【1年ぶりのあなた】




























「調べた結果、やはりどこもかしこもあいつらばかりだ」


 ため息をつくのは、警察官の男性、明智。


「私たちも、みんなを捜索がてら街を見回ってみたけど、ほとんどがあんな状態になっていたわ」

「そうか・・・・」


 蓉子の言葉に、意気消沈気味に明智は返し、それから由乃たちへ。


「君たちが、彼女たちの仲間かい?」

「あ、はい!島津由乃です!」

「わたしは支倉令です!」

「俺は明智だ。君たちは噛まれていないかい?」

「はい。大丈夫です」

「わたしも平気です」


 由乃と令が答えれば、明智は安堵したように笑った。


「それ良かった」

「なんであいつらに噛まれただけで、あれと同じになるんですか?」

「詳しいことは俺たちもわからない。ただ、少し噛まれただけで数時間後には仲間入りになることだけは確かだ」


 由乃の問いに、明智は真剣な顔で答えた。

 それを聞き、同様に真剣な顔になる蓉子達。


「倒す方法、とかは・・・」

「頭を打つと、完全に息絶えるらしい。らしい、というのは、やはり詳しいことがわからないからだ」

「令、これがあなたの銃よ」

「由乃ちゃんのはこっちね」

「弾も無限にあるわけではないけど、ここには十分にあるから、2発くらいは失敗しても良いわ」

「「・・・・はい」」


 蓉子、聖に渡された銃を、ぎゅっと握りしめる。

 明智は、堅い二人の肩を軽く叩いた。


「まあ、あんまりお嬢ちゃんたちに人殺しはさせるつもりはないから、安心しろ」


 それに安心したのか、2人は軽く微笑む。


「明智警部!緊急事態です!」


 そこに入ってきたのは、同じように警官の格好をした男性。


「何があった、蘇芳」


 それに目を細める明智に、怯えた様子で男性は窓の外を指差した。


「あいつらが、すぐ傍まで来ています!ここにいるのは、危険です!」


 明智を筆頭にした者たちが窓の外をみると、20人ほどのアンデッドたちがゆらゆらと近づいてきていた。

 それはまだまだ距離があるが、不安を掻き立てられるのは変わらない。


 警察にいた一般人や学生たちが、ざわめき始める。


「ちっ。あんたらは逃げろ。俺たちは、あんたたちが逃げる時間を稼ぐ」

「そんな!?なんとかできる武器はないの!?」

「あったらさっさと攻撃してる!!」


 怒鳴り返したのは男性。

 かなり怖がっている。


 なんだかそれが妙に異様で、明智は訝しげに男性を見た。


「おい、蘇芳。お前なんか変だぞ」

「変にもなります!わけわからないですよこんな状況!!先輩に教えられたことに、あんな奴らの対処法なんて教えてもらってません!!!」


 その時、鳴り響いた電話。


 全員がハッとして、その電話を見つめた。


「・・・・とるぞ?」


 明智は全員を見渡して宣言すると、その受話器を恐る恐るといったようにとった。


「もしも―――」

『助けてくれ!誰か、そっちにいるんだろ!?助け―――ぎゃぁぁぁぁぁ!!!』


 建物全体を揺らしそうな、劈くような叫び声。

 それは周りにいた者にも聞こえていて。


 周りもその声に同調するように、泣き出したり逃げようとしたり、叫び声をあげ始めたり。


 明智は、震える手で受話器を置いた。


「悪夢だ・・・・」

「いやだ・・・いやだぁ!!」

「おい、蘇芳!!」


 泣き叫び、周防は2階へ。


 ――― スドォン!


 そして聞こえた、拳銃の音。


「あんたらはここにいろ!」


 明智はすぐさま2階へと駆け上がっていった。


 それを見送った蓉子たちのあいだには、沈黙が。


 その時、再び電話が鳴った。

 ビクッと蓉子たちは体を竦ませ。


「と、取るわよ?」


 取ったら、今度は自分があの叫び声を聞く。

 それに冷や汗を流し、怯えながら蓉子が受話器に手をかけた。


「はい」

『・・・・・・・・・・どうやら、警察内は無事のようですね』

「え・・・・?」


 蓉子は、目を見開いた。


 受話器から聞こえたのは、懐かしいと感じてしまう、可愛い孫の声だったから。

 どこか堅く、淡々としているが、聞き間違えるはずのない声。


 そして、1年前から、行方不明になっている相手の声。


『知りたかったのはそれだけなので、失礼します』

「待って!あなた祐巳ちゃん!?祐巳ちゃんよね!?」

「「「「え!!?」」」」


 由乃たちが慌てて、声を聞こうと受話器に耳を寄せた。


『・・・・・・蓉子さま?』

「やっぱり!今どうしているの!?今までどこに行っていたの!!それより、無事なの!!?」

『一気に聞かれても、答えられませんよ』


 どこか落ち着いた、けど笑いの含まれた声。


『今から、そちらに向かいますから』

「駄目よ祐巳さん!警察も、あいつらに囲まれてるの!!」

『その声は由乃さん?・・・・そういうことなら、なおさら行かなくちゃね』

「あ、祐巳ちゃん!祐巳ちゃん!!・・・・切れたわ」


 蓉子がため息を吐き、受話器を置いた。


「・・・・祐巳ちゃん。良かった・・・・!」


 聖の、心の底からの呟き。

 それは、蓉子たち全員の思いの代弁。


「ですが、なんで急に・・・?」

「この時期に行方不明だった祐巳ちゃんが帰ってくる。何か理由があるのかしら・・・」

「・・・・江利子、あなたまさか、祐巳ちゃんがこうなった原因だとでも言うの!?」

「可能性を言っているだけよ。それに、妙に落ち着きすぎているわ。あの祐巳ちゃんが」


 なんだか険悪なムードとなった蓉子と江利子。

 それを戸惑ったように見つめる聖たち。


 そこに、明智が戻ってきた。

 どこか暗い雰囲気をもって。


「あ、明智さん。その、どう、でしたか?」


 令の問いに、明智は大きく息を吐き出し、首を横にふる。


「蘇芳のやつ、自殺してた。だが、あいつらの仲間になっちまう可能性もあったから、窓から捨ててきた」

「そう、ですか・・・・」


 由乃がなんと答えて良いかわからずにそう言ったその時。


 ――― キキィーー!!


 何かを止めるような音が聞こえた。

 全員が慌てて窓の外を見、そして目を見開く。


「「「「「祐巳ちゃん(さん)!!?」」」」」


 ツインテールでもないが、横顔が見知った祐巳の顔。


「あんたらの知り合いか!?なら、止めろ!!あのままじゃ、あいつらの餌食になっちまう!!」

「祐巳ちゃん!!逃げて!!」

「祐巳さん!早く!!」


 聖と由乃が声を大にして叫ぶと、それが聞こえた祐巳が振り返った。

 そして、みんなの姿を見ると、にっこりと、懐かしい笑みを浮かべる。


「ねえ、あれってショットガンとか、呼ぶ武器じゃない・・・・?」

「それに、両方の太ももにあるのも、銃、よね・・・・?」

「祐巳ちゃんが、バイク・・・・?」


 唖然としたように、江利子、蓉子、令がそう呟くが、聖と由乃には聞こえていない模様。


 祐巳は叫び続ける2人から視線を離してアンデッドたちに向き直ると、太ももの銃をすばやく抜き取り、撃ち始めた。

 それは、ずれることなく、額の中心に。


「嘘・・・・」

「なんで祐巳ちゃんが・・・!?」


 思わず、といったように呟いてしまう由乃と聖。

 蓉子たちは、見極めようとするかのように、祐巳の戦いを見つめている。


 そのあいだに、祐巳は10人以上ものアンデッドたちを倒し、銃をしまうと残った7人ほどのアンデッドたちに突っ込んでいった。


「「「「「祐巳ちゃん(さん)!!!」」」」」」


 驚く蓉子たちを無視するように、祐巳は噛み付こうとしてくるアンデッドの背後に回り、顔を回し、たやすく首の骨を折ってみせてではないか。

 さらに近づいてきたアンデッドの首筋に、蹴り。

 あらぬ方向へと首が折れ曲がったアンデッドが、地面に倒れる。

 真後ろにいたアンデッドに、前を向いた状態のまま足を後ろに蹴り上げアンデッドの腹部を強打。

 立ち止まることなく、後ろ回し蹴りでそのアンデッドの顎を擦るようにして蹴り、その衝撃でアンデッドの首はあらぬ方向を向く。


 数分もしないうちに、立っているのは祐巳だけの状態に。


「・・・・・嬢ちゃんたちの友達、何もんだ・・・・?」


 怯えたような、真剣な声。

 蓉子たちは、それに答えることができない。


 そうこうしている間に祐巳は乗ってきたバイクから武器を取ると、建物に近づいてきた。

 思わず窓から離れる蓉子たち。


 そして、叩かれるドア。

 明智が覚悟を決めてドアを開けると、祐巳が立っていた。


 祐巳は自分を恐ろしいものでも見るような目で見てくる蓉子たちを気にした様子もなく、にこり。


「お久しぶりです、蓉子さま、江利子さま、聖さま、由乃さん、令さま」


 だが、


「蓉子!!何しているの!?」


 蓉子が、銃を祐巳に向かって構えたのだ。

 江利子が慌てて怒鳴るが、蓉子は銃をおろそうとする様子はない。

 ただ、その手は酷く震えていたが。


 緊迫した室内。

 周りにいた者たちも、冷や汗を流す。


 しかし、祐巳は笑顔で近づいてくるだけ。


「近づいてこないで!!撃つわよ!!」

「落ち着いてください、蓉子さま」


 声を荒げる蓉子とは反対に、祐巳は落ち着いた声。

 そして、祐巳はとうとう銃口の目の前に。


「私は、皆さんの味方です」

「嘘よ!!」

「本当です」


 祐巳は、震える銃口に手を置き、そっとおろした。

 そのまま、蓉子の体を優しく抱きしめる。


「怖い思いをしましたね。ですが、私が来たからには、もう大丈夫ですよ」


 優しい、記憶に違わぬ祐巳の声。

 蓉子は一気に涙を流し、嗚咽をもらしながら祐巳を抱きしめた。


「大丈夫ですからね」


 祐巳は、ぐずる子供をなだめるように、優しく背中をなで、囁いた。






















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