【予想外の出来事】































 最近見慣れた、レイと手をつないでのミサトの登場。

 リツコはそれを見て、気づかれないようにため息をはいた。


 リツコはゲンドウの情けない姿を見たとき、自覚した。

 自分がゲンドウを本当に愛しているわけではなく、レイプされたことで感じるようになったゲンドウに対する”恐怖”を”愛”といい聞かせていたのだと。

 けれど、あの姿のゲンドウを見てリツコは気づいた。

 あんな情けない臆病者など、どこも怖くないのだと。

 強面と雰囲気で隠しているだけで、実際は弱虫な小心者なのだと。


 それによってリツコは自分を縛っていたものをようやく外すことができ、万々歳。


 というわけにはいかなかった。

 というのも、どうやらリツコはミサトが気になるようになったようなのだ。

 あくまでまだ気になる、程度のものだが、リツコ自身それが時を経るにしたがって”恋”へと変わると理解している。


 だからこそ、仲の良いミサトとレイの姿にヤキモチ。


「・・・結局、偽りの恋を脱出しても、レイがライバルであることに変わりはないわけね」


 再びため息。

 そんなリツコの内心に気づかず、ミサトが顔を覗き込んだ。


「ため息なんてついて、疲れてるの?」

「っビックリさせないで!」

「声かけたわよ?」


 慌てたリツコにも、ミサトは平然と肩をすくめて。

 あまつさえ、レイに同意を求め、レイもそれに頷いている。


「はぁ・・・。それで、今度はなんのようなの?あの武器なら、もう製作に取り掛かってるけど?」

「今回は違う用事。一昨日届いた資料に載ってたシンリさんって、本当にあの男の娘さんなの?」

「そのこと。そうよ、似てないけど正真正銘、彼の娘さんよ」


 ミサトがゲンドウをあの男呼ばわりするのを止めることはしない。

 周りだって気にしないのだ。

 もちろん、本人の前ではちゃんと上司に対する態度だが。


 ちなみにゲンドウによって降格されたミサトだったが、1時間後事情を知ったコウゾウが慌ててミサトを呼び出し、取り消しを告げた。

 当然だ。

 あのままでいるということはイコール、ゲンドウのアホさ加減を触れ回っているようなものなのだから。

 といっても全職員が、ゲンドウがふざけた理由でミサトを一度、降格したことを知っているが。


「・・・彼女、あの男に似なくて良かったわよね」

「そうね。それはたぶん、写真を見たもの全員が思う感想だわ」


 リツコも、周りにいる者たちも深く頷いている。


「そう、それでね、そのシンリさんから私宛に電話が来たのよ」

「は?」

「ほら、私が迎えに行くことになってたじゃない?それで、そのための私の写真も同封させてもらったから、私宛に電話がきたんだと思うのよね」


 リツコはその説明に納得。

 無言で促す。

 が、握っていたミサトの手をといて、暇なのだろう顔の前に掲げてジッと見つめているレイを気にしているが。


「その内容が、3日後じゃなくて、明日迎えに来てくれないか、って」

「・・・かまわないでしょう。別に困ることはないわ」


 本来ならばゲンドウの了承を取らなければいけないのだが、今現在ゲンドウはコウゾウからの折檻で全身打撲。

 コウゾウも事後承諾でかまわないだろう、とリツコは予測。

 もちろん、そのための言い訳はいくらでも用意できる。


「わかったわ。じゃあ、シンリさんには私のほうから電話しておくわね」

「ええ。レイも連れて行くの?」

「そのつもりよ」


 ね、とレイに微笑みかけるミサト。

 理解はしていないのだろうが頷くレイ。


「・・・なら、私も行くわ。明日なら差し迫った用事もないし」

「わかったわ。じゃあ、迎えにいく1時間前にリツコの部屋に迎えに行くわね」

「ええ、お願い」


 このまま帰るのだろう、仲良く話しをしながら出て行こうとする2人。

 リツコは不機嫌そうにその背中を見つめ。


「待ちなさい」


 呼び止めた。

 ミサトが不思議そうに振り返り、なんとなくレイが不満そうに振り返る。


「今夜、あなたの部屋に行くわ」

「あらら、意外に私の手料理気に入ったの?」


 意地悪そうな笑顔。


 以前のミサトの料理ならばリツコは断然拒否だが、性格が変わったと同時に料理の腕もずいぶん変わったというのをミサトが本部にきたばかりのころ知った。

 プロ並に美味しい、というわけでもないのだが、十分な美味しさをもっている。

 特にどこで鍛えたのか、デザートに関しては絶品なのだ。

 それこそ、プロ顔負けなほどに。


 その時、マヤやほかの者たちがピクリと反応していたりする。

 彼女達も、たまにミサトが差し入れとしてくれるデザートに惚れているから。


「デザートの方をね」

「ふふ、了解。今日は甘さ控えめのガトーショコラだから、楽しみにしてなさいね♪」


「甘さ控えめ・・・」

「大丈夫。レイには別に、甘いの作ってあげるから」

「・・・♪」


 ミサトの言葉に表情を少しだけ綻ばせるレイ。

 そんな彼女に笑みを深め、ミサトはレイの手を引いて部屋を出て行った。


 途端、リツコの周りに集まるマヤを筆頭にした女性陣。


「私も御一緒して良いですか!!?」


 内容は、そんなこと。

 もっとも、リツコは一切それに頷きはしなかったけれど。






































 碇シンリは驚いていた。

 迎えに来たのが、ミサトだけではなく、レイとリツコもいたから。


 実は彼女、逆行者であった。

 かつて、裏で企む者たちに憂い目にあい、復讐と今度こそ大切な人達を守るために逆行してきたのだ。


 が、本来その復讐の対象に含まれるミサトとリツコの2人が、自分の知る性格とかなり違って見えて対応に困っていた。

 時間も、約束より早く着いたにもかかわらずすでにいたし。

 それでも、昨日した電話の対応で、ミサトに関しては無理矢理納得していたが。


「初めまして、あなたが碇シンリさんね。私が葛城ミサトよ」

「私は赤木リツコよ、よろしくね」

「綾波レイ・・・」


 それぞれ車外で自己紹介を終えたあとは、ミサトのルノーではない車でネルフへ。


「あの、葛城さん」

「どうしたの?」

「その子は・・・」


 助手席にのっているレイに疑問を投げかけるシンリ。

 もちろんレイのことは知っているが、やはり自分の知るレイとは違うようで。

 ましてや、シンリの知る今の時間軸では、大怪我をおって病院から出られないはずだから。

 リツコたちにも言えるが、変わった理由なんて聞けないし、無難に同じ歳の子がいることに対して問いかけた。


「この子はね、場合によってはあなたの仲間となる子よ」

「詳しいことは、ネルフでするわ。けど、勘違いしないでね?別に拒否権がないわけではないから」


 嘘でしょ?とシンリは思った。

 ミサトとリツコの返答は、かなり予想とは違うもの。

 特にミサトに関しては、どこかリツコよりも大人らしさを感じた。


 そしてシンリは、自分の知るレイとは決定的に違う姿を見た。


「ミサトさん・・・」

「どうしたの?レイ」

「眠いの・・・」

「じゃあ、ちょっと待ってね。クーラーつけた車内で、そのまま寝ると風邪を引くわ」


 ミサトを名前で呼ぶだけではなく、どこか甘えるような声なのだ。

 ミサトもリツコもそれに何も疑問も感じていない様子で、ミサトなど当たり前のように上着を脱いでレイにかけている。

 そしてそれを、レイはどこか嬉しそうに受け入れている。


「まったくもう。相変わらずレイに甘いわよね、ミサトは」


 さらに、リツコがどこか拗ねるように呟いているではないか。


 シンリは絶句するほどに驚き。

 事情を知っていそうなリツコに問いかける。


「あ、あの、赤木さん。あの2人っていつもあんなふうなんですか?」

「ええ。まるで”姉妹”みたいにね」


 姉妹を強調するリツコ。

 自分へ向けられる感情には鈍いが、外には鋭いらしいシンリはそれで悟った。


 こちらのリツコは、何故かゲンドウではなくミサトに惚れている、と。


 ミサトは大人っぽくて優しくて。

 レイはミサトに対して甘えん坊で。

 リツコはミサトが好きで。


 シンリはジオフロントに着くまで、ずっと混乱していた。














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