【保健室】
私は、ハーマイオニー・グレンジャー。
グリフィンドールの3年生。
今、私は夜中にもかかわらず、廊下を歩いている。
本来ならこんなことはしてはいけない。
むしろ私は、そういうことを注意するような人間だ。
そんな私が何故、違反を犯しているのかというと、今日、いつも一緒に行動をしている・が怪我をして、保健室にいるからだ。
念のために今日一日は、ということで保健室で過ごしている親友。
本当なら、それを聞いてすぐにハリーやロンと一緒に彼女の元へと向かうべきなのだけれど、私はそれをしなかった。
理由は、ひどく簡単なこと。
宿題を終わらせるため。
嘘。
本当は、会いたくなかったから。
親友だとは思っている、けど私は彼女があまり好きではなかった。
性格が悪い、というわけではない。
むしろすごく良い子で、いつも明るくて、寮とか関係なく皆に接する彼女。
けど、何故か私は彼女を見ていると、嫌な気持ちになった。
私との2人きりだとそういうことはないのに、なぜか3人とか、4人とか、とにかく2人きり以外のときの彼女を見ていると、私は無性に苛々してくるのだ。
だから私は、ハリーたちと一緒にには会いに行かなかった。
「、悲しんでるかしら・・・・」
小さく呟いたつもりだったのに、静かな分結構響いてしまった。
慌てて口を手で押さえて、それからは喋らないようにして保健室へと急ぐ。
保健室についた私は、ドアを静かに開けた。
そこで聞こえた声。
それは、甘い声、だった。
ドアを開ける手が止まって、体も自分の意思に関係なく固まった。
聞き間違えることなんてないの、けど初めて聞く声。
混乱して、それでも考え付く一つの可能性。
私は、無意識に震える体を叱咤して、保健室の中へと入っていった。
一つだけ閉まったカーテンの向こう、月の光に照らされたシルエット。
それは、そこに2人の人物がいることを示していた。
嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ!
自分でも理解のできない、そんな思い。
本能がカーテンを開けてはいけない、そう言っているのに、手はカーテンを掴んでいる。
体が勝手に動き、私の手はカーテンを勢いよく開けていた。
―――シャァ!
「「っ!?」」
そこにある光景に、私は目を見開くことしかできない。
向こうも、目を見開いて私を見上げた。
「はー、まいお、にー・・・・」
「あなたたち・・・・・っ」
重なり合った2人の女性。
片方は、私の親友の。
もう1人は、違う寮の人なのかもしれない、まったく見覚えのない人。
「あらら、見られちゃったわね、」
「え・・・」
その女性はにっこりと微笑むと体を隠すことなく立ち上がり、服を着始めた。
は反対に掛け布団で体を隠し、戸惑ったようにその人と私を交互に見る。
「それじゃあ、。暇ができたらいらっしゃい。もっとも、彼女が離してくれるとも思わないけど」
その人は私にニヤリと笑うと、にキスをしてさっさと保健室を出て行ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、あの、ね?」
何か言おうと、けれど急な展開に言葉が見つからないらしい。
けれどそれは私も同じで、何を言って良いのかわからない。
「え、えっと、なんでここに?ハーマイオニーが夜中に出歩くなんて、珍しいね」
普段と変らないように振舞う。
けど、裸であることと、情事の名残だろう、額や首筋を伝う汗が先ほど見たものが真実だったのだと、そう伝えてくる。
「・・・・・・・なの?」
「え?」
「あの人は、恋人、なの?」
の言葉には答えず、私はそう問うた。
「・・・・・・・・・・・・・・・ううん・・・・・」
長い沈黙の末の答えは、私を先ほど以上の混乱に陥れた。
「え・・・・。じゃあ、どういう、ことっ?」
「それは・・・・・・・・・・」
「答えて!」
俯くの肩を掴んだ。
小さく震えた。
それでも、先程からずっと湧き上がってくるこの黒い感情は、止まらない。
「・・・・・・ごめんね、ハーマイオニー」
「何の謝罪よ!」
「ハーマイオニーが、思ってるような良い子じゃ、なくて・・・・」
「それじゃあわからないわよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・」
「何とか言いなさいよ!!」
両肩をつかんで、無理やり顔を向けさせた。
目線をあわせようとしないの顎を掴んで、目線も合わせる。
初めて、に対して、こんなに乱暴に接した。
「あたし、ハーマイオニーが思ってるほど、良い子じゃない。1年の中ごろからずっと・・・・」
全然、気付かなかった。
「っ!」
――― パシン!!
気がつけば、私はの頬を叩いていた。
唇を噛みしめて、わけもわからずに漏れてくる嗚咽を抑える。
「なんでっ・・・・なんで!!」
「ごめん・・・・ごめんなさい・・・・っ」
「そんな言葉が聞きたいんじゃないわ!!理由を聞いてるのよ!!」
「だってハーマイオニーが!」
「え・・・・?私・・・?」
「あっ」
慌てて口を押さえる。
そんなの上に馬乗りになって、私は彼女の両手を顔の横に押さえつけた。
「ハーマイオニー!?」
「私が何?言ったら、離すわ」
「っ・・・・・言わない・・・・」
「じゃなきゃ、ずっとこのままね。マダムが来ても、ハリーやロンが来ても」
の細い肩が、ピクリと震えた。
その白い肌を見ていると、私は無性にそこに口付けたくなって、それを必死に抑えた。
「それが嫌だったら、言って」
「・・・・ハーマイオニー、絶対に軽蔑する」
「もうしているわ」
の顔が、泣きそうに歪んだ。
「だから言って」
「・・・・・・・・ハーマイオニーが・・・・」
顔を近づける。
再び震えたの肩。
震えた瞼。
潤んだ瞳。
漏れ出しそうな涙。
そして、隠れた、の華奢な身体。
押さえていた黒い感情が、欲望に代わるのがわかった。
けど、それを表に出さずに問う。
「続きは?」
「・・・・・・・・・抑えられなくて・・・・・っ」
「何が?」
「・・・・初めて見たときからずっと、好きでっ。けど、言っちゃいけない恋だってわかってるから、抑えてたっ。それでも、抑えられなくて・・・・っ」
の目じりを、涙が伝う。
の手を押さえながら、それを拭ってあげる。
なんとなく、の言いたいことが、私にはわかったから。
「だから、ずっとこんなことをしていたの?」
小さな首肯。
「それは、抑えられた?」
小さな否定。
「当然よね。だって、に触れる人はあなたの好きな人じゃないんだもの」
「・・ひっく・・・」
「そんなことしていたって、満たされるはずがないわ」
「ごめんなさい・・・」
「謝られても困るわ」
「っ」
震えた肩。
私はそこに、そっと口づけを落とした。
「っ!?」
驚いたように私をみるに何も言わず、さらに深くキスをする。
途端、の腕が私の手からすり抜けて、私の首にまわった。
私も、の首に腕を回す。
「満たされた?」
ベッドの上、私に抱きついて虚ろな目をしていたは頷いた。
そんなのさらさらの髪の口づける。
「私はずっと、あなたが嫌いだったわ」
「っ!?」
慌てて離れようとするの背中に腕を回して、強く抱き寄せた。
「2人きりだとそうでもないのに、何故か3人以上でいると、すごく苛々したの」
の身体が震え、私にまわっていた腕がゆっくりと離される。
もう一つの手で、その腕を元の位置に戻させた。
「ハー、マイオニー・・・・?」
「けれど、ようやくわかったわ。私、嫉妬していたのね」
「え・・・?」
「私と違って人気のあるあなたは、いろんな人に声を掛けられて。それに笑顔で答えていて、ハリーやロンとも仲が良くて」
「それって・・・・」
もようやく私が言いたいことがわかったようで、目を見張って私を見た。
私は微笑み返して、キスをする。
「あの場面を見るまで、気づかなかったわ。あなたに、恋をしていたなんて」
「ハーマイオニー・・・・」
「遅くなってごめんなさい。・・・・好きよ、のこと」
「ハーマイオニー!」
抱きついてくるを、抱き締め返す。
「あなたの初めてじゃないのは嫌だけど・・・・」
「あ・・・・ごめんなさい・・・・」
泣きそうな声。
私は体を離して、歪んだにキス。
「けど、もう誰にもあなたの素肌には触らせないわ」
「うんっ」
その後もう一度と肌を重ねて、明るくなった外に慌てて私たちは服を着た。
服を着てすぐに入ってきたマダムに驚かれつつ、許可をもらって2人で手を繋ぎながら寮へと戻った。
「ハーマイオニー、こんな早くからお見舞いに行ってたの?」
「ええ」
驚いたようなハリーに微笑んで返すと、は顔を赤くする。
それを不思議そうに見るハリーと、男子寮から降りてきたロン。
先程からをチラチラと見ている男子と女子。
彼女達はきっと、制服の襟元から見える印に気がついたのかもしれない。
私がつけた、私のものだという印に。
私は、そんな彼女達に行動で示した。
「」
「な、何?―――っ!?」
みんなに見えるように、の柔らかな唇にキス。
慌てたように離れて口を押さえるの顔は、真っ赤。
皆は、そんな私とを凝視。
「「ハーマイオニー!!?」」
「っ//////」
「ごめんなさい、ハリー、ロン。それと、を好きな皆。は今日から、私の恋人になったの」
抱き寄せれば、耳まで真っ赤にする。
私は、今まで生きてきた中で一番の笑顔を浮かべた。
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