【変化】
「ねえ、祐巳」
「どうしたの?おねえちゃん」
「最近のあなた、変よ?」
「え?」
テレビへと向けていた顔をお姉ちゃんへと向けてみれば、お姉ちゃんは真剣な顔で私を見ていた。
「中等部に妹さんがいる人から聞いたわ。あなた、あまり人と一緒にいたがらなくなって、ほとんど授業も聞いてないそうじゃない。それに・・・」
お姉ちゃんは少し躊躇したように目を俯かせると、小さく言った。
「いつも、無表情だって」
「・・・・・・・・・うん」
「急に髪も下ろすようになったし。一体、どうしたの?何か悩みがあるなら、私に話して頂戴」
「・・・別に、たいしたことじゃないって。ただ、高校は違うと頃にいこうと思ってて、それについて悩んでるの」
悩んでなんていないけれど。
アストラエアに行くことは、私の中ですでに決定済みだけれど。
それでも、お姉ちゃんを安心させてあげたかった。
「祐巳、リリアンに進まないの!?」
「うん。知ってるかな?アストラエアに行こうかな、って思ってるの」
「知っているけれど・・・・・。ねえ、何故リリアンではなくて、そこなの?」
「それは・・・」
本当のことなんて、言えない。
「この間まで、高等部に進みたがっていたじゃない?わざわざ、あんなに遠くへ行かなくても」
「通学に関しては、問題ないよ。あそこは、寮だから。そこに住めば・・・・」
「問題はそこじゃないわ!何故急にそう思うようになったかよ!」
「・・・・・・私の、いるべき場所はリリアンじゃないの」
「え?」
「私がいるべきなのは、アストラエアなの。みんなのいるあそこだけが、私が”私”でいられる場所なの」
「祐巳!」
私はそれだけ言って立ち上がり、リビングを出て行った。
お姉ちゃんの呼び声には、答えることなく。
私しかいない部屋。
私だけの部屋。
壁へと目を向けても、そこに綺麗に笑う夜々ちゃんはいない。
部屋を出ても、長い廊下はない。
耳を澄ませても、ひそひそと話をする同級生達の声は聞こえない。
夜の12時まで起きていても、光莉ちゃんや玉青お姉様が入ってくることもない。
常に1人の部屋。
いつも、みんながいてくれた部屋。
現実と思い出のギャップが、私を悲しくさせる。
泣きたくなってくる。
私は弱い。
だから、私は求める。
まだ会えない、たくさんの人達を。
「祐巳さま」
図書室へと向かう途中、聞いたことのある声が聞こえ、私は振り返った。
「瞳子ちゃん」
彼女は、いまだ私を睨んだままだった。
「今、お暇ですか?」
「暇だけど・・・・」
「でしたら、ついてきてください」
踵を返し、すたすたと歩いていってしまう彼女に戸惑いながら、私はついていった。
着いた場所は、あまり人のない場所。
「瞳子ちゃん、一体どうしたの?」
「あなたに、お聞きしたいことがあります」
「何?」
何故か、彼女は息を大きくすい、そして吐き出した。
とりあえず、そんな彼女を待つ。
「・・・・あなたは、花園静馬さまと、お知り合いですか?」
問われた言葉は、思ってもみなかったものだった。
彼女から、静馬お姉様のことを問われるなんて、誰が予想するだろう。
「なんで?」
「昨晩、花園さまから電話がありました。私の一つ上の、水野祐巳という子と知り合いか、どうかを」
「・・・・・・なんで・・・・」
「祐巳さまがどんな方なのか、何を好きなのか、何が嫌いなのか。そういったことを聞かれましたわ」
天にも、昇る気持ちだった。
静馬お姉様が、私のことを知りたがっている。
それは、どれほど魅力的で、どれほど甘美なことだろう。
同時に、何故我が家に電話をして下さらなかったのかが、とても気になった。
静馬お姉様は、影でコソコソするような方ではないのに。
「祐巳さまも、花園さまとはお知り合いのようですわね」
「うん」
「どうやってお知り合いになられたのですか?あんな、楽しそうな花園さまの声、聞いたことがありませんでしたわ」
「嬉しそうだったんだ・・・・」
自然と、ほころぶ顔。
そんな私に、瞳子ちゃんの鋭い視線が突き刺さった。
「次ぎ会った時、驚かせるのだと嬉しそうに、聞いてもいないのに言ってきましたわ」
・・・・静馬お姉様、ごめんなさい。
祐巳は、勝手に聞いてしまいました。
けど、とても嬉しい。
「・・・・何故、そのような顔をなされるのですか?」
「え?」
「あなたは・・・・あなたは、祥子お姉さまが好きだったのではないのですか!?」
・・・・・誰?
あ、そう言えば、祥子、っていう名前、よく姉さんの手紙に書いてあった。
ということは、紅薔薇のつぼみの妹?
「祥子さま、か・・・・」
今の私には、ありえない感情だ。
私の”想い”は全て、アストラエアのみんなに向けられているのだから。
第一、祥子さまを知らないし、姉さんから送られてきた写真でしか、見たことがない。
あ、もう一つ思い出した。
その写真をみんなに見せて回った時、ついでに祥子さまのことを言ったら全員に嫉妬されてしまったことがあった。
確かに祥子さまは綺麗だったけれど、それ以上の感情を抱いたことは一度もない。
それでみんな納得してくれたけれど。
「あんなに、あんなに祥子お姉さまのことを話していたのに、何故あなたは今、そんな興味のない目をなさっているのですか!」
実際に、興味がないのだから、仕方がないじゃない。
そう言えたら、どれだけ楽だろうか。
そして、どれだけ彼女を傷つけてしまうのだろうか。
「瞳子ちゃん、私は静馬お姉様方を・・・・」
「お姉様!?あなたは、その呼び名がどれだけ大きな意味をもつのか、リリアンの生徒ならば理解しているはずです!!」
自分をリリアンの生徒と認められない私には、そんな意味、わからない。
けれど、これだけはハッキリ言える。
「私は、このリリアンで、誰かをそう呼ぶことはしない。その名で呼ぶのは、静馬お姉様や、天音お姉様、千華留お姉様といったアストラエアの方だけ」
「っ!」
鋭い目で、本当に強く、睨まれた。
それでも私は、その目を見つめ返す。
「私の居場所は、リリアンにはないの。私がいて良いのは、私がいたいのは、あの方々の傍だけ。私が、唯一本当を出せるのは、あそこだけなの」
瞳子ちゃんは目を見開き、そして唇を噛みしめた。
その目は潤み、泣きそうで。
胸が痛んだけれど、私はこの心を撤回するつもりなどない。
これが、私の、紛れもない本心なのだから。
ブラウザバックでお戻りください。
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