【果たした再会】































「ねえ、乃梨子ちゃん」

「はい」

「祥子たちはどの部屋にいるの?」

「あ、見えてきました。あそこです」


 しばらく乃梨子に案内されるような形で上へとあがっていた祐巳たち。

 いつまでこの屋敷の中を歩くのか、と蓉子が問いかければ、目的地を乃梨子は指差してくれる。

 蓉子たちは顔を見合わせ、それにホッと。


 祐巳はそんな蓉子たちに小さく笑い、そんな祐巳を瞳子はただジッと見つめていた。


 ドアの前に立ち、乃梨子が叩く。

 乃梨子は祐巳のためにドアを開き、祐巳はありがとうの意味をこめて軽く微笑みかけ、ドアをくぐった。


「嘘・・・・っ」


 呆然とした、蔦子の呟き。


 ――― ガタン!!


 同時に響く、椅子の音。

 祐巳はそれらを理解し、近くの椅子に瞳子をおろす。


「あぁ・・・・っ!祐巳!!!」

「っ祐巳さん!!!」


 椅子を倒して駆け寄ってきた祥子と志摩子は、勢いを殺すことなく飛びつくように抱きついた。

 祐巳はそれに少したたらをふむが、それでもしっかりと抱きとめる。

 優しい笑みを浮かべながら。


「祐巳祐巳祐巳祐巳祐巳っ!!」

「祐巳さん!祐巳さん!!」


 ぎゅうっと、苦しいくらいの抱擁。

 それを感じさせず、祐巳は震える肩を優しく抱きしめ返す。


「・・・・・祐巳ちゃん、久しぶりだね」

「はい、お久しぶりです、柏木さん」

「祐巳ちゃん、良かった・・・・」

「ご心配おかけしました、清子さま」


 2人に小さく微笑みかけ、祐巳は蔦子を見た。


 蔦子は顔をそらし、片手で顔を抑えている。

 それが、泣いているのを隠しているのだと、祐巳はすぐに理解できた。


「蔦子さん」

「・・・ごきげんよう、祐巳さんっ」


 まるで、昨日も会ったように微笑み、挨拶をしてくれる蔦子。

 けれど、微笑み、目を細めたとたん目尻から涙を流す蔦子に、祐巳は笑みを深めた。


「うん、ごきげんよう、蔦子さん」


 祐巳も同じように普通に挨拶を返すと、蔦子には珍しい、くしゃりと顔をゆがめた笑みを浮かべた。


「・・・・・そろそろ、わたしに気付いてくれると嬉しいな〜?」

「っ!?」


 祐巳に抱きついたまま、勢いよく顔を上げた志摩子は、その先に聖が苦笑しながら立っているのを見つけ。


「お姉さま!!」


 祐巳から少し名残惜しげに離れると、聖に抱きついた。


「祥子も、しばらくぶりに会った祐巳ちゃんをずっと抱きしめていたいのはわかるけど、少しは私にも無事な姿を見せてくれないかしら?」

「お姉さま・・・」


 祥子は祐巳からそっと離れ、蓉子を見、それから祐巳を見た。


 祐巳は微笑みながら祥子の涙を拭ってやると、すっと一歩後ろに下がり、蓉子への道をあける。

 涙を拭われたことにも、一歩後ろに下がることにも祥子は驚き、けれど微笑を浮かべて祐巳の髪をさらりと撫で、蓉子に抱きついた。

 蓉子も祥子を優しく包み込む。


「これで、全員そろいましたね」

「みんなが無事で良かった」


 由乃と令が嬉しそうに笑いながら部屋に入ってくる。


「おねぇちゃ」


 足に抱きついてきた瑞樹を抱き上げ、祐巳は由乃と令に近づいていく。

 明智と瑞穂も。


「おや、そちらの方は?」

「警察の明智さんと、警察に非難していた瑞樹ちゃんと、瑞樹ちゃんのお母さんで瑞穂さんといいます」

「明智だ」

「祐巳ちゃんが抱いてるのが娘の瑞樹で、私は橋本瑞穂よ」


 優に祐巳が紹介すると、明智も瑞穂も自己紹介。


「僕は柏木優といいます。警察の方がいてくださると、僕たちも安心します」

「そうね」


 言葉通り、どこか安心した雰囲気を醸し出す優と清子。


「そうですか?明智さんと一緒より、祐巳さんと一緒の方が安心しますけど」

「ひでぇな」

「本当のことですから?」


 由乃に情けない顔をする明智。

 すまし顔の由乃。


 その2人の会話に優たちは軽く目を見張り、祐巳、令、瑞穂は苦笑をこぼす。


「あ、祐巳さま」

「なに?」

「わたしと瞳子の友達を紹介します。可南子、こっちに来て」


 乃梨子が手招きすると、やたら身長の高い少女が近づいてきた。


「可南子、こちらは福沢祐巳さま。紅薔薇のつぼみだよ」

「まだ、その名前で呼んでもらえるの?」


 祐巳が若干驚いたように乃梨子に聞き返し、乃梨子がそれに頷こうとした時。


「当たり前でしょう」


 祥子に、後ろから抱きしめられた。


「あなたは、私の妹(プティ・スール)なのだから」


 祐巳は表情を変えずに祥子を見上げ、それから無言で、前に回された祥子の手に自らの手を重ねた。

 祥子はそれを受け、嬉しそうに顔を綻ばせると、祐巳の肩に顔を押し付けるようにする。


「え、えっと、続きをしても?」

「うん、どうぞ」


 穏やかな表情を浮かべる祥子。

 そんな祥子を見たことがないのか、乃梨子は目を見開き、けれどすぐにハッとしたようにうかがう。

 祐巳を見れば、祐巳も小さく微笑んだまま頷いた。


「では。この身長が高い子は、細川可南子です」

「・・・・初めまして、細川可南子です」

「初めまして、可南子ちゃん。身長高いけど、何かスポーツをやっていたの?」


 どこか緊張気味の可南子に、かすかな笑みを浮かべたまま問いかける。

 可南子はそれにぎこちなく頷いた。


「はい。バスケットボールを」

「やっぱり」

「自己紹介を終えたのなら、君に聞きたいことがあるんだけれど、かまわないかい?祐巳ちゃん」

「はい」


 祐巳はわかっていたように優に頷いて返し、いまだ自分を抱きしめたままの祥子を見る。


「お姉さま」

「・・・・・そうね」


 少しの沈黙の後、酷く名残惜しそうに祥子は祐巳からはなれた。

 祐巳はそんな祥子の手をとり、導くようにして椅子に座らせ、その隣に腰掛けた。


 自分をジッと見つめてくる者たち。

 気遣わしげに見つめてくる者たち。

 全員を見渡して、祐巳は小さく微笑む。


「私が何故1年前、行方不明になったのか。そうして何故、今ここにいるのか。その理由を、お話します」

































「・・・・・・なんて、ことだ・・・・・っ」


 震えた優の声が、重い空気で満ちている室内に散り。

 他の今初めて聞くこととなった者たちは、その事実に顔を蒼くして閉口している。


「これが私が行方不明となった理由であり、今この街にアンデッドたちが溢れている理由です」

「ゆ、祐巳さんは何故、目を覚ますことが・・・っ?」

「係員がスイッチを押したからと思う。スイッチの前には、自殺したと思われる係員がいたから」


 震えた志摩子の声に、祐巳は淡々と。


 それに、志摩子は恐怖した。

 人の死を、なんでもないことのように答える祐巳に。

 そこに、自分の知る、優しくて太陽のような祐巳がいなくて。


 けれど、そんな祐巳を祥子が包むように抱きしめた。


「辛かったわね・・・」

「お姉さま・・・・?」

「あら、悲しそうな顔をしていたと思ったら、今度はそんなマヌケな顔をして」


 祥子は微笑み、祐巳の頬をなでる。

 祐巳や蓉子たち、そして、志摩子と同じように祐巳に怯えた者たちは、目を見開いた。


「なぁに?その顔は。私が、あなたが苦しんでいること気づかないとでも思って?」

「で、ですが、今の私にはあまり、感情の起伏は・・・」

「私は、あなたの姉(グラン・スール)よ?」


 自信満々に言い切った祥子に、祐巳は驚き、けれど眉を下げて祥子を抱きしめ返した。


「大切な妹(プティ・スール)の気持ちに、気づかないはずがないでしょう?」

「・・・・・・はい、お姉さま」


 先ほどとは違い、今度は祐巳が祥子の首に顔を寄せる。

 今までで、一番深い笑みを浮かべて。


 蓉子たちは顔を見合わせた。


「(う〜ん、これは一本とられた)」(聖

「(ふふ。どう?さすが、私の妹(プティ・スール)でしょう?)」(蓉子

「(祐巳ちゃんを落とすには、まず祥子をどうにかしないといけない、というわけね。燃えるわv)」(江利子


「(令ちゃん、マズイよね?)」(由乃

「(うん。けど、やっぱり祥子は祐巳ちゃんのお姉さまだね)」(令


「(・・・・・なんて、深い、強い絆なのでしょう・・・・)」(瞳子

「(これが、姉妹(スール)・・・・)」(可南子

「(本当に、信じあってるんだ、このお2人は・・・・)」(乃梨子


「(私は、全然気づかず、怯えてしまった・・・・)」(志摩子

「(祐巳さん、良かった。前と同じ、とはいかないまでも、良い笑顔で笑ってる・・・・)」(蔦子


 優と清子も顔を見合わせて、微笑みあう。


「嬢ちゃん、良かったじゃねぇか」

「ええ、本当に」


 明智と瑞穂も、嬉しそうに笑いあった。













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