【共に】































 あたしの力を、初めて認めてくれたのが、あの方だった。


 姉の付属品としか見てくれない、義父や道場の人たち。

 血の繋がりのある双子であったとしても、あたしを見下ろしてくるあの子。


 あたしの力は、知らないうちからあって、それの使い方もわかっていて、けど、誰にも言ったことはなくて。

 嫌われる、とか、そういう思いからじゃなくて、あたしを見てくれない人になんて言いたくないから。


 誰にも心を開かずにいた幼少時代。

 黒鉄の家に引き取られてしばらくした頃。

 見てすぐに気付いた、ヒトでもない何かを倒したあとに会ったあの方。

 まだ、家主になる前の、候補という位置にいたあの方。

 
『あなたと同じ力を持った人が、家にはたくさんいます。家に来ませんか?』


 誘いが嬉しくて、あたしはその手をすぐにとった。

 ただ、住み込みは遠慮して、力を強めるためにその家に通うようになった。


 そこで会った、かけがえのない1人の人。

 
 あの方の側近となれるまでの力を手に入れてすぐの頃に起こった、ある事件。
 
 その事件があって、あの方が心を許した、幾人かのヒト達とも出会えた。

 そして、あの方が家主となってすぐ、あたしとあの人はあの方の側近になれた。


 どれほど嬉しかっただろう。

 2人で泣いた夜。

 
 その時の流れで、その人とも一つになった夜。


 あの方のおかげで、あたしはあたしに成れた。

 だからあたしやあの人は、あの方と、あの方が心の許したヒト達を、絶対に守ると誓った。











 私の家は、古くからある名家だった。

 剣術において、神門や天地といった名家と並ぶくらい。

 その家で、私は当主の娘で、時期当主と謳われるくらいの剣の腕を持っていた。


 けれど、その家で私は、ただの人形だった。

 取り入ろうとしてくる、汚い大人たち。

 冷たい目で見てくる兄弟達。

 私という存在ではなく、剣術の強い道具を誇る両親。


 そんな彼女達に、私は自分のある力を隠して生活していた。

 その力のことを、誰にも言わずに過ごしていたある日。

 ヒトではない何かに襲われていた私を助けてくれた、ある方。

 
 まだ幼かったあの方は、”私”を見て言ってくださった。


『私の元に来ませんか?あなたが求める居場所が、私の家にはありますよ?』


 私に、躊躇する、などという言葉はなかった。


 それから、私はその方の家で剣術や力の使い方を学ぶようになった。


 そこで出逢った、私よりも小さな彼女。

 私と同じように、あの方に救われたのだという。


 けれどそれは関係なく、私はすぐに、彼女を愛すようになった。

 彼女も私に応えてくれた。


 そんな中、私たちはある事件で、あの方と、あの方が信をおく者たちと出会うことができた。

 その事件を終えて、あの方は家主となり、私と彼女はあの方の側近を勤めることとなった。


 嬉しさに泣く彼女と一緒に涙したあの夜。

 そのまま、彼女と体を重ねたあの夜。

 
 私はその日のことを、絶対に忘れないだろう。

 そして、私と彼女はあの方と、あの方が信のおく者たちを守ると誓った日。

 
 私は、自らの家を捨て、あの方に苗字を貰い、今を生きる。

 彼女と、共に。
 
 

 



 






「ひつぎ様〜vお茶が入りました〜vv」

「静久、お茶を入れてくれるかしら?」

「そんなっ!私がせっかくお茶を入れたのに!!覚えていなさいよ!静久―――!!」

「だからなんで私なんですか!!?」


 洸、いつものように泣きながら逃亡。





「綾那ーーーー!!」

「離れろ!エロガキ!!!」

「痛い・・・綾那の愛が痛いよ・・・・!」

「・・・・・もっと殴られたいか?」

「め、滅相もございません!」


 慌てて正座をするはやて。

 ふん、と鼻息の荒い綾那。

 それをニヤニヤと見つめる順。


「素直じゃないよね〜」

「よ〜し、遊んでやるからきな」

「ご遠慮いたします」


 はやての隣で同じように正座をする順の右頬は、すでに腫れていた。

 
 と、その時、はやてのポケットに入れていた携帯が震えた。


「っ。あ、あたし、ちょっと用事思い出しちゃった!じゃーねー!綾那、じゅんじゅん!」

「はあ!?おい!・・・・・チッ」

「残念だったね、綾那vあたしが慰めて・・・・」

「なんだって?」

「なんでもありません」


 順の左頬も腫れた。









「・・・・・・・・・・・・困ったね」

「ええ、そうね・・・・」



 監視カメラの死角であり人気のない場所で、白服の長身の少女と、黒服で短身の少女が壁に寄りかかりながらため息を吐いた。

 お互い、見ているのは携帯の画面。


「なんで葛様、天地学園になんか・・・・」

「一応、若杉は天地学園に寄付金を渡しているからね。偵察、という名目じゃないかしら」


 画面に映っているのはメール。

 差出人は、2人が敬愛し、命よりも大切だと言っても良いほどに愛してやまない1人の少女の名前。

 若杉葛。


「明日、午後1時、烏月、桂お姉さん、柚明さん、サクヤさんを連れてそちらに向かいます。か・・・・」

「昨日の朝一番に来た書類を見て、私、心臓止まるかと思ったわよ」

「今も止まりそうだよ、あたし・・・」

「「はぁ・・・・」」


 お互いの重なったため息。

 それから、顔を見合わせ、クスクス笑う。


「はやて、明日は朱雀と白虎、用意しておくのよ?」

「洸も、玄武と青龍、用意しておかないとね」

「ええ。烏月も連れてくるということは、鬼を斬るか、決闘を申し込むかどちらかだと思うから。会長さんも決闘だと判断しているみたいだし」

「うん、わかってる。・・・もし決闘になんてなったとしても、誰であろうと手は抜かない」

「それは、私もよ。例え、この学園にいられなくなったとしても」


 長身の少女と短身の少女は顔を見合わせ、そっと口付けを交わす。


「「葛様に仕える者として、恥じぬように」」
 

 心を許したものにしか見せぬ、凛とした笑み。

 それを交し合い、少女2人はそこを一瞬で離れた。






















「ようこそいらっしゃいました、若杉葛様。わたくしがこの学校の理事長、天地ひつぎです」

「私は若杉葛です。こちらが私のお供で、羽藤桂さん、浅間サクヤさん、羽藤柚明さん、千羽烏月さんです」

「は、初めまして、羽藤桂です」

「あたしは浅間サクヤ。よろしくね」

「羽藤柚明です」

「千羽烏月と申します」

「千羽さんが、今回わたくし達のお相手を?」

「それと、あともう2人います」


 葛がにっこりと微笑む。

 ひつぎたちが気付かないくらい、さりげなく洸へと目線を送る。

 洸は、それに対し目礼を返した。


「そう、楽しみですわ」

「はい」


 化かしあう狐と狸のように微笑みあうひつぎと葛。


 それを見て顔を引きつらせる、桂、洸、静久。

 ニヤニヤと笑うサクヤ。

 苦笑する柚明。

 呆れたようにため息をつく烏月があった。










「ずいぶん大掛かりだな」

「仕方ないって。若杉と言えば、名高い、天地と張り合うくらいの大財閥だもん」


 校庭。

 所狭しといる生徒達。

 ほとんどか剣待生で、一般生徒も混じっている。


 その中心にいるのが、会長のひつぎたち白服と、葛たち。


 綾那と順の会話に、はやては気付かれないように苦笑をこぼす。

 そして、ひつぎの後ろにいる洸と視線を交わし、頷きあう。


「にしても、いつもよりも静かだな、お前」

「なんていうか、綺麗なヒト達がいて、キンチョーというか」

「はっ、お前でも緊張するのか」

「わかる、わかるよはやてちゃん!あの二つに結った子も清純そうで可愛いし!蝶の髪飾りをした人も、清楚な感じで良いし!ボン・キュ・ボンな感じのあの人も良いよね!長い髪のあの子も良いし!緊張するって!!」

「黙ってろ!!」


 綾那に殴られている順。

 はやての口端がぴくりと動くが、幸いそれを2人に見られることはなかった。



 葛様が入ってないって、どういうこと?

 そりゃあ、葛様をそういう対象で見られてても、それはそれでムカつくけどさ。

 それに、葛様が心を許しているヒト達を、そういう目で見てるってのも、すごく腹立つ。



 はやては一瞬、本当に一瞬だけ、順を殴りそうになった。


「そろそろ始めましょうか」

「形式は、3回戦です。戦うのは双方とも3人で、1対1での勝負とさせていただきます」

 
 ひつぎの言葉を合図にするように全員が静かになり、綾那と順もそちらへと目を向けた。

 同じようにはやても。

 
 続けて言われた静久の言葉に、生徒達は顔を見合わせた。

 天地学園での勝負は、2対2だからだ。


「こちらは、天地学園の誇る白服、神門玲さんと祈紗枝さん、月島みのりさんがお相手するわ」


 ひつぎがそう言うと、正装を着た玲と紗枝、みのりがひつぎの前に出てきた。


「それでは、そちらの選手を紹介してくださるかしら?」

「そうですね。烏月さん」

「はい」


 烏月が一歩前に出る。

 
「あら、お1人だけなのかしら?」

「あ?嘗めてんのか?」

「止めなさいよ、玲」


 葛を睨みつける玲に、紗枝が諌める言葉を紡ぐ。

 
 はやてと洸が、小さく肩を震わせた。

 すっとあげられた顔。


「はやてちゃん?」

「おい、どうした?」


「洸さん?」


 順と綾那が不思議そうにはやての頭のてっぺんを見つめ、洸には静久が声をかけた。

 はやては少し身長が低すぎて綾那と順には表情が読めなかったようだが、洸の無表情を見た静久は驚いた。


「けどよ、紗枝。ガキに嘗められて、黙ってられるかよ」

「もう、玲ったら」

「もうそのくらいにしないと、後が怖いよ?そこの2人」

「は?」


 サクヤが笑いながら言うと、玲は睨むようにサクヤを見た。

 サクヤたちは知っているから。


「葛にはね、ご忠信な子たちがいるんだよ」

「葛ちゃんを睨みつけるだけで怒るような子たちが、2人ほどいるんです」


 サクヤと柚明が苦笑しながら教えてやる。

 桂ははやてを探そうとしているのか、あたりをきょろきょろ。


「でしたら、呼んで下さるかしら?」


 楽しみなのか、ひつぎは微笑む。


「ああ。早く連れて来いよ、そのガキにご忠信だっていう奴をさ」


 玲がそう言った瞬間だった。


「葛様を侮辱する発言は、控えてもらいたいんだけど?」

「私も同感だわ。神門玲さん、あなた、もう少し発言を考えたほうが良いわよ」


 いつのまに場所を移動したのか、はやてと洸が玲の首元に刀を×印のように重ねて突きつけていた。


「「「「「「「「「―――っ!!?」」」」」」」」」


 葛たち以外の全員が、息を呑んだ。

 あのひつぎでさえも、いつのまに来たのか見えなかったから。


「クロ・・・・?」

「はやてちゃん・・・・?」

「「洸(さん)・・・・?」」


 綾那、順、ひつぎ、静久の呆然とした声。


「久しぶりだね、はやて、洸」

「サクヤさん、3日前に会ったばかりよ?」

「サクヤさん、2人が来た時はもう酔っ払ってたから」

「長く生き過ぎて、脳が腐り始めるんじゃないんですか?」

「烏月、あんたね〜」

「ま、まあまあ、サクヤさん。烏月さんも煽らないでくださいよ」

「すいません」


 和気藹々な葛組。


「あはは。サクヤ姉、柚明姉、桂姉、烏月。こんちわ〜」

「こんにちは、サクヤさん、柚明さん、桂さん、烏月」

「さて、はやてさん、洸さん。こちらへ」

「「・・・・・はい」」


 葛が微笑みながら声を掛ければ、笑顔でサクヤたちに声をかけていた2人は途端に渋々といったように刀を下ろて、葛の元へと歩き出した。


「っは・・・」

「玲!」


 玲がすとんと地面に腰を落とし、紗枝は慌てて玲を支えた。


 はやてと洸はその間に葛たちのところにつくと、葛の両脇に刀を突き刺した。


「若杉葛様が側近、黒鉄はやて。ただいま参りました」

「同じく葛様が側近、帯刀洸。ただいま参りました」

「この2人が、烏月さん他2人の挑戦者です」


 葛が、にっこりと微笑んだ。















 あとがき。


 微妙な終わり方をしていますが、この話は一話完結です。

 ご了承ください。





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