【醜い私】
私を染める、黒。
黒、
黒。
私を塗りつぶす、闇。
闇。
闇。
全てが黒で、全てが闇。
どこにも差さない光り。
助けて、と叫ぶことは無意味で。
逃げ出そうとすることさえ、無意味。
全てが、無。
産み落とされたのは、トイレの中だったと記憶している。
最初の、記憶。
ハハオヤは、血にまみれた私たちを前に、泣いていた。
しくしく。
しくしく。
そのまま、出て行ってしまったのを、私は見ていた。
いや、知覚していた。
産み落とされたばかりの赤ん坊が、本来覚えているはずのないことを。
双子の姉である凪さえ知らないそれを。
私は、知っている。
今でも鮮明に、覚えている。
たらい回しにされた、孤児院。
いつも、罵倒されていた。
お前達は、いらないのだと。
死んだほうが良かったのだと。
そんな残酷な言葉、凪には聞かせなかったけど。
そして、何度目かの施設では人身売買に掛けられて。
私は、逃げ出した。
何故抜け出すのかと、問いかけてくる何も知らない凪の手をひいて。
そんな私たちを拾ってくれたのが、たんぽぽ園の人だった。
当時名前のなかった私たちに、名前をくれた。
優しさ、という知らなかったモノを教えてくれた。
愛情という、無縁だと思ってくれたものを与えてくれた。
だから私は、たんぽぽ園に恩返しをするために、今を生きている。
天地学園に入った理由は、何も知らない大事な姉の代わりだけど。
それでも、私に出来る限りの恩返しを、したい。
私に、生きることへの希望を与えてくれた、暖かい人達に。
その思いは、私たちを引き取ったチチと呼ばれる人へ、ではなくて。
私たちに、初めて人の暖かさを教えてくれた、あの場所への。
「おい、クロ」
「どったの〜?綾那」
今朝見た夢。
湧き上がるナニカを抑えて、綾那に笑顔を向ける。
恩返しのために、利用している彼女に。
「お前、体調悪いのか?」
「え?そんなことないよ〜?」
ドキッとしたその心。
気づかれるはずない。
目の前の哀れな刃友は、何も知らないのだから。
「・・・・・・・・」
信用していない、その瞳。
ねえ、お願いだから。
そんな目で、私を見ないで。
その、澄んだ瞳に。
その、綺麗な瞳に。
歪んだ私を、うつさないで。
「変な綾那〜」
「・・・・お前が隠したいなら、別にいいけど」
「隠すことなんて何もないよ?」
ごめんなさい、優しい人。
ごめんなさい、哀れな人。
ごめんなさい、強い人。
ごめんなさい、脆い人。
私は、醜く、どこまでも愚かなの。
あなたのような人を騙す、狡猾な私を。
お願いだから、心配しないで。
お願いだから、信用しないで。
「・・・・お前は、私の刃友だよな?」
「今さら何言ってるの?綾那が嫌がっても、ずっと傍にいるんだから!綾那は、あたしの嫁だかんね!!」
「そうか」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「・・・・・・嘘つき・・・・・」
小さなあなたの呟きは、私を震わせる。
心を。
心臓を。
脳を。
聞こえない振りをして、私はあなたの隣を歩く。
いつからか、私という存在を愛してくれるようになった、あなたの隣を。
何も知らない。
けど、何かに気づいているあなたの隣を。
お願い。
私なんかを、好きにならないで。
私なんかを、愛さないで。
醜く。
残酷な私を。
あなたが、もう少し馬鹿であったなら。
あなたが、もう少し酷い人だったなら。
私はきっと、なんとも思わなかったのに。
私はきっと、こんな感情抱かなかったのに。
この学園を出るまで私はきっと、あなたに謝ることはしないだろう。
それでも私は、あなたに愛されていたい。
なんて、矛盾。
ブラウザバックでお戻りください。
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