【プロローグ】































 はるか昔、日本どころか世界に名を馳せていた一族があった。

 その一族の名は、

 福沢一族。


 彼らは”精霊使い”と呼ばれ、自然に宿る精霊達とともに、あらゆる厄災から人々を護っていた。

 けれど、精霊と共にいられる一族内でのみの婚姻を交わしていたがゆえに、死産するもの、奇形児で産まれるものが多くなり。

 彼らは、他の一族と交わり、血を薄めざるをえなくなってしまった。


 だが、薄まりすぎた血は、能力を持つものを減らしていってしまったのだ。


 数百年後、福沢一族のものに、能力を持つものはおらず。

 年月と同じように、人々の記憶からも遠い彼方のことのように過ぎ去り。

 精霊たちの存在を証明しているのは、唯一つ。

 一族に伝わる、伝承のみとなっていた。


 だが14年前。

 先祖がえりとして、その能力を受け継いだ女の子が産まれた。


 彼女の名前は、福沢祐巳。


 一族にとっては、もう一度世界から崇められ。

 全ての者たちに称えられる、唯一の子供。


 一族の者たちは、彼女をそのための”道具”と見るようになった。
























「朝の修行はここまで」

「ありがとうございます」


 すっと頭を下げた少女の名は、福沢祐巳。

 目の前にいるのは、祐巳の父親である祐一郎だ。


「気をつけて学校に行くように」

「はい」


 もう一度頭を下げ、祐巳は道場を出て行った。


 福沢一家。

 彼らは自らの大切な娘を、復興をもくろむ一族に攫われないために、脅威に対するすべを教えた。

 それは、祐巳が持つ精霊の力を借りてのすべ。

 もちろん祐一郎や息子にそういった力はないが、刀や銃といった武器に瞬時に対応できるようにと訓練をしているのだ。


 あれはいつだろうか。

 まだ、祐巳が12歳くらいの時だ。


 祐巳を能力者を産むための道具として、一族に拉致られる事件が起きた。

 彼らはまだ幼い祐巳に子供を産ませようと、監禁し、一番血の濃い、初老といってもいいであろう男と交わらせようとした。

 彼らにとって、一族の名誉が復活するのに、幼子に非道な行いをすることに対しての罪悪感などなかった。


 しかし、予想外なことが起こった。

 それは、祐巳があまりにも精霊達から愛されていたことである。


 祐一郎たちが本家にやってきたときにはすでに、老若男女関係なく、精霊たちが彼らを殺した後だった。


 唯一の生き残り、

 それは精霊達に守られ、けれど体中を真っ赤に染めた祐巳だけであった。


「あれから、もう4年か・・・」


 あれ以来、祐巳は表情と呼べるものをなくした。

 救いは、全ての感情を失わずに済んだ、それだけ。


 祐一郎は、自らの周りに転がっている残骸へと目を向ける。

 使い物にならなくなった、たくさんの武器であったもの。

 拳銃であったり、ショットガンであったり、バズーカ、と呼べそうなもの、スタンガンだったもの。


「役に立つか、わからないけどな・・・」


 精霊という未知にたいして、どう訓練すれば良いのかわからないのは当然。

 だから、祐一郎は手当たり次第、祐巳に危害を加えるであろう道具をそろえ、それに対応させる。


 いまだ分家は、祐巳を狙っているから。


「・・・いつか、あの子がまた笑顔を取り戻してくれればいい・・・」


 自分達の子供だ。

 大切な。

 もう1人の子供と同じくらい、大切だから。

 力があるかないかなんて、彼らには関係ないから。


 祐一郎は、思い出す。

 ひまわりのような。

 太陽のような、

 失った、可愛い笑顔を。

 温かい、笑顔を。


 そのためなら、裏切り者と称されてもかまわないと。

 大切な我が子を、道具のように扱われるくらいならばと。

 どうせ、他のものにはわからないのだ。

 他人事だから。

 自らの子供ではないから。


 大切なあの子を護るためならば、その子に武器を向けるたびに浮かぶ辛ささえも押し込める。


「今日も、無事に帰ってきてくれ、祐巳・・・」












































 福沢祐巳。

 16歳。


 彼女は、人間が大嫌いだ。

 正確に言えば、自分のためを思って行動してくれる家族以外の、他全ての人間が嫌いだ。


 4年前のこと以来、祐巳は人を信じる心をなくした。

 家族以外の全てのものが、自分を虎視眈々と狙っていると思うようになった。

 否、自分の”能力”を。


 だから、他人とは一定以上近づかない。

 もちろん、相手に気づかれないように注意しながら。


 祐巳の日常は、安心、などという言葉から程遠い。

 安心するのは、精霊達と共にいるときか、家族だけがいる空間だけ。


 馴れ馴れしい人に、本心なんていわない。

 優しそうな人にだって、同じこと。

 馬鹿っぽい人にだって。


 もっとも祐巳は、精霊達から誰が自分を狙っているのか、という情報が流れてくるため、すぐにわかる。

 それでも、祐巳にとっては関係なくて、家族と精霊以外は”敵”、なのだ。


 今まで何度か、なんでもなかった人が本家や分家にお金を渡され、祐巳を人気のないところに誘おうとする者がいたから。

 そうなる可能性が秘めている者たちに、心を許すはずなんてない。


「祐巳さん、ごきげんよう」

「ごきげんよう、志摩子さん」


 祐巳が通う高等部、マリア像の前を素通りする祐巳に声をかけたのは、同級生の藤堂 志摩子。

 あることがキッカケで、祐巳の友達となりたい、と思うようになった子だ。

 動機は、不純なものではなく、完全なる好意によるもの。


 一つ、訂正しよう。

 祐巳は家族と精霊以外の人間が嫌いだが、志摩子に関してはある程度心を許している。

 もちろん、彼女の隣ならば安心して眠れる、なんてことは一切ない。

 が、それでも他の者たちとはかなり違いがある。


 それでも、祐巳は志摩子を”友達”、とは思ってはいないが。

 知り合い程度?


「今日もいい天気ね」

「そうですね」


 それ以降は、お互いに無言で。

 けれど、志摩子はその沈黙がいやではないし。

 祐巳は、気にしてすらいない。


 放課後。

 志摩子は委員会があり、祐巳は家に帰るための道のりを歩いていた。


 その時。


【ご主人様】


 聞きなれた、そのコエ。

 さりげなくぴたりと、足を止める。


「(シルフィ?)」

【ある場所の空間が歪んでいるのですが】

「(何か問題が?)」

【それが・・・その歪みに、吸い込まれてしまいそうなのです】


 祐巳はそれを聞き、かすかにだが目を見張った。

 そしてすぐ、風の精霊であるシルフィに場所を聞き、そこへと向かう。


「・・・呼んでいるようですね」


 その場所に着けば、人気のない神社。

 歪んだ空間の穴から聞こえる、どこか助けを求めるような声。


 本来ならば、自分が大切に思っていないものからの助けなど無視するのだが・・・。


「・・・・・・・」

【ご主人様?】


 このときは何故か、行かなければいけないと。

 祐巳は、何かに突き動かされるように。


【っご主人様!!】


 その歪みに、自ら飛び込んだ。


 一陣の風が、まるでそれを追うように歪みにぶつかった。

















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