【お好きに】




















 校門が見えてきた頃、祥子の横を黒のベンツが通り過ぎた。





 それは、見覚えのあるような形で、祥子はその車を見つめる。




 すると、その車は校門の前に止まり、運転席から1人の男性がでてきた。





 それは、つい先日、祥子を家まで送ってくれた男性。





 驚き目を見開く祥子の前で、男性が後部座席のドアを開ける。





 そのドアから出てきたのは、リリアンの制服身を包んだあの少女だった。





「お嬢、行ってらっしゃいませ」





「行ってくる。上杉。今日、用事は?」




「狭間組の者が来ますが、お嬢は会わなくとも結構だと、組長が仰ってました」





「わかった。なら、帰りは徒歩で帰るよ」





「かしこまりました」





 男性は恭しく頭を下げると、ベンツに乗り走り去っていった。





 それを、呆然と見ていた祥子。




 しかし、それは祥子だけではなく、登校していた生徒たちも同じようなものだった。




 明らかに、堅気ではない男性。





 そんな男性から敬語を使われていた少女。




 そして、会話の中にあった『組長』『狭間組』という言葉。





 誰もが、彼女が何処かの組みの娘であることを理解した。




 と、その時、少女が祥子へと顔を向ける。





 それを受け、先日のお礼を口にしようとした祥子。





 けれど、祥子が口を開くよりも先に、少女は校舎へと歩きだしてしまう。





「え?」





 祥子は、小さな呟きを漏らす。





 そんな祥子を気にする者は誰もおらず、そこにいる全員が、悠然と校舎へと足を進める少女のことを見つめていた。 


























「初めまして。といいます」




 1年桃組に、1人の転入生。





 朝の出来事を見ていた生徒がいたのだろう。




 近くの生徒にコソコソと、何かを伝えている。





 それが伝わった生徒は、驚きながら他の生徒へ。





 ざわめく教室。





「静かにしなさい」





「構いませんよ、先生。話したい人には、話をさせてあげたらいいじゃないですか」





 そこに、祥子の見た明るさはなく、同じ歳かと思わせるような落ち着きがあった。





 の言った言葉を、嘲りだと思った幾人かが、睨むようにを見る。




 けれど、はそれを気にした様子もなく言った。




「あたしは、組組長の娘だし、それを嫌ってもいない。陰口をたたきたければ、お好きにどうぞ」





 豪胆な子だ。




 サッパリとした物言いに、何人かの生徒が思い、そして好感を持つ。




 反対に、それを不快に思う者もいたけれど。




 
 クラスメイト達の反応は、ハッキリと別れた。





 が席に座り、山村先生が教室から出ていくと、すぐに隣に座っていた少女が声をかけてきた。




「ごきげんよう。わたし、桂、っていうの。よろしくね」





「桂?苗字は?」





「ああ、そこは気にしないで。そこを追求すると、色々な問題が出てくるから」





 笑顔でそんな事を言われ、はポカンとした表情で桂を見つめた。





「そ、そう。よろしく、桂さん」





「よろしくね。それにしても、さんって格好いいよね」





 面と向かって格好いい、などと言われ、は対応に困ってしまう。





「そうかな?」





「そうよ。陰口叩きたければ、お好きにどうぞ。だなんて、普通は言わないもの」





「でも、言いたいことを言っただけだし」





「それが格好いいのよ。わたしには無理だもの」





 肩をすくめる桂に、は笑う。





「桂さんこそ、格好いいよ。ああ言ったあたしに、普通に声かけてくるんだから」





「だって、是非お友達になりたいじゃない」





「そう?」




「そうそう」




 桂が笑い、それにつられるようにも笑った。




「ねえねえ、わたし、福沢祐巳って言うの。わたしとも、お友達になってくれる?」





 そこに、首を傾げ、桂の後ろの席の祐巳も乱入。




「良し。なら、祐巳さんは友達第2号だ」





「ってことは、桂さんが第1号?」




「おや、不満?」




 祐巳の言葉に、桂が片眉をあげて問いかけてくる。




 それに、祐巳とは顔を見あわせ、笑う。




「「全然」」




 揃った声に、3人は吹き出して笑った。





 3人は、前から友達だったかのように、1時間目が始まるまで、仲良く話をしていたのだった。





















「山百合会?」




「そう。紅薔薇さま、黄薔薇さま、白薔薇さま。その人達のつぼみ、つぼみの妹たち。その人達を、山百合会、って呼ぶの」





 お昼休み。




 達3人は、仲良く机をくっつけてお昼を食べながらにリリアンのことを説明していた。






「桂さん、端折りすぎだよ」




「でも、初めからわからない人には、細かい説明したってわからないわよ」





「それはそうだけど・・・・・」





 肩を落として呟く祐巳に笑いながら、は桂へと顔を向ける。





「その人達は、代々受け継がれていくわけ?その、姉妹(スール)制度?ってやつで」





「大体はそうだけど、選挙とかもするから、絶対、とは言いきれないかな」





「選挙で通った人が、新しい薔薇さまになるんだよ」





「へー。変わった学校」




 桂と祐巳の説明に、は眉をよせながら呟いた。





 それに苦笑する、桂と祐巳。





「でさ、誰か、選挙で薔薇さまをやめた人、とかいるの?」





「う〜ん、どうかしら?」





 首を捻る桂。





「あ、わたし知ってるよ」





 と桂の視線が、祐巳に集まった。




 祐巳はニッコリと笑い、




「お母さんがリリアンの2年生だった頃、当時の白薔薇さまが落ちて、一般の生徒が白薔薇さまになったことがあるんだって」





 何故か自慢気に言った。





「「へー」」





「その方の名前は、鹿島 美穂子さま、だって」





「っ!?ゴホッ、ゴホッ」





 たまたま飲んでいた飲み物を、が喉に詰まらせ咽せる。




「「さん!?」」




 桂と祐巳が両隣から、の背中を撫でてやる。





「ご、ごめん」




「どうしたの?一体」





「知ってる方?」





 不思議そうな祐巳と桂に、は目を逸らした。





「・・・・・それ、母さん」






「「へ?」」






「鹿島美穂子って、母さんの名前。鹿島は旧姓。今は、美穂子って言うの」


























「「ええ!?」」




 教室に、桂と祐巳の叫び声が響くのだった。
























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