【任務】
もう慣れてきた、ビスケット型のドアを自らの意思で開ける。
「巳星ちゃん、罰ゲ〜〜〜ム!!」
目の前にあるのは、喜色満面の佐藤聖。
「は?」
何言ってんの、こいつ。
「実はね、誰が一番最後にくるか、でゲームをしていたのよ」
勝手にやるなよ、鳥居江利子。
「で、最後に入ってきたのが、巳星ちゃんだったんだ♪だから、巳星ちゃんが罰ゲーム v 」
「とりあえず邪魔」
目の前に立たないで。
佐藤聖を押しのけて、椅子に座る。
「ノリが悪いな〜、巳星ちゃんは」
・・・・・・・・・・・。
「うわー、残念だなー。どんな罰ゲームなんだろー」
「・・・・・なんか、胸が痛い」
胸を押さえる佐藤聖。
酷いな、ちゃんとノってあげたのに。
「切なくなるわね・・・・・」
君らが言ったんだろうが。
「で、何するの?罰ゲームって」
「「それはね!」」
切り替え早いな。
「私達を落としてみせて v 」
うん、意味わかんない。
とりあえず、主語入れて、水野蓉子。
「何処に?」
「言うと思ったわ」
なら言うな。
何、その呆れた顔。
すっげぇ、ムカツク。
「なら、詳しく説明してくれるかな?島津由乃」
「なんて言えば良いのかな・・・・」
「ようは、私達を惚れさせてみて」
ほ〜ら、もっと意味わかんなくなった。
だから、とりあえず君は黙っておけ、鳥居江利子。
「支倉令、続き」
「えっとね、まあ、お姉さまが言ったことも強ち間違ってないんだけど・・・」
「藤堂志摩子、説明よろしく」
「み、巳星ちゃん、酷い・・・・」
強ち間違ってない、って言ってる時点で、わかりやすい説明が聞けないこと、わかったし。
だから、わたしは酷くない!
「罰ゲームはね、私達全員を口説く、っていうものなのよ。だから、令さまを見て、男の人みたい、とか、女性には見えません。とか、そういうことを言って口説いてほしいのよ」
え、今のナチュラルボケ?
それともブラック志摩子?
どっち?
「令ちゃん、いじけるなら部屋の隅でいじけて。邪魔よ」
うわ、酷い扱い。
今更だけどね。
「そういうわけよ。まずは、祐巳ちゃんからね」
水野蓉子は水野蓉子で、さらっと流してるし。
むしろ、無視?
これもいつものことだけど。
「・・・・みんなが見てる前で?」
「「「「「「もちろん!」」」」」」
やりづら〜。
第一、口説くって。
何すれば良いわけ?
・・・・・・・まあ、良いや。
適当に、思ったこと言っとこう。
鞄を椅子に置いて、福沢祐巳の隣に立つ。
「み、巳星さん」
怯えたような顔でわたしを見上げる福沢祐巳に向かって、安心できるように微笑む。
それから、髪を結っているリボンを梳いた。
「ずっと言いたかったんだけど、おろしてる方が綺麗だよ?」
「っ!?」
ってあ!
崩れ落ちる福沢祐巳を、慌てて抱きとめた。
「・・・・・・・目、回してるんだけど」
それも、顔真っ赤。
「・・・・・凄いね。短すぎ」
え、今の落ちた事になるの?
気絶してるのに?
あ、そういえば、気絶すること、落ちる、とか言うもんね。
ならオッケーか。
「じゃあ、オッケー?支倉令」
「う、うん。もちろん」
「ふふ。でも、次は難関よ?由乃ちゃんだもの」
鳥居江利子の言葉にそちらへと顔を向けると。
うわ、すっごい睨まれてる。
かかって来いやぁ!みたいな。
とりあえず福沢祐巳をソファに寝かせ、島津由乃へと近づいていった。
「ねえ」
っと、口説くっていう場合は、下のほうが良い?
「由乃」
あ、軽く反応した。
もっと、目が鋭くなったけどね。
須加さん、ちょっとメゲソウデス。
「何で、三つ編みなんてしてるの?」
「わ、悪い?」
「そのままでも十分だけどさ・・・・・」
なんて言えばいいんだろう。
「うちに泊まった日、朝おろしてたよね。その姿、綺麗だったからさ」
「・・・・・・心臓、口から出そう」
慌てて島津由乃の口を押さえた。
出たら困る。
激しく困る。
普通にグロイ。
切実にヤメテ。
「何も言っちゃ駄目」
っておっと!
抱きついてきた島津由乃を、慌てて抱きとめた。
「由乃?」
「反則っ」
え、出そう!?
何、その震えた声!
ヤバイ?心臓出そう!?
「由乃ちゃん、しゅうりょ〜」
「あ」
「白薔薇さま!何するんですか!!」
「由乃ちゃん、こっちから抱きつくのはずるい」
何だずるいって。
「と言うわけで、次は志摩子ね」
え、どういうわけで?
今ので良いの?
島津由乃、心臓出る寸前だったんだよ?
え?オッケー?
・・・・・小笠原祥子がそう言うなら、それでも良いけど。
「じゃあ、志摩子」
「は、はいっ」
緊張してるし。
そりゃあするよね〜。
友達に、罰ゲームでも口説かれるんだし。
ま、恨むなら、自分の不運を恨みなね。
・・・・うん、自分の不運をね(涙ぬぐい)
まあ良いや。
今までしたくてできなかったことやっちゃおう!
この機会にね!
まずやることは、藤堂志摩子の髪に、顔、正確には鼻をうずめた。
「「「「「「っ!?」」」」」」
藤堂志摩子以外からも、なんか息呑む音聞こえたけど無視ー。
「ずっとさ、これやりたかったんだよね。良い匂い」
「みっ、巳星さんっ!」
「駄目?」
「そ、そんなことはっ!」
「なら、良いよね。だって、良い匂いだし、志摩子の髪、柔らかいんだもん」
もっと強く顔を押し付けた。
うわ〜、マジで柔らかい。
気持ち良いね。
そして、気づく。
なんか、変態っぽいね、わたし。
「・・・・・わ、私、もう、無理ですっ!」
「というわけだから、巳星ちゃん!即刻、志摩子から離れなさい!」
「え、何で?」
小笠原祥子に言われたけど、この柔らかさ、半端じゃないよ?
「何でもよ!」
あ・・・。
強制的に、藤堂志摩子から離されちゃった。
後ろを向くと・・・・やっば、コワッ!
ビビルくらい、怖い形相の水野蓉子がいました。
怖いので、素直に従う。
ファン減るよ?
「・・・・今思ったんですけど、これ、メリットなんですか?」
「「「「巳星ちゃんから口説かれる」」」」
異口同音に言うところじゃないよ、トリオに小笠原祥子。
「わたしのメリットは?」
「罰ゲームだし」
「「「罰ゲームじゃない」」」
そこもか。
こんな時だけチームワーク良いよね。
「はいはい。で、次は支倉令?」
ビビリすぎだから、支倉令。
ビクッてしたよ?ビクッて。
そんな支倉令に笑いながら、頬に手を滑らせる。
うわ、真っ赤。
「改めて見ると、令って綺麗だよね」
「巳星ちゃんっ」
「ああ、ごめん。失礼だったね」
改めて見ると、ってね。
「改めて見なくても、令は十分綺麗だよ。だって、たまに見惚れるくらい、綺麗に笑うから」
そうなんだよ。
知ってる?マリみて愛読者の皆さん。
令って、カッコイイって言われてて、わたしもそういう先入観持ってたけど、実際はかなり綺麗なんだよね。(アニメにて)
って、マリみてに入ってるから、読者の皆さん、とか言っても伝わらないんだけどね。
でも、わたしは本当にビックリしたんだよね〜。
「令?」
こちらを見つめて無反応の支倉令。
不思議に思って目の前で手を振るけど、反応なし。
「・・・・どうやら、目を開けたまま気絶しているようね」
・・・・・・・器用なお方・・・・・。
さすが、山百合会。
「つ、次は、私ね」
え、このまま放置?
良いの?それ、仲間として。
「巳星ちゃん」
あ〜、うん。
良いなら、良いか。
「はいはい。お嬢様、お待たせいたしました」
待っていたらしい小笠原祥子の手をとり、細い手の甲にキスを落とす。
あれ?
これだけで、顔真っ赤?
パーティとかで慣れてると思ったからやったのに。
もしかして、こんなことやる人少ない?
ヤバ、わたしチョーはずくない?
な、なら、名誉挽回。
「祥子の肌は綺麗だね。わたしが触っただけで、君の白い肌を傷つけてしまいそうだよ」
・・・・・・なんていうか、自分で言ってて恥ずかしい。
これ、父が母に言ってた台詞だけど、父、よく恥ずかしくなかったよね!
父、尊敬!
「・・・・・・・お姉さま、私、もうもちません」
「どうやら、そのようね」
あれ?
小笠原祥子、ふらふらどこ行くの?
あ、危ないよ?
慌てて小笠原祥子の腕を掴み、引き寄せた。
「行かせない」
そんなふらふらで、どこに行くつもりなわけ?
水野蓉子もお姉さまなんだから、普通に見送っちゃダメでしょうが。
っおわ!
「小笠原祥子?・・・・・祥子?」
・・・・・もしかして、気絶してらっしゃいます?
やっぱり、引き止めてよかったね。
そのまま放置してたら、どこかで倒れてたよ、きっと。
「・・・・・巳星ちゃん、トドメだよ、それ」
「?何が?」
トドメ?
何の話をしてるわけ?佐藤聖は。
トドメなんて、わたしそんな物騒なことした覚えないぞ?
「・・・・・もしかして、今の甘い呟き、口説くつもりでやったわけではなかったの?」
甘い?
甘いって、何が?
わたし、甘いものなんて何も食べてないんだけど、水野蓉子。
「だって、あんなふらふらしてたら、危ないでしょうが。間一髪だったよね」
って、こら、ため息をつくな。
「もう良いわ。次、私ね」
わたしは仕方なく、小笠原祥子を祐巳の横に座らせ、鳥居江利子の元へ。
それにしても、心配しないんですね、この方々。
いまさらだけど、妹(プティ・スール)はせめて心配しようよ。
・・・・あー、トリイさんも心配してなかったし、これが姉(グラン・スール)たるもの?
とりあえず頭を切り替えて、鳥居江利子がしているヘアバンドを抜き取った。
「ちょっと。何のつもり?」
「ん?だって、見てみたかったから」
訝しげによる眉にかかる前髪。
なんか、違う人みたい。
前髪の有無で、こんなに変わるとは。
「可愛いじゃん」
笑って言うと、鳥居江利子はポカン、と珍しい表情をした。
それから、顔が一気に赤くなる。
わー、新鮮、鳥居江利子の恥ずかしそうな顔!
わたしは調子にのって、その頬を手で触れる。
ついでに顔を近づけた。
「やっぱり、可愛い」
「聖!」
「合点承知!」
え?え?
なにすんの!?
なんでわたし、佐藤聖に羽交い絞めにされてんの!?
・・・・まあ良いや、このまま、佐藤聖に移行しよう。
「聖」
「っ!?」
顔を横向けて、ちょうど佐藤聖の耳があったから、そこに声をかけた。
さすがに耳元で大声は出せないので、小さな声で。
わたしはなんて素晴らしい配慮が出来るんでしょう、と自画自賛。
だって、誰も褒めてくれないから。
・・・・空しくなんてないよ?
あれ?
なんか、固まってない?
これじゃあ、抜け出せるよ?
「ねえ、もっと、強く抱きしめたりはしないの?」
「っ!!!???」
ズザァァ!!っと、勢いよくわたしから離れた佐藤聖。
耳を押さえて、顔真っ赤ですが?
口パクパクして、なに?金魚のマネ?
え?今、この状況で?
「・・・・さすがね」
「は?」
なにが?
えっと、佐藤聖の金魚のマネが?
あれは、水野蓉子的には凄い上手だったって?
・・・・・わっかんねぇー。
「けれど、私はそうはいかないわよ?」
変に自信満々に胸をはる水野蓉子が、なんだか子供に見えます。
だから、思わず抱き上げてしまいました。
「ちょっ!!」
「なんか、蓉子、すごい可愛い」
「っそ、そんなの、効かないわよ?」
なにが?
まあ、気にしない。
抱き上げて、さっきまで彼女が座っていた椅子に腰掛け、膝の上に乗せる。
「み、巳星ちゃん!?」
「なに?」
「・・・・は、恥ずかしいわっ」
顔を赤くしてうつむく水野蓉子に、勝手にもれる笑い。
あれだ。
小学校高学年くらいになって、こういうことを恥ずかしがる子供みたい。
「わたしは恥ずかしくない」
赤い耳に小声で教えると、水野蓉子の体はびくりと震え。
その反応に、こっちが驚いた。
・・・・えっと、大丈夫?
「・・・・全滅、というわけね」
「はい?」
逃げるようにわたしの膝の上からどいた水野蓉子は、タイを整えながら言った。
こちらも見ずに。
「巳星ちゃん」
「ん?」
「あなた、しばらく誰とも接触禁止」
ええええ!!?
「そうね、その方が良いわ」
それに同意してくださりやがったのは、なんだか疲れたように顔を扇ぐ鳥居江利子。
「ちょっと。どういうこと?」
須加さん的には、まったく意味がわからないんだけど。
理由を述べよ、理由を!
「だって、妊娠するよ、きっと」
「するか!!」
テーブルに疲れたように突っ伏す佐藤聖の言葉に、わたしはおもっくそ否定した。
しねぇよ!!
一言。
中途半端に終了(ェ
ブラウザバックでお戻りください。
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