【仕組まれた物語】






























 真っ白い部屋の中。

 3台の証明に照らされた、病院の診察台のような簡易ベッドが一つ。

 そのベッドには、一人の少女が眠るように横たわっていた。


 少女につなげられているたくさんのコード。

 備えつけられている画面には、少女の体調のことなのだろうが、意味のまったくわからない表示が。


 その時、画面に大きく【YUMI 起動】の文字が。


 同時に、覚醒するように、少女が目を覚ました。


「・・・・・・・」


 無言で体を起こした少女は、あたりを見渡す。


「っあ゛あ゛あ゛ぁっ!」


 が、体を強張らせ、少女は慌てたように体に刺さっているコードを引き抜いた。

 コードの先は、10センチほどの、長い針が。

 その針が体内に入っていた部分らしく、引き抜かれた針には血が。


「ぅあ゛あ゛あぁ!」


 最後に、こめかみあたりに刺さっていたコードも引き抜いた。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 息荒く、少女はベッドから降りる。

 体にかけられていたような、ぺらい紙。

 それを押さえながら、少女は部屋をよたよたとしながら出た。


 白い壁がどこまでも続く。

 わけのわからないマークの書かれた廊下を通り、壁に寄りかかりながら階段を上っていく。

 ようやく出入り口と思われるドアを見つけた。


 しかし、外だと思って出たのだが、室内だった。


 少女はあたりを見渡し、タンスを見つけた。

 タンスを開ければ、機能性を重視されたような服が一着分。

 少女は迷うことなくそれに手をかけ。


「っ!?あ゛あ゛あ゛あ゛あぁっ!!」


 少女は襲ってきた痛みに声をあげ、床に座り込んでしまった。

























【福沢祐巳だな?】

【だ、誰ですかあなたたち!!】


 目の前に現れた、黒服の男たち。

 祐巳は、それに怯えたように、鞄をぎゅっと両手で抱きしめた。


【連れてこい】


 一人の男がそういうと、一斉に男たちが祐巳の両腕を拘束した。


【な、何するんですか!?】


 怯え、拘束を逃れようと祐巳は暴れるも、当然男たちに敵うはずもない。


【嫌!はなぅぐっ!】


 悲鳴をあげるその口を手で多い、男たちは祐巳を車内に押し込めた。





【思ったとおりだ。彼女は、特異な遺伝子を持っている】

【まさか、T−ウイルスと適合するなんて・・・・】

【弟にも、両親にもない。彼女は平凡に見えて実は、体内には驚異的なものを持っていたんだ】

【それは・・・?】

【体内に入ってきたモノと同化し、更なる進化を遂げることができる遺伝子さ】


 朦朧とする意識のなか聞こえる、誰かの会話。

 楽しそうに笑う者たち。


【素晴らしいものができるぞ・・・!】

【ああ、とても素晴らしいものがな!】


 興奮したように、誰かが言った。






































「ななんなのよ一体!?」

「そんなことより、早く逃げないと!!」

「わかってるわよ!!」


 涎をたらしながらヨタヨタと近づいてくるのは、アンデッドたち。

 ぐりんと、異様に盛り上がった目玉。

 アンデッドによっては、皮膚が剥げているものもいる。


 令と由乃は、そんな化け物たちから走って逃げていた。


 それでも、相手は湧くように現れる。

 もともと体力のない由乃は、限界。

 わき腹を押さえながら、それでも走る。

 2人は、最悪の場合を見てしまったから、ああならないために。


 恐怖に顔を強張らせ、それでも走らなければ死んでしまう。


「あ!!」


 けれど、前からもアンデッドたちが。

 後ろを振り返り、やはりアンデッドたち。


 由乃は膝に手をついて荒い息を繰り返しながら、絶望していた。

 それは、令も同じ。


 その時、


「令!由乃ちゃん!」

「こっちよ!」


 自分の先輩の声を聞いた。


 2人が顔をそちらに向ければ、去年まで一緒にいた聖、江利子、蓉子の3人が。

 彼女たちがいるのは、わき道。

 令と由乃は顔を見合わせると、痛むわき腹を押さえながらそちらへと向かった。


「お姉さま、一体何が起こってるんですか!?」

「私もよく知らないわ!」

「わかっていることは、あいつらに噛まれたら、わたしたちもああなるってこと!」

「それに、彼らはちょっとやそっとでは死なない、ということくらいかしら、ね!」

「「っ!?」」


 蓉子がそう言って、銃を構え前にいるアンデッドたちを撃った。

 それに目を見開く令と由乃だったが、聖と江利子も同じようにアンデッドを攻撃する。

 それでも、銃というものに慣れているはずもない彼女たちの弾は、アンデッドたちを傷つけはするものの、決定的なものにはならない。


「なんで、そんなもの・・・・!」

「警察が貸し出してくれたのよ。今、街全体がこんな状況みたいだから」

「自害するのもよし。少しでも長く生きるために、あいつらを倒すのもよし」


 蓉子と江利子が言えば、令は驚き、由乃は決意の目をした。


「案内してください!警察に!」

「大丈夫、今向かってるところだから」

「由乃!?何言ってるの!?」

「令ちゃんこそ、このまま何も持たないであいつらに勝つつもりなの!?」


 言い返され、令は言葉に詰まった。

 今まで持っている木刀で殴っても、歯牙にかけた様子もなく襲い掛かってきたアンデッドたちを思い出したのだ。


「悩んでる暇はないのよ、令!由乃ちゃんを守りたくないの!」


 江利子にそういわれ、令はようやく真剣な顔で頷いた。


「わかりました!やります!」




















「由乃さん、令さま、お姉さま、江利子さま、蓉子さま・・・・。どうか、ご無事で・・・・」


 大型バスの車内で、志摩子が手を重ねながら、祈っている。


 このバスを運転しているのは、小笠原家のものらしい。

 祥子からの命令で、知り合いを助けてまわっているようだ。


「志摩子さん、大丈夫だよ!わたし達が助かったんだし、きっと皆さんも!」

「・・・ええ、そうよね、乃梨子」


 乃梨子の言葉に、志摩子は悲しそうな笑みを返した。


 バスには、志摩子、乃梨子、蔦子、可南子。

 ところどころで見つけた、アンデッドに噛まれていない一般人も乗せている。


「・・・・祐巳さん、どうしてかしら。こんな時、あなたに会いたくなるわ・・・・」

「志摩子さん、その祐巳さんの名前たまに口にするけど、どんな人なの?」

「祐巳さんは、明るくて、人を元気にさせてくれる、太陽のような笑顔を浮かべることができる人・・・」

「・・・・そして、もともと、祥子さまの妹(プティ・スール)だった子よ」


 それに、乃梨子と可南子は驚いた。

 自分たちが入ったときにはすでに、祥子の妹(プティ・スール)はいなかったからだ。

 だから、彼女はまだ妹(プティ・スール)を作っていないだけだと思っていた。


「その方は、リリアンをお辞めになったのですか?」

「違う、違うわ!」


 可南子に、志摩子は目を潤ませ、首を横にふる。


「祐巳さんは、行方不明になったのよ・・・・」

「「え・・・・」」

「祥子さまは、今で祐巳さんが戻ってくると信じて、妹(プティ・スール)の席を空けてらっしゃるの。2,3年生に、祥子さまの妹(プティ・スール)がいないことについて疑問の声をあげる人がいないのは、みんなも同じように、祐巳さんを待っているからよ」

「祐巳さんは、学園中に人気があったわ。祐巳さん自身は、自分を平凡だと勘違いしていたけれど、そんなことない。祐巳さんは、とても素敵な方よ」

「特に、志摩子さんと由乃さんにとっては、祐巳さんはとても大切な人と言っても良い。志摩子さんも由乃さんも、祐巳さんが初めてのお友達だから」


 志摩子が、それを肯定するように、涙をこぼした。


 乃梨子も可南子も、なんと言ってよいのかわからない。

 それに、会ったこともない自分たちが慰めるようなことを言っても、説得力は皆無だから。






















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