【資格】




























 積めるだけの武器を積み、全員がこれでもか、というほどに武装して、犯罪者を留置場へと連れて行くための車に乗り込んだ。

 運転は明智が。

 助手席には祐巳が乗り。

 蓉子たちはいつもは犯罪者たちが乗る場所に。


「・・・・・複雑な気分ね」

「そう、ですね・・・」

「あら、なかなかない体験じゃない?」

「江利子は楽しいかもしれないけど、ちょっとごめんなさい、って感じだよね」

「ですが、聖さまはいつかこれに乗るかもしれませんよね。セクハラした罰として」

「それはない」


 微妙なやり取りを聞きながら、幼子、名を瑞樹というらしい女の子は、楽しそうに笑う。

 瑞樹を膝の上にのせた母親、橋本瑞穂は苦笑。


 祐巳と明智は顔を見合わせて笑いあい、車を発車させた。


 祐巳が助手席から寸分違わず、シャッターを開けるボタンを銃で撃ち、破壊して開ける。

 後ろから、「おお〜」という声と拍手が。

 祐巳はそれに小さく吹きだしながら、軽く微笑んでピース。


 道中で祐巳が殺したと思われる倒れたアンデッドたちの横を通り抜けながら、祐巳たちは小笠原邸へと向かった。


















「キャッ!」

「「志摩子さん!!」」

「白薔薇さま!!」


 乃梨子は、アンデッドに足を掴まれて倒れこんだ志摩子に駆け寄り。

 蔦子が家から持ってきたのか、木製バッドをそのアンデッドに向かって振り上げた。


 メキ、と嫌な音が聞こえ。

 それでも、蔦子は半狂乱ともいえる表情で、アンデッドを殴り続けた。


「蔦子さま!もう大丈夫ですから!」


 可南子が焦ったように蔦子を羽交い絞めにしたことで、ようやく蔦子はバッドを力なく落とした。


「嫌な思いをさせてしまってすみません。早く屋敷の中へ!!」


 駆け寄ってきたSPらしき女性が、念のためにかアンデッドの頭を銃で撃ちぬき、蔦子たちを誘導。


 乃梨子と志摩子が、蔦子と可南子が手をつなぎながら、そして、泣きながら、屋敷の中へ。


「みんな無事!!?」

「皆さん無事ですの!!?」


 入ってすぐ、玄関ロビーにいた祥子が駆け寄ってきた。

 同じように、瞳子も。


「みんな、とはいかないみたいだね・・・・」


 階段を下りてやってきたのは、優と清子。


「お姉さま方は!!」

「それが、すでにどうやら他の場所に移られたようでして・・・・」

「そんな・・・・っ!!」

「お姉さま・・・・っ!」

「祥子お姉さま!」

「志摩子さん!」


 SPの言葉に顔を蒼白にし、崩れ落ちる祥子と志摩子。

 そんな2人を、瞳子と乃梨子が慌てて支えた。


「そんな・・・・っ!祐巳まで失って・・・・お姉さままで・・・っ!!」

「祥子お姉さま・・・・」

「祥子さん・・・・っ」


 人前ではけして涙を見せることのない祥子が、両手で顔をおおい泣いてしまう。

 瞳子は悲痛な面持ちでそんな祥子を見つめ、清子が祥子を優しく、抱きしめた。


 志摩子も乃梨子を抱きしめながら、絶望を感じて泣いている。


 重い沈黙。

 そこに響いた音。

 全員が弾かれるようにそちらに顔を向ければ、優が両手を上にあげていた。


 どうやら、手を叩いてみんなの意識を自分へと向けたらしい。


「悲しんでいても仕方がないよ。さっちゃん、志摩子くん、まだ決まったわけじゃないんだ。その時まで、涙はとっておいた方が良い」


 真剣な表情の優。

 祥子と志摩子は涙を拭い、頷いた。

 優はそれに微笑み、また顔を戻す。


「とりあえず、これからのことを考えよう。ここは彼らがいつ入ってくるかわからないから、なるべく上の部屋で作戦会議だ」

「そうね・・・・祐巳もきっと・・・・。みんな、ついてきて」


 先ほど泣いていた祥子とは違う、しゃきっとした様子で歩き出す。

 それでもきっと、今にも泣いてしまいそうなのであろう。


 周りもそれがわかっているから、各々気持ちを切り替えて祥子を追った。


 だが瞳子だけは、そこから動かず、そしてそれに気づく者はいなかった。







 がらんとした、玄関ロビー。

 瞳子は誰もいなくなると、へたりと座り込み、涙をボロボロと流し始めた。


「何故・・・・何故ですの・・・・!」


 スカートを握りしめ、瞳子は叫ぶように呟く。


「何故、私ではいけませんの!?祐巳さまは、もういらっしゃいませんのに!!」


 瞳子が祥子の口から祐巳のことを初めて聞いたのは、2人が姉妹(スール)になった直後だった。

 それにとてもショックを受け、それは食事ものどを通らないほどで。


 それから数ヶ月後、瞳子が中等部を卒業する直前、今度は祥子がおかしくなった。

 部屋から出てこなくなり、いつも泣いてばかり。


 理由を知る者に聞けば、祐巳が行方不明になったという。


 その時瞳子は、歓喜したのだ。

 酷い人間だと、自覚しつつも。

 祥子が、これで自分を見てくれる、と。

 これで、自分を妹(プティ・スール)としてくれる、と。


 しかし、そうはならなかった。


 祥子は瞳子が高等部に上がった後も。

 妹(プティ・スール)になりたいと願った時も。

 妹(プティ・スール)は、祐巳だけだと。

 祐巳は、必ず自分のもとに戻ってきてくれる、と。


 そこに、瞳子が入り込む隙間はなかった。


 祐巳がいないというにもかかわらず、そこには確かな絆が存在していたから。


 瞳子は、写真でしか見たことのない祐巳が、憎かった。

 憎くて、仕方がなかった。


 そして、自分が無様で仕方がなかった。

 醜い自分が、嫌で仕方がなかった。


「瞳子!!」


 流れ続ける涙を拭うことなく、瞳子は聞きなれた声に反応し、顔を上げた。

 乃梨子は、安堵したような、怒ったような、そんな表情で階段を駆け下りてくる。

 彼女は、いない瞳子に気づき、戻ってきてくれたのだ。


「乃梨子さん・・・・」

「こんなところにいたら危ないでしょうが!!」


 泣いている瞳子のそばに行き、腕を取り立ちあがらせる。


「あいつらが入ってくるかもしれないのに!」

「っ放っておいてくださいませ!瞳子は、別に死んでもかまいません!!」

「自分が何言ってるのかわかってんの!?」


 瞳子からでた叫び声に、乃梨子は目を怒らせて睨みつけた。

 瞳子も、それに負けじと睨み返す。


「瞳子などいなくとも、誰もなんとも思いませんわ!!」

「ふざけないで!!」

「ふざけてなどいません!!瞳子は―――」


 ――― ガタン!!


「「っ!!?」」


 瞳子の言葉を遮るように響いた音。

 2人が視線を向けた先は、玄関のドア。

 かすかに聞こえる、アンデッドたちの呻き声。


「あ・・・あぁ・・・っ」

「と、瞳子っ!」


 瞳子と乃梨子の体が、恐怖に震える。

 逃げなければいけないのに、体が竦み、足が動かなかった。


 ――― バキ・・・・バキッ・・・・バキ!!


 激しい音が鳴り、熱いはずのドアが折れ、現れたのは無数のアンデッドたち。


 2人は恐怖に座り込み、それでもお尻を引きずりながら後退する。

 だが、それよりも、歩いているアンデッドたちのほうが早く、だんだんと近づいてきた。


「瞳子っ!逃げなくちゃ!!」


 ようやく乃梨子の脳が動いたように立ち上がり、叫んだ。

 けれど。


「・・・・・のっ、乃梨子さんは、早くお逃げになってくださいませっ」

「なに言ってるの!!」

「瞳子はっ、ここで死にますっ!」

「まだそんなこと言ってるの!!?」

「っ瞳子なんて、死んだ方が良いんですわ!!」

「瞳子!!」

「こんな、醜い感情を持ったまま、祥子お姉さまのお傍にいることはできません!!そんな資格、ございませんわ!!」


 瞳子が、あらん限りの声で叫び。

 アンデッドたちが、そんな瞳子たちに襲い掛かってきた。


「資格なんて、必要かな?」


 その時聞こえた、落ち着いた声。

 同時に、一気に倒れるアンデッドたち。


 いつの間にか2人の目の前には、見慣れない少女が立っていた。
























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