【誰かのために】































「HI.リツコ。ちょっといい?」

「あら、ミサトじゃない。そういえばこっちに来たんだったわね」

「そ、一昨日ね」


 にっこりと笑うミサトに、リツコは少しだけ違和感を感じて。

 けれどそれが何かにすぐに気づいた。


 笑顔だ。


 リツコが知る笑顔は、他人に深く踏み込ませないための明るい仮面。

 けれど近づいてくるミサトが浮かべているのは、そういったモノを排除した優しい笑み。


「っていうか、大学時代の親友が来たことも忘れるってどれだけ忙しいわけ?」

「そうね。サボり魔なミサトには到底想像できないくらい、かしら?」

「なによそれ〜」


 ミサトは唇を尖らせながらもその目は笑い、別段不快にも何にも思っていない様子。

 冗談だったのだろう、リツコのほうも肩をすくめて小さく笑う。


 と、リツコはミサトが何か書類を持っていることに気がついた。


「どうしたの?それ」

「うん、実はちょっとあんたに聞きたいことがあったのよ」


 そういってミサトが渡してきたのは、エヴァ用と思われる武器の設計図。


「っちょっと!これどうしたのよ!」

「エヴァの武器って、あのナイフだけじゃない?それだとちょっち戦闘に不安だからって思ってね〜。使えそう?」


 リツコは驚きつつ、その資料をパラパラと流し読みしていく。

 それだけでも、この書類が十分な設定のもと作られていることがわかった。


「・・・そうね。可能だと思うわ」

「・・・で、何でそんなに驚いてるわけ?」


 片眉を上げるミサトを見つめるリツコ。

 その視線は驚きと、どこか訝しむようで。


「あなた・・・本当に葛城ミサト・・・?」

「ああ、あんたも聞くわけね」

「・・・どういうこと?」


 眉を寄せたリツコに、ミサトは苦笑。


「昔の私を知る人間は、たいていそれを疑うわ。偽者なんじゃないかって。ってわけで、あんたはめでたく100人目よ」


 それは、それほど確認をされた、ということ。

 だからだろう、ミサトは何も思っていないように笑顔を浮かべた。


「じゃあ、私は部屋に戻るから、何か聞きたいことがあったら内線で連絡ちょうだい」

「ええ、わかったわ」

「じゃあねん♪」


 右手を軽く上げて、ミサトはその場を去り。

 リツコは少しの間ミサトの出て行ったドアを見つめていたが、何故ミサトが変わったのかなんてわかるはずもなく。

 小さくため息をつき、モニターへと向きなおるのだった。



































「レイ、怪我のほうはどう?」


 ミサトはノックしてから病室に入る。

 その部屋のベッドには、上半身を起こしたレイが。

 それを見て、ミサトは少し慌てたように駆け寄った。


「こら、まだ寝てないと駄目じゃない」

「問題ありません」

「あなたの問題ないほど信用できないものはないの。良いから、横になって」


 ミサトはレイの背中を支え、そっと横にしてやる。

 レイはそれを拒否することなく、されるがまま。


「良い?いくらストラでも、限度があるわ。レイの怪我は、その限度をこえているの。だから、無理したらまた元通りよ?」

「・・・わかりました」

「痛みをあまり感じなくなってきたから、動きたいかもしれないけど、無理は駄目。良いわね?」


 ベッド端に座り、ミサトはレイの蒼髪を梳きながら真剣な顔でいう。

 レイは撫でられることが気持ち良いのか若干目を細めていて、聞いているか怪しい。

 ミサトはそんなレイに苦笑しながら、梳く手は止めず。


 ミサトは、やってきた初日にレイに会いに行った。

 そうしたらなんと、大怪我で入院しているというではないか。

 ミサトはそれから今まで、毎日レイに会いにいっていた。

 妹分の少女から教えてもらった”ストラ”で、レイの身体を治療するために。


 生死の境をさまようほどの怪我だったレイは、そのおかげで怪我は腕の骨折だけとなっている。

 それでもミサトは心配なのだろう、レイが起きることをまだ良しとはしない。


 レイは人形のような少女であった。

 初めは何度話しかけても無視され。

 けれど段々とそれもなくなり、こうしてミサトと話すようになってから、ミサトに頭を撫でられるようになってから。

 ミサトにだけは、少しだけだが感情をあらわすようになっていた。


 ミサトはレイの怪我部にストラを施し。


「・・・もう、骨折も治りそうね。医者は何か言っていた?」

「あと一週間ほど経過をみて、退院だそうです」

「そう、なら退院したらうちに来る?ずっと寝てたんだし、しばらく大変よ?」

「・・・それは、命令ですか?」


 ミサトはその言葉に苦笑。

 そのまま、レイの頬をなでる。


「あなたは、どっちが良い?」

「・・・わかりません」


 目をうつむかせるレイに微笑むミサトのその顔は、慈愛にあふれた優しいもの。

 まるで、可愛い妹を見つめる姉のような。


「レイの意思を無視した命令が良い?それとも、あなたの意思を尊重したお願いが良い?」

「・・・・・・・・」


 戸惑い、揺れるレイの瞳。

 ミサトは笑みを変えぬまま、ジッとレイのその瞳を見つめ。


【葛城一尉、赤木博士がお呼びです。繰り返します、葛城一尉、赤木博士がお呼びです】


「・・・葛城一尉、呼ばれています」

「今はレイのほうが大事♪」

「・・・・・・」


 その言葉にうっすらと頬を染めるレイ。

 ミサトは思わずその可愛らしさに笑みを深めた。


「レイ、どっちが良い?」


 それは優しい声。


 レイはその声に、頬に添えられた手に、胸が温かくなる。

 それは、ミサトと時間を共にするにしたがって感じはじめたモノ。

 不快ではない。

 ゲンドウと一緒にいたとしても感じることのなかったソレ。


 レイは、自然と口を開いていた。


「・・・葛城一尉と、一緒にいたいです・・・」

「了解♪」


 ミサトは顔を綻ばせ、背筋を伸ばしてレイの額にキスを落とした。

 それに目を瞬かせるレイだったが、嫌なそぶりは見せない。

 意味自体がわからないのもあるだろうが、ソレをされて胸がもっと温かくなったから。


「それじゃあ、また明日来るわね♪」

「・・・また、明日・・・」

「ええ、また明日。レイ」


 優しい笑みを残して病室を出て行ったミサト。

 レイはミサトの出て行ったドアを見つめながら、そっと胸に手を添えた。


「・・・温かい」


 彼女はうっすらと、微笑んでいた。



 リツコに呼び出されたミサトは、迷うことなくリツコの研究室へ。


「どうしたの、リツコ」

「遅いわよ」

「ごみんごみん。ちょっと外せない用事があったのよ」


 パソコンに向かっていた身体を椅子に乗ったまま回転させ、ミサトへと身体を向けるリツコ。

 ミサトはそんな彼女に謝りながら椅子に座った。

 だが、リツコはかなり機嫌が悪いのか鋭くミサトを睨みつける。


「そう。レイと話す時間の方が大事なわけね」

「ちょっと?」

「エヴァ用武器の説明よりも、レイと一緒に住む話のほうが大事だなんてね」

「リツコ?」


 苛立った様子のリツコに、ミサトはわけがわからず眉を寄せてしまう。

 そんなミサトの様子に気づくことなく、リツコは苛立った様子のまま。


「こっちが大変な時に優雅にパイロットとお喋り?良い御身分ね!」

「なんでそんなに怒っているわけ?リツコらしくないわよ」

「っ私らしいってなに!?あなたは、私のことなんてほとんど知らないくせに!!大学でたった3年間一緒にいただけじゃない!!」

「ちょっ」


 激昂し、ミサトが数日前に持ってきた書類を床にばら撒くリツコ。

 さすがにミサトも目を見開き、面食らう。


「たった3年間しかいなかったあなたに、私を決め付けられたくないわ!!あなたが私の何を知っているっていうのよ!!」

「・・・リツコ!!」

「っ!」


 ここに来てから、初めて向けられたミサトの大きな声。

 リツコはそれに肩を震わせ、言葉に詰まったようにうつむいた。

 ミサトがその顔を覗き込めば、唇を噛みしめた親友の姿。


 小さくため息を吐いたミサトは、そんなリツコの両頬を挟み込んだ。

 息さえ届きそうなほど顔を近づけ、リツコはそれに息を呑む。

 すぐ目の前の、見たことないほどに真剣な表情をしたミサトに。


「私はあなたを知っているわ、赤木リツコ。天才なんていわれても、努力をし続けたあなたを。冷静で強い女に見せてるけど、実は脆いってことも私は知ってるわ」

「・・・っ」


 目を見開くリツコに、ミサトはレイに向けていたのと同じ笑みを向けた。


「それで?あなたは今、何に切羽詰ってるの?何をそんなに、心に溜め込んでるの?」


 優しく囁きかけるように。

 怖がらないように。

 そんな、柔らかい声で。


「言っちゃいなさいよ。あなたの目の前にいるのは、それを受け止められないくらい弱い女じゃないわ。親友の弱さをちゃんと受け止められる、そんな女よ、私」

「・・・ミサト・・・っ」

「ほら、溜まったもの吐き出しちゃいなさい」


 受け止めてあげるから。

 そう囁くミサトの声と笑み。


 リツコはそんなミサトに縋るように、語っていた。

 今まであったことを。


「・・・ねえ、聞いても良い?」

「・・・なに?」


 いつの間にか流れていた涙を、ミサトはそっと親指で拭ってやりながら。


「あなたは、本当に碇司令を愛しているの?」

「え・・・?」

「これは私の勝手な思い込みかもしれないけど、話しを聞くに、あなたはかつて碇司令と愛人関係にあった母親に勝ちたくて。それと、レイプしてきた相手を愛すことでその過去から目を逸らしているように見えるわ」

「・・・・・・・」


 リツコは閉口してしまう。

 もしかしたら、リツコ自身うすうす気づいていたことなのかもしれない。


「リツコ、もしあなた自身そうだと思っているのなら、これ以上碇司令の愛人でいるのは止めた方がいいわ。じゃないと、あなたはいつか壊れてしまう」


 抱き寄せられた頭は、ミサトの柔らかな胸にうずまり。

 今まで、母親にでさえされたことのない、頭を撫でられるという行為にリツコは知らず知らず、うっとりとしていた。


「私はそんなこと、認められない。あなたが壊れるとわかっていて、見過ごすことなんてできない」

「ミサト・・・」

「あんな男のためにあなたが壊れるなんて、私は認めないわ」


 少しだけ強められた、リツコの頭を抱きしめる腕の力。

 それに応えるかのように、リツコのミサトの背中に腕をまわしていた。


 正真正銘、ミサトは自分の親友だと。

 リツコは、そんなことを思いながら。


 一方、ミサトは鋭い目をしていた。

 もちろん向けている相手はリツコではなく。

 大切な親友を傷つけ、あまつさえいまだ彼女を縛り続け、今までの人生を自分のために犠牲にさせてきた自分勝手な男に。


 その眼差しは、ゲンドウの威圧などとは比べものにならない。

 視線だけでも、人を殺せるのではないかと思わせるほど鋭く、冷たいものであった。














 あとがき。


 軽くサモンとのクロスが入っています。

 ちょこちょこ、軽い表現が入ります。




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