【ライバル2名追加】































「これで最後、と」


 最後に残ったアンデッドの首をへし折ったあと、祐巳はあたりを見渡し、アンデッドたちが全員活動を停止したのを確認した。

 
「祐巳ちゃんカッコイイ〜〜!」


 そこで、破られたドアからひょこ、と顔を出すのは聖。

 祐巳はそんな聖に、呆れたように顔をする。


「聖さまも、少しは手伝ってくださいよ」

「無理無理。反対に、祐巳ちゃん撃っちゃう」

「・・・・平然とそういうこと言わないでください」


 ため息をもらし、祐巳は再びへたり込んだ乃梨子と、はじめからへたり込んでいた瞳子へと近づいていった。


「怪我はない?」


 何も言えず、首を縦に振る2人。

 そんな2人に手を差し出し、立ち上がらせた。


 けれど、瞳子はすぐにまた座り込んでしまう。

 瞳子の頬に、紅がさした。

 どうやら、腰が抜けて立つことができないようだ。


「・・・・・・足でも、捻挫しちゃったかな」

「キャッ!?」


 それに気づいてるであろうに祐巳はそう言って、瞳子の体を持ち上げた。

 瞳子は咄嗟的に、祐巳の首に腕をまわす。


「あら、祐巳ちゃん、王子様みたいね」

「江利子さまも、意味わからないこと言わないでくださいよ」

「その子、どうしたの?」


 ゴーイングマイウェイな聖や江利子とは違い、蓉子はドアの破片を踏みながら、心配そうに近づいてきた。

 祐巳はそれに、小さく微笑む。


「足を少し捻挫しているみたいです。由乃さん、令さま、大丈夫ですか?」

「これでも、剣道部よ?これくらいへっちゃらよ」

「由乃のほうが、持ってる量少ないけどね」

「令ちゃん!余計なこと言わないでよね!」


 由乃がギッと令を睨めば、令は肩をすくめて笑う。


「まあまあ、由乃ちゃん」

「おねえちゃ、怒っちゃめーよ!」

「・・・・子供の瑞樹に諭された・・・・!」

「・・・・どんまい、由乃」


 瑞樹に怒られ、へこむ由乃。

 令は、微妙な顔でそんな由乃の肩を叩く。


「つうか、せめて手伝えよ、嬢ちゃんたち」


 汗を流しながら、銃を肩にかけて手ぶらである聖と江利子に、明智は愚痴る。

 2人は軽くスルー。

 明智はそれにため息を吐くと、重そうな機材を破れたドアに置いた。


「おい、嬢ちゃん。これどうやって設置するんだ?」

「今行きます。そっちの子、ついてきてね」

「は、はい!」


 乃梨子が慌てて返事をすると、祐巳は小さく微笑み瞳子を抱き上げたまま明智のもとへ。

 その間、瞳子は唖然とした表情で祐巳を見上げていた。


「ちょっと失礼するね」


 祐巳はドア傍に瞳子を下ろし、立ち上がろうとする。

 けれど、それはできなかった。


 瞳子が、祐巳の腕をつかんだからだ。


「どうかした?」

「え・・・?あっ!な、何でもありませんわ!」


 反射的にだったのだろう。

 瞳子は初め祐巳の問いにわけのわからない顔をしたが、自分が腕を掴んだことに気づき、慌てて手を離した。

 祐巳はそんな瞳子の頭を撫でてやる。


「大丈夫だよ。近くにいるから」

「・・・・・・・・はい」


 顔を真っ赤にしながら、小さな返事を返してくれる瞳子の頭をもう一度撫でて、祐巳はその機材に近づいていった。


「・・・・・・・・あの方が、祐巳さま・・・・・」

「たぶん・・・・・・・写真で見せてもらったのと、少し雰囲気が違うけど・・・・」

「あなたたち、瞳子ちゃんと乃梨子ちゃんよね?」

「え?あ、あなた方は・・・」


 いつの間にか目の前にいた蓉子たち3人に、乃梨子は困惑の表情を。

 瞳子はハッとして服を調え、乃梨子に囁いた。


「先代の、薔薇さま方ですわ」

「え、じゃあ、志摩子さんのお姉さまは・・・・」

「あれ?もしかして、志摩子の妹(プティ・スール)?」


 聖が笑顔で問いかけてきたため、乃梨子は背筋をのばした。


「は、はい!」

「そんなに堅くならなくてもいいよ。わたしは佐藤聖、志摩子の姉(グラン・スール)やってます。よろしくねv」

「よ、よろしくお願いします!」


 差し出された手を反射的に握り返す乃梨子に、聖たちは笑う。


「私はあそこでどつき漫才をしている、愉快な姉妹(スール)の姉(グラン・スール)兼お祖母ちゃんをしているわ。鳥居江利子よ」

「私は祥子の姉(グラン・スール)で、水野蓉子よ。よろしくね」

「初めまして!二条乃梨子といいます!」

「松平瞳子と申します」


 緊張からか、直角に頭を下げる乃梨子。

 腰が抜けたため座った状態で、それでも気品よく頭を下げる瞳子。

 アンバランスな、けれどなんだか良いコンビな2人に、蓉子たちは笑みを深めた。


「設置が完了しました」


 そこにやってきた祐巳は、すでに慣れたように瞳子を抱き上げた。

 慌てて、今度は首ではなく、服を握りしめる瞳子。


「そう、お疲れ様。それにしても、凄いわね」

「あ、あの、祐巳さまは一体何を・・・」

「あそこを通ったもの全てを焼ききる機械」

「「焼く!?」」


 聖の答えに、乃梨子と瞳子は素っ頓狂な声をあげた。


「警察にあったものを、少し改造したの。アンデッドたちがここを通っても、中に入れないようにするためにね」


 祐巳はそう言ってそばに落ちてる木片を、ドアに向かって蹴った。

 それが、ドアを通って外に出ようとした瞬間、


 ――― ボッ


 青い炎をまとい、一瞬のうちに灰へと変わった。


「「っ!?」」

「これはまた・・・凄いわね・・・」

「通ったら、黒焦げか・・・・」

「気をつけないとね」


 息を呑んだ瞳子たちと同様に、話に聞いていただけの蓉子たちも驚きを隠せないようだ。


「嬢ちゃん、これで良いか?」


 明智がそこに腰までくらいの衝立を立てかけ、祐巳に問いかける。

 祐巳は、それにはい、と答えた。


「乃梨子ちゃん、で良いのかな?」

「あ、はい!二条乃梨子です!」

「わ、私は、松平瞳子ですわ!」

「うん、私は福沢祐巳だよ、よろしくね、乃梨子ちゃん、瞳子ちゃん。それで、お姉さまたちはどこにいるのかわかる?」

「はい、それでしたら上に!」


 乃梨子が上、を指差せば祐巳は頷き、由乃たちへと顔を向けた。


「由乃さん、令さま、瑞樹ちゃん、瑞穂さん、上に行きましょう」

「ええ、わかったわ!」

「いこっか、瑞樹ちゃん」

「うん!」


 瑞樹は笑顔で頷き、とてとてと祐巳に駆け寄ると服を握りしめ、にっこりと笑いかける。

 祐巳もそれに小さな微笑を返し、歩き出す。

 もちろん、瑞樹のことを考えて、歩幅は小さく。


「ふられちゃったわね、令ちゃん」

「祐巳ちゃん相手じゃ、仕方ないよ」

「ここまで来るあいだも、祐巳ちゃんの膝に座りたいって駄々こねてたものね」


 由乃がにんまりと笑えば令は苦笑し、瑞穂はくすりと笑う。

 もちろん、祐巳のあとを追うのも忘れない。


「あ、あの、一つ聞いても良いですか?」


 大人しく抱かれるままの瞳子を不気味に思いながらも(失礼)、乃梨子は祐巳の隣に並んで問いかけた。


「うん、何かな?」

「祐巳さまは、行方不明だったと聞いたのですが・・・・」

「それについては、みんなの前で説明するね」

「あ、そうですよね」


 今自分たち2人説明し、また志摩子たちに説明するのは確かに無意味に感じて、乃梨子は納得する。


「他には、何か聞きたいことある?」

「・・・・・いえ、特にはありません」

「そう?」

「はい」


 頷いた乃梨子に頷き、祐巳は前を向き階段を上っていく。


 その横顔をちらりと見て、乃梨子は思う。

 志摩子さんに聞いていた性格と、少し違うな、と。

 それでも、この人の笑顔は、声は、雰囲気は、落ち着く。と。

 それは、同じように祐巳の顔を見ながら、瞳子も思っていたことだった。


「う〜ん、ライバル増えちゃった?」

「そうみたいね」

「そちらの方が、やり甲斐はあるわ」


「やっぱり、乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんも、祐巳さんにときめいちゃったわね・・・・」

「仕方ないよ。特に、今の祐巳ちゃんはカッコイイもの」


「若いやつは大変だな」

「ふふ、そうね」


 蓉子、聖、江利子が。

 由乃、令が。

 明智、瑞穂が。

 それぞれそんなことを言っていたなど、祐巳も、瞳子も、乃梨子も、知る由もない。

















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