【ゴリラ派?ジャック派?】





















「組長の娘さん?」




「そうらしいわよ。興味深いわ」




 ふふ、と笑う江利子に、蓉子は呆れの眼差しを向ける。





「ケンカ売ったりしないでよね」





「まさか。そんな事しないわよ。少し、お話ししてみたいだけ」





 さすがの江利子も、ヤクザ組長の娘に喧嘩を売ったりはするつもりはない。





 彼女だって一応、分別はあるのだ。





「それで済めば良いけど」




 ため息をつく蓉子など無視して、江利子はるんるん気分。




 すでに、心はの元へと飛び立っている。




 蓉子は、その心を捕まえるか、それとも放置しておくか悩む。





 結局、放置しておくことにして、蓉子は放課後に使う書類を整理し始めた。





「どんな子なのかしら。ゴリラみたいな子かしら、それとも、切り裂きジャックみたいな子かしら」





 どんな想像よ。





 特に後者。




 
 蓉子は突っ込みたい気持ちをぐっと堪えて、集中しようと頑張る。






「やっぱりヤクザ組長の娘だけあって、強いのかしら。強いわよね、ゴリラみたいな子じゃ」





 ゴリラ決定!?





 蓉子は思わず江利子の方へと顔を向けてしまった。





 そこには、うっとりと自分の思考に埋もれる江利子の姿。





「制服、合うかしら。ああ、髪は生えているのかしら?それともカツラ?」





 何だろう、この人。




 3年来の友人を前に、思わず思ってしまう蓉子。





 とりあえず、





「江利子、戻ってきて」





 友人(とは認めたくないが)を連れ戻すために、声をかけた。




「蓉子はどう思う?私はゴリラ派だけど、あなたはジャック派?」





 選択は2つだけなの!?




 早くも、声をかけたことに後悔する蓉子だった。





























 祥子が放課後、薔薇の館に来てみると、




「ねえ祥子。あなたはゴリラ派?ジャック派?どっちかしら」






 挨拶も無視して、そんな事を聞かれた。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を仰っているのかわかりません」





 もっともだ。





「ゴリラ派かジャック派のどちらか、気分で選んで」





 気分!?




 蓉子と、祥子よりも前に来ていた令と由乃が心の中で声をあげる。





「では、ジャック派でお願いします」





 そう言って、江利子以外に挨拶をする祥子。





「祥子も穴場を狙うわね。ちなみに、私はゴリラ派よ」





「そうですか」




 興味なさそうにそう答えつつ、鞄から書類を取りだす祥子は、相手する気皆無。





 けれど、江利子はそんな対応ではめげない。




 もとい、気にしない。





「それで、蓉子がジャック派で、令と由乃ちゃんがゴリラ派」





 心なしか、げんなりした様子の蓉子達。





 きっと、祥子が来るまでずっとその話題だったのだろう。





「お姉さま、この書類ですが」





 祥子は相手にはせず、書類を蓉子に見せる。





 そこに、江利子の獲物がもう1人入ってきた。






「ごきげんよ〜」






「聖、あなたはゴリラ派?それともジャック派?どっちかしら?」








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」








 標的は、聖に決まった。





「お姉さま。黄薔薇さまは一体何の話をしてらっしゃるんですか?」






 聖に執拗に質問を繰り返している江利子を目の端に入れ、祥子は蓉子に問う。






「それが、今日転入してきた、組組長の娘さんが、ゴリラのような子か、切り裂きジャックのような子か、って江利子が想像してるのよ」






「「・・・・・・・・・・・・」」





 その時になって、ようやく江利子の言動の意味に気づいたのだろう。






 令と由乃が、生暖かい目で自分の姉(スール)、または自分のおばあちゃんを見つめた。






「・・・・・・・・・どっちも、違うと思いますけれど」






「それを、今の江利子に言って、聞くと思う?」






 祥子と蓉子は、同時に江利子へと顔を向ける。






 そして、同時にため息。






 聖の救難信号をさりげなく無視して、祥子と蓉子は令と由乃と一緒に、書類を片付け始めたのだった。





 ただ、






(あの子は、ゴリラや切り裂きジャックではなく、小型犬のような気がするけれど)






 祥子は内心、そんなことを思っていたけれど。
















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