私も入社して2年目なの」
「良かった。同期の方がいて」
由乃と志摩子に安心したような笑みをこぼす祐巳。
それをちらりと見たあと、蓉子たち3人は顔を見合わせる。
蓉子はため息。
江利子は笑い。
聖は空笑い。
「これで、社長との面会を許可していただけますか?」
「「「するわけないでしょう」」」
堂々とした祥子の問いに、即答する3人。
祥子はそれに目を見開き、怒ったような顔で3人を睨んだ。
「・・・・・・えっと、どういうこと?」
「・・・・・・実は―――」
状況がつかめずにいた祐巳が、隣にいた志摩子に小声で問いかける。
志摩子はそれに困ったような笑みを浮かべて、事の詳細を教えた。
「話が違いますわ!!」
「だからさ、これはもうこの会社の取り決めなわけ」
「そう。社長の顔を知っていいのは、直接話しをして良いのは、誰がなんと言おうと私たち3人だけ」
「確かに、指導した経験があるのはいいことよ。これからの仕事にも活かせるわ。けれど、社長に会うということに関しては、妹(プティ・スール)を持っているということ以前の問題」
憤る祥子に、聖、江利子、蓉子は冷静に対応。
「わが社が、社長の方針により、利益よりも子供の心に重心をおいて考えてるのは知ってるよね?」
「確かに利益が出るのは良い。けれど、そればかりに気を置いて、子供達に対する思いやりがおざなりになってしまったら、まさに本末転倒よ」
「あなたの企画書は、まさにそれだわ。こんなものを実行に移せば、世間からの社長へ評価が下がってしまう」
「「「私たちはそれを許さない」」」
聖、蓉子、江利子、最後に3人同時に。
それだけで、3人がどれほどまで社長を大切に思っているのかうかがい知れる。
祐巳たちはそこまで言う3人に驚き、祥子は唇を噛みしめた。
それはまだ見たこともない社長に対する嫉妬で、
それは自信のあった企画書に対して、そこまで言われてしまった憤りで、
それはこの会社のことを、3人の半分も理解できていない自身に対しての苛立ちで。
「あれ、祐巳さん。どうしたの?顔、赤いよ?」
令の問いかけ。
3人はハッとしたように祐巳を見た。
真っ赤な顔で令に何か言い訳をしている祐巳がいる。
3人も、思わず顔を赤くして祐巳から目をそらした。
「・・・・えっと、3人とももしかして、給料の値上がり希望?」
「そんなわけないでしょう!!」
「話しをそっちにもっていきますか!?」
「どういう思考回路をなさってるんです?」
唐突に問われた内容に祥子たちは驚き、蓉子たちは恥ずかしそうに返した。
なぜか、敬語で。
「まあ、いただけるものはいただきますが」
「あ、やっぱりそうだ」
「江利子!あなたも、いちいち信じないでください!」
「というか、わざとですよね?」
「バレた?だって、あんな恥ずかしいことさらりと言うんだもん。あー、恥ずかしい!」
まだ少し赤い顔をパタパタ扇ぐ祐巳を蓉子たちが睨む。
「言った私たちのほうが恥ずかしいです」
「確かに、江利子はなかなかそういうこと言わないしね」
「江利子はツンデレですから」
「なによそれ。変な俗語でくくらないでくれない?聖」
「「ツンデレー」」
「なら、聖とあなたはデレデレですね」
「「なにそれ!?」」
「聖!江利子!
社長
も、くだらないことおっしゃらないでください!」
蓉子がくだらないやり取りを止める。
唖然とそのやり取りを聞いていた祥子たちは、蓉子の言葉になにやら聞き逃せない単語があったように感じて・・・・。
「・・・・・社長・・・・・?」
誰かの呟き。
「「「あ・・・・・」」」
蓉子たちが動きが固まり、祐巳だけがわかっていたようにクスリ。
まるで油のさしていない機械のような動きで、祥子たちは祐巳を見た。
祐巳はそれに、にっこりと。
「初めまして。福沢祐巳、キッズオンの社長をしてます」
沈黙。
「「「「ええええええ!!!!!????」」」」
会議室に、他の部署にも聞こえるのではないか、と思われるくらい大きな叫び声が響き渡った。
祐巳は楽しげにニコニコ。
蓉子たちは頭を抱えた。
福沢祐巳、21歳。
若干14という歳で、アメリカの有名な某大学を卒業。
その後、幼馴染であった蓉子と、その友人であった江利子と聖と共に会社を設立。
まだ、祐巳が15歳の頃だった。
幼い外見からは想像もできないくらい優秀な頭脳。
それでも持っている、底知れない優しさ。
それらのおかげで、会社は大企業と呼ばれるまでになり、社員総数数千人。
誰が想像するだろう。
それほどまでの人数をまとめているのが、二十歳を越えたばかりの女性だと。
オマケ
「今日は、本当、散々だったわ」
「バレないほうが良かった?蓉子」
「・・・・・バカ」
「蓉子ー、祐巳の1人占めはよくない」
「同感。今日は、私の番なんだから」
「それもズルイ」
「江利子、明日に差し支えるほどは止めなさいよね」
「蓉子に言われたくないわ。お風呂に行きましょう、祐巳」
「はいはい」
「・・・・わたし、無視?」
ブラウザバックでお戻りください。
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