【全てが懐かしい】

















 













「綺麗なところに住んでるね」

「うふふ、ありがとう」


 祐巳がこれから住む、アリシアの家。

 初めは断っていたのだが、意外と頑固なアリシアは折れず、結局祐巳が折れたのだ。


「けど、一人で住むには大きいね」

「・・・・・うふふ、ちょっとね」


 困ったような笑み。

 すぐにそれは消え、嬉しそうな笑みへと変わったが。


 灯里が来ると知ったアリシアは、自らの家を探した。

 そうして見つけたのは、1人で住むには大きな家。

 アリシア自身、それは感じていた。

 それでも、彼女はその家を買ったのだ。


 それは無意識だったのかもしれない。

 祐巳がいつか戻ってきた時のために、大きめの家を購入したのは。


「祐巳さんの部屋は、私の部屋の隣よ」

「・・・・ありがとう、アリシア」


 部屋の中を見た祐巳は、隣に立つアリシアを、そっと抱きしめた。

 わかったから。

 まるで、元からそうであったかのようにある、隣同士である2つの部屋。

 中は、祐巳が好みそうな部屋模様。


 彼女が、待っていてくれたのだと。


「・・・・祐巳さん、もういなくなったりしないで」

「うん、もういなくならないよ」


 切望するように、アリシアの手が祐巳の背中にまわる。

 泣き出しそうな声に、祐巳はさらに抱きしめる腕を強くした。


「絶対よ?」

「うん、絶対」


 即答してくれる祐巳に、アリシアは泣き笑いを浮かべた。





































 灯里は朝、あくびをかみ殺しながらアリアとともに下へと降りてきた。

 そんな彼女の目に入ってきたのは、鼻歌を歌いながら料理をしているアリシア。

 そして、テーブルを拭いている、アリシアの家に住むことになった祐巳の姿だった。


「おはようございます!アリシアさん、祐巳さん!」

「ぷい!」


 一瞬、祐巳を不思議そうみた灯里だったが、昨日のことを思い出して、一気に笑顔に。

 アリアはすでに駆け出していて、祐巳に抱きついている。


「あ、おはよう、灯里ちゃん、アリア」

「おはよう、灯里ちゃん、アリア社長。もうすぐでできるから、椅子に座って待っていてくれる?」

「はい!」

「にゅ!」


 笑顔で椅子に座った灯里とアリア。

 祐巳は灯里に笑みを向け、が、何かに気づいたように苦笑へと変えた。


「どうしたんですか?祐巳さん」

「うん?ちょっと待っててね」


 祐巳はきょとんと首をかしげた灯里に笑みを返し、お風呂場へ。

 疑問符を浮かべてそれを見ていた灯里だったが、祐巳が櫛を持って戻ってきたことでそれはさらに増えた。


「寝癖、ついてるよ」

「・・・・・はわっ!?」

「大人しくしてて。直してあげるから」

「い、いいですよ!」


 慌てて灯里は両手を横にふるが、祐巳は笑顔のまま灯里の後ろに回りこんだ。


「良いから良いから。アリシアの時も、よくやってたんだ」

「ほえ?アリシアさんに、ですか?」


 軽く目を見張って灯里が祐巳を振り返るが、頭を祐巳に戻されてしまう。


「うん。アリシアって、灯里ちゃんみたく髪長いでしょう?だから、寝癖も結構すごかったんだよ。ね、アリア」

「ぷい!」

「ほへ〜〜〜」


 灯里は想像もできない過去のアリシアに変な声をだして、聞いていたのか恥ずかしそうにしながらお皿をもってきたアリシアを見た。


「もう、祐巳さんたら。灯里ちゃんに、変なこと教えないで」

「変なことじゃないよ?アリシアにも、そんな可愛い時代がありました、って灯里ちゃんに教えてあげてるんだもん」

「あらあら、なら今は可愛くない?」

「どっちかというと、綺麗かな?本当、綺麗な大人の女性になっちゃって」

「・・・・うふふ、ありがとう、祐巳さん」


 嬉しそうに頬を染めて微笑むアリシアに祐巳も、笑みを返す。

 その間も祐巳は灯里の髪を整えていて、それが終わると灯里の肩をポン、と叩いた。


「終わったよ、灯里ちゃん」

「ありがとうございます!祐巳さん!」

「どういたしまして」

「うふふ。さ、朝食を食べてしまいましょう」

「美味しそうにできたね。前より腕あがった?」


 祐巳が問いかけると、アリシアは頬に手をあてて首をかしげる。


 昨晩は、久しぶりに祐巳が夕食を作ったため、まだ祐巳はアリシアの料理を食べていないのだ。


「どうかしら?けれど、ずっと料理は私が作っていたから、あがったかもしれないわ」


 そこに、咎める響きはない。

 日常の会話のようにつげているだけ。

 けれど、祐巳は申し訳なく思ってしまう内容。

 だからこそ思う。

 もう、彼女を、彼女達を一人にはさせない、と。


「楽しみ」


 祐巳はアリシアの髪をそっと撫で、柔らかく微笑む。

 決意が現れた、優しい笑みで。


 アリシアは、懐かしい感触に酔いしれるように目を閉じた。

 撫でるのが癖なのか、いつも自分達の頭を撫でてくれた祐巳。

 それは過去形だけれど、これからは違う。

 もう自分の前からいなくなったりしないと、約束してくれたから。


「さ、アリシアの美味しいご飯を食べようか」

「ええ。たくさん食べてね、祐巳さん、灯里ちゃん、アリア社長」

「うん」

「はい!」

「ぷいにゅ〜!」


 まったりとしたARIAカンパニー。

 それは、一人加わったことにより、少しだけ賑やかな朝となった。












「ところで祐巳さんって、ARIAカンパニーに入るんですか?」

「一応、そのつもり。ARIAカンパニー、灯里ちゃん含めて2人しかいないしね」

「わーい!」


 灯里が両手を挙げて喜び、それを見て祐巳が笑うさまを、アリシアは微笑みながら見ていた。


 もう、会えないと思っていた人が、戻ってきてくれて。

 それを確認するように、昨晩はかつてのように同じベッドの上、祐巳の手を握りながら眠った。

 祐巳がいなくなってから初と言える、とても幸せな気分で。


「祐巳さん」

「うん?」

「晃ちゃんたちにも、報告しましょう」

「そうだね。ビックリさせてあげよう」


 くすりと、意地悪そうな笑みを浮かべ、祐巳はアリシアに微笑み返した。

 かつて見慣れていたその笑みに、アリシアは笑みを深めた。
























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