【来世で会いましょう】































 ――― ファンファンファン


 響く、サイレンの音。

 数台の警察車両が、赤い光りをはなちながら走っている。


 車が止まったのは、一軒の家。

 急いだように警察の者たちが入っていくと、リビングには血溜まりがあって。

 その中心にいるのは少女が2人。


 1人は腹部を真っ赤にしていて、それよりも幾つか下の少女がその子を抱きしめていた。

 その少女達から少し離れた位置にいるのが、気を失っているらしい男性。


「お姉ちゃん!お姉ちゃん起きてよぉ!!」


 血に濡れるのもかまわず、抱きしめたまま叫び。

 警察のものたちは慌てて男性を拘束。

 救急隊のものたちも、少女を担架にのせて運び出した。




































「ここは・・・」


 金髪に青目の少女は、あたりを見渡す。

 枯れた木々に囲まれたそこをぬければ、現れたのは石造りの床に厳つい大きな門。


 その門の前に、黒い着物を着た一人の女性が立っていた。


「あ、人発見」

「ようこそ、怨みの門へ」


 その女性の言葉に、少女はあ、といったような顔で女性を凝視。

 それに女性は眉を寄せ。


「なに?」

「あ、ごめんごめん。・・・あたし、死んだんだやっぱり、と思って」


 それには女性のほうが驚いたように目を軽く見張った。


「あなた、死んだことを理解しているのね・・・」

「まあ。アレで生きてるなんて思えないし」

「そう・・・」

「まあ、相手はとりあえず無効化しといたから、あっさり受け入れられるしね」

「・・・死ぬことが、嫌ではないの?」


 怪訝そうな女性に、少女はにこりと笑った。


「別に。ところで、お姉さんのお名前は?あたしは磯辺 

「私は怨みの門番、イズコ」

「イズコ・・・何処(いずこ)、ね。寂しい名前だね」

「寂しい?」


 眉を寄せて聞き返してくるイズコに、は2段ほどの石段を登りつつ。


「だって、イズコっていうのは”どこにあるのかわからない”っていう意味でしょ?」

「・・・・」

「でも、ま。名前はその人を証明する符号のようなものだから、気にするほどでもないか」

「え?」


 心もち視線を下にしていたイズコは、の言葉に顔をあげた。

 はやはり、笑う。


「それに、あたしはもうお姉さんをを認識したから。何処にもない、なんて悲しい意味にはならない」


 先ほど以上に目を見張って、イズコは無言でを見つめた。

 はそれを見つめ返す。

 優しい瞳で。


「イズコさんて、うちの妹みたい」

「あなたの、妹さん・・・?」

「そ。うちの妹も、変なところでネガティブでさ〜。いくらあたしが気にすんな、って言っても全然直らないし」


 イズコはなんと言って良いのかわからず、無言。

 はそれに苦笑して、門に寄りかかった。


「それで、あたしはこれからどうすれば良いわけ?」

「・・・あなたにはこれから、三つの選択肢の中から一つを選んでもらうわ」


 視線で促され、イズコは頷く。


「一つ、天国に行き、再生の時を待つ。・・・あなたは産まれたばかりで、純粋な魂を持っているから早く転生できると思うわ」

「もう一つ、魂のまま現世に留まり、永遠の時間を現世で彷徨う」

「最後は、現世の人間を1人、呪い殺す。その場合、あなたは地獄に行き、再生のない永遠の苦しみを味わうことになる」


「ねえ、イズコさん」

「なに?」

「とりあえずさ、妹の様子、見せてもらっても良い?一応選択は決めたけど、心配だからさ」

「・・・良いわ」


 頷いたイズコに、はありがとう、と笑顔を向けた。





「うっ・・・お姉、ちゃん・・・っ」


 部屋にこもり、クッションを抱きしめて泣く一人の少女。

 を抱きしめて泣いていた、あの子だ。


【あ〜、もう!まぁだ泣いてるよ!】


 呆れたような、けれど優しい声。

 はすとん、と少女の隣に腰掛けた。


 それと同時に入ってきた、2人の男女。

 2人ともやつれたような顔で、少女の前に膝を立て。

 そして、母親と思われる女性が少女をギュッと、強く抱きしめた。


「そろそろ・・・の葬式が始まる・・・」

を、見送ってあげましょう・・・っ」


【そうそう。笑顔で見送ってよね。あんたの笑顔、すっごい大好きなんだからさ】


 少女は声をあげて泣き出す。

 両親の言葉にか。

 はたまた、大好きな姉の声が聞こえたのか。




「妹さん、泣いているわね・・・」

「あの子、花梨っていうんだけど、内罰的なところあるから。絶対、自分のせいだ、なんて勘違いしてる」


 一瞬で場所が変わり、いつの間にか怨みの門前。

 それに少し驚くも、はすぐに困ったように笑った。


「・・・本当はさ、あたしらってあんまり仲良くなかったんだよね」

「何故?」

「ほら、あたしってこんな格好じゃん?けど、花梨はすごい真面目な子で。つっても、本当はお姉ちゃん子なんだけどね、花梨って」


 石段に腰掛け、はイズコを見上げる。


「まあ、だからこそ、あたしは心配だった」

「心配?」

「そ。だって、発散する場所がなかったら、内に溜まりすぎて爆発しちゃうでしょ?人なんてさ、強いようで脆いから」

「・・・大切なのね、妹さんが」

「そりゃ当然。だって、たった一人の妹なんだから。大切で大好きじゃなかったら、自分の命懸けてまで庇わないよ」


 それは、眩しいくらいに綺麗な笑顔だった。

 イズコが一瞬、見惚れてしまうくらい。




「・・・・・・・・」


 が笑顔で写っている写真。

 その前に置かれた棺桶からのぞく、白い顔。


 参列している者たちは、口々にいう。


 妹さんを庇ったんだって。

 嘘、マジで?

 そういうことする人だったんだ。

 人は見かけによらないよね〜。

 ね〜。ただのチャラけた女だと思ってたのに。

 チョー意外。


 どうやら彼らは高校のクラスメイトらしく。

 さらに言うならば、あまり彼女達からは良い印象をもたれていなかったようだ。




「うわっ、人望薄っ!」


 そう言われている本人はどこか楽しそうで。

 お腹を抱えて笑っている。


 イズコがを訝しげに見てしまうのも、当然といえるかもしれない。


「・・・腹が立たないの?あんなことを言われて」

「別に?クラスメイトたちがどういう目であたしを見てたかなんて、今さら気にすることでもないし」

「・・・変わってるわね、あなた」

「そう?大体、その他大勢に良いように見られようなんて思ってないし、実際にそんなことは”絶対”がつくくらい無理なことだよ。人間関係なんて、調和がとれてるように見えても、どこかで波状してるものなんだから」

「・・・・・・・」

「あたしは大勢からどう見られてるかなんて気にしない。あたしが気にするのは、大切な人があたしをどう思ってるかだけ」




 口々に好き勝手なことを言う彼女達の中で、1人だけずっと無言で棺桶を見つめている少女がいた。

 いや、睨んでいる、といったほうが正確かもしれない。


 涙は出ていない。

 けれど、彼女はとても辛そうで。

 何かを我慢しているのが、すぐ見てわかる。


 真っ白になるくらい、唇を噛みしめているのだから。




「あ、由香」

「お友達?」

「親友、かな。少なくともあたしの大切な人の中に、由香は入ってる」


 は優しい瞳で、彼女を見つめた。

 イズコはそれをちらりと見たあと、同じように彼女を見る。




 彼女は唇を噛みしめたまま踵を返した。

 はそんな彼女の後を追っていく。


 彼女が向かったのは、2人が良く時間を潰す公園で。

 そこにあるブランコに、力なく座り込む。

 そのまま、力なく顔を下に向けた。


 ぽたりと、手の甲に落ちる雫。


 雨ではない。

 空は、嫌味なくらいに晴れわたっているのだから。


 一度こぼれると、止め方がわからないとでもいうように次々とこぼれ落ちる涙。


【由香・・・】


 はそんな彼女の後ろに立ち、震える背中を見つめる。

 その表情には、困ったような、そしてどこか泣き出しそうな。


【泣くなっての、馬鹿だなぁ、由香は】


 伸ばした手。

 けれど、はそれを途中で止めてしまう。


 触れられないとわかっているからだろう。


・・・っ!」


 それも彼女の声にすぐに思い直すようにし、彼女の頭を軽く小突く仕草をする。


【ま、長く生きろよ、親友!あたしの分までさ!】




 いつの間にか、場所は門の前。

 とイズコは石段に、隣同士に座っていた。


「もう良いの?」

「そうだね。気は済んだかもしれない」


 にっこりと笑う。


 イズコは、の笑顔しか見たことがなくて。

 それでも、それがやせ我慢ではないことを、なんとなく悟っていた。


「強いのね、あなたは・・・」

「あ、そうだ。それ、止めてくれない?」

「え?」

「あなた、っていうの。あたしにはさ、って名前があるんだから。ね、イズコさん?」


 その言葉に、イズコは戸惑ったような顔を。


、さん・・・?」

「もう一声!さん付け無で良いよ。イズコさんの方が年上っぽいし」

「・・・・・・?」

「オッケー」


 とたん、嬉しそうな顔をする

 思わず、イズコもそれに微笑み返していた。


 だが、次の瞬間イズコは目を見開く。

 今までで一番の驚き。

 驚愕、といってもいいだろう。


 なんと、が抱きついてきたのだ。


っ?」

「ね、イズコさんてずっとここにいるの?」

「え?そ、そうね」

「転生とか、しないの?」

「・・・・・・あの方は、あなたを案内したあと再生させてくれると、言ってくださったわ」

「あの方・・・?ま、良いや!」


 ニコニコ顔では離れ、立ち上がる。

 それを戸惑いの顔で見上げるイズコ。


「あたし、生まれ変わったら、イズコさん絶対見つける!」

「・・・記憶はないわ。今、このときの」

「そんなの関係ないって。見つけるものは見つけるって決めたからさ」


 にっこりと、無邪気な笑顔で。

 金髪と青目には少し不似合いで。

 けれどそれもまた、綺麗だった。


「何故?」

「だって人は、一目惚れっていう現象を起こす生き物だから」

「・・・一目、惚れ・・・?」

「そ。初恋だよ?初恋。なら、実らせなきゃアウトでしょ!」


 自信満々に言い切るを、やはりイズコは困惑してしまう。

 といっても、はそんなイズコを気にした様子もなく、笑った。


「必ず、イズコさんを射止めて見せるから!」


 寂しい、閑散としたそこに。

 の声は、静かに響いた。

































「桃華さん!」

?」


 穏やかな日差しを浴びて歩いていた女性に駆け寄る、一人の少女。

 顔立ちは日本人なのだが、金髪に青目という姿をしている。

 本人はそんな格好をする気はなかったのだが、何故か母親とその恋人に強要されて、仕方なく学校以外ではその姿でいたりする。


 女性は少女の声に振り返り、その姿を視界に入れるとふわりと笑った。


もこれからバイト?」

「そ。店長に無理言って、桃華さんと同じシフトにしてもらっちゃった」

「悪い子」


 くすりと笑う女性に、少女は舌を出して笑う。


「だってさ、最近大学が忙しくて、桃華さん会えないし?」

「それはも同じでしょう?受験生?」

「イイのイイの。お母さんは、それほど良い大学に入らなくていい、って言ってるし」

「あら、うちの大学には入らないの?」

「桃華さんの大学は、完全に合格圏内だし。っていうか、この間メールしたじゃん。推薦とった、って」


 そういって少女は笑顔で女性の腕に、自らの腕を絡めて。


 その嬉しそうな姿を隠そうとしない少女に、女性は柔らかな笑みを深めた。

 少女もそれを見て、笑みを深めて返す。


「嘘、ちゃんとわかってるわ」


 それに、と続けた女性に、少女はきょとん、と首を傾げて。

 女性はその少女の耳元に、顔を寄せた。


「同じ大学に入れたら、初エッチの約束、してるしね」


 その内容に思わず顔を赤らめてしまう少女に、女性はくすりと笑った。

 が、すぐに困ったような表情になる。


「けど、由香さんにバレないようにしないと。あなたのこと、とても溺愛してるもの」

「あ〜、母さん、ね・・・。あと、花梨さんも、何でかあたしに対して執着してるし。・・・いつもはラブラブなのに、あたしが絡むと取り合いになるからな〜」

「大学なんて待たずに、今からでも既成事実作っておいたほうが良いかもね?」

「・・・・・・」


 それには答えず、というよりも答えられず、少女は女性を引っぱってバイト先へと向かい。

 真っ赤な年下の恋人を見ながら、女性はクスクスと笑うのだった。


 幸せな。

 誰もが手に入れる資格のある。

 そんな、穏やかな日常。

















 ブラウザバックでお戻りください。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送