【いちご舎】
源千華留を先頭にして歩くことしばらく、動物園の名物動物のように沢山の視線を集めていたわたし達。
激しく思う。
・・・・帰りたいっ(泣
っていうか、足を少し上げただけでも、見えそうなんですけど!
何が?って?
自分で考えろ!
「巳星ちゃん、平気?」
「・・・・お家帰りたい」
「「っ!?」」
小笠原祥子の問いに答えたのに、何故か支倉令と一緒になって鼻を押さえて顔をそむけやがる。
なんだよ!
「なに!」
「とりあえず、激写」
「何故!?」
っていうか、激写!?
わざわざ”激”使う意味は!?
もうやだ〜!お家返して〜〜〜!
「あん、もう!可愛いわぁ〜 v v 巳星さん!」
この人はこの人で、なんで抱きつくの!?
「恥ずかしさに顔を薔薇のように染めて、潤む瞳で見上げる!こんなに完璧な子、今まで会ったこともないわぁ!!」
「何が!っていうか、上に着るものほしい!いや、むしろ足に何かを巻かせて!」
「だぁめ v v 」
源千華留嬢、無駄にハートマーク使い過ぎ思います!
「何でさ!」
「その方が可愛いから v v v 」
この人、頭おかしい!
絶対おかしいよ、この人!
「千華留?」
わたしたちが揃ってそっちに顔を向ければ、そこにはわたしと同じ制服を着た翠がかった青い髪の人が。
少し違うのは、わたしの上着がおへそくらいまでしかないのに比べ、彼女は上半身を覆えるくらいの上着を着ていることくらい。
上着に関してはどうでも良いの!
とにかく、下!
「あら、天音さん。こんにちは。どうなさったの?」
「いや、そちらの方々は?」
「ああ、こちらの方々は、リリアン女学園からの短期入学生の方々よ」
「ああ、先生が言っていたね。初めまして、鳳天音です」
微笑む鳳天音嬢。
ふむ、タイプ的には令の位置かな?
でも、令とは違ってヘタレではないようだけど。
「初めまして、私、リリアン女学園から参りました、小笠原祥子と申します」
「初めまして、同じくリリアン女学園から参りました、支倉令と言います」
先ほどまで、鼻を押さえつつ桃色をしていた人達と同一人物だとは思えません。
「初めまして、2人と同じリリアン女学園から来た、須加巳星です」
「巳星ちゃん、敬語つか――」
「もういい加減、慣れろ」
また下らないことを言おうとした支倉令の口を、叩くように押さえる。
よほど痛かったのだろう、口を押さえながら悶絶している。
「ねえ、支倉さん。口は災いの元って、知ってる?」
「ずびばぜん」
「宜しい」
「2人とも、初めてお会いする方の前ではしたないことしないでくれない?リリアンの品位が下がってしまうわ」
小笠原祥子の澄ました顔での言葉に、わたしと支倉令は顔を見合わせる。
「あんなこと言ってるよ?あの桃色、PA−子さん」
「なんだか、自分は違うわよ、みたいな顔してるよね」
「うんうん。さっきまで、十分下げてる方の一員だったくせにね」
「聞こえているわよ?」
「「聞こえるように言ってますから」」
おーっと、来た来た!
相変わらず、眉がピクピクですね!
「うふふ。ここまで仲が良いと、妬けてしまうわv v」
「天音さん、うちの学校のものが失礼なことをしてしまってごめんなさいね」
「いいや。でも、千華留の言う通り、仲が良いんだね。少し、羨ましいよ」
「そう言ってもらえると嬉しいですわ」
「ところで、3人はいちご舎には行った?」
「「「いちご舎?」」」
わたしたちは顔を見合わせ、それから源千華留嬢へと目を向けた。
そんなわたしたちの視線に、にっこりと微笑み返す嬢。
「今向かっているのが、3校合同寄宿寮。通称、いちご舎なの」
「ということは、私どもは、今日から短期入学終了日まで、そこで寝起きを」
「ええ、そう話を伺っているわ」
「寮か。ちょっと、楽しみかも」
「巳星ちゃんも?わたしも。憧れるよね」
支倉令に、うんうん頷いて返す。
「あ、部屋割りはどうなっているんですか?」
「それについてはどうやら、各部屋1人ずつのようね。短期入学でも、その期間はアストラエアの生徒として扱われるから、特別に3人一緒には出来ないの。3人とも、学校が違うから」
「残念。巳星ちゃんや祥子と一緒の方が、安心できると思ったんだけど」
「こんな近い距離で、ホームシックにならないようにね。夜中に来て、由乃がいない〜とか言われても叩くから」
「い、言わないよ!」
「はいはい」
「聞いてるっ?言わないよ!?」
「聞いてる聞いてる。由乃の写真持込で、寂しさまぎらわすんでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「持ってきてるのかよ!?」
冗談だったのに、それにびっくりだよ!
「2人とも・・・・(ため息)」
「フフフ。本当に、仲が良いね」
「由乃さん?」
「令の従姉妹なんですよ。家が隣通しだから、子供の頃からいつも一緒だったんです」
源千華留嬢に、簡単に説明してやる。
「その写真、見せてもらっても良いかしら?」
「あ、うん。コレだよ」
支倉令は、財布から一枚の写真を取り出した。
源千華留嬢の横に立ち、覗き込む。
だって、どんな写真か興味あるし。
見てみればそれは、わたしと島津由乃、藤堂志摩子が並んで写っている写真だった。
島津由乃と藤堂志摩子が、満面の笑みでわたしに抱きついているやつ。
ああ、そういえば撮ったな、こんなの。
「おさげの子が、由乃なんだ。もう1人が志摩子って言って、巳星ちゃんたちは親友なんだよ」
かなり満面の笑みで説明をしている支倉令。
わたしは一歩後ろに下がり、小笠原祥子の耳に囁いた。
「かなり、頬緩んでない?もう、ホームでシックだよ、きっと」
「そのようね。あんな状態では、この先が思いやられるわ」
ため息つくと、幸せ逃げるぞ?
ここぞとばかりに、言われまくった言葉を小笠原祥子に送る。
・・・心の中で。
「でも、彼女が寂しくて泣いたとしたら、慰めるんだろう?」
「あら、そんなの」
「当たり前です」
「フフフ。キミ達みたいな関係は、本当に憧れるよ」
「なに言ってるんですか。あなた、手を伸ばしているんですか?」
「え?」
きょとんとした顔でわたしを見てくる鳳天音嬢に、わたしは小笠原祥子の手をとって握りしめながら、それを彼女に見せる。
「今みたいに、誰かと手を繋ぎたいなら、自分から手を差し出さないと。待ってるだけでやってくる友達なんて、本当の友達じゃない。お互いに手を取り合って、そうやって友達になるものです」
驚いたようにわたしを見る鳳天音嬢に、微笑を向ける。
「そうやって、諦めるからいけない。人は、簡単に死にます。だからこそ、人生を楽しめるものにしなければいけない。あなたは、ともに人生を楽しめるような友達を、自ら手を差し出して求めましたか?」
「・・・・・・・・・」
無言で、自らの両手を見詰める鳳天音嬢のその手を、わたしはそっと握った。
ハッとしたようにこちらを見つめる彼女に、笑みを深めて返す。
「ほら、簡単だ」
「・・・・キミは・・・・・・」
「巳星ちゃん!ちょっと来て!」
「失礼します」
そっとその手を離して、笑顔で手招きしている支倉令と源千華留嬢のもとへと歩いていった。
って、いい加減、由乃自慢やめろ。
「あの子はね」
「え?」
無言でいた祥子が、口を開いた。
「あの子はね、恋人を失って。心を壊して、それでも心を取り戻した子なのよ」
目を見開く天音にけして目は向けず、苦笑顔で令の言葉を聞いている巳星を見つめていた。
それは、初めて会う人間には話すべきではないような内容。
けれど、祥子は、彼女は知っておくべきだ、そう思って話した。
巳星が、それ相応の経験をしたからこそ、ああいう言葉が出てくるのだと、暗に教えるために。
間違った認識を、してほしくないから。
巳星の言葉が、ただの未熟な少女の口から出た、その場限りのものではないのだと気付いてもらうために。
きっと巳星は、理由を言えば、過去を言ったことを許してくれる。
祥子は、知っているから。
「あの子は、私たちの光なの。何者にも代用など出来ない、絶対的な光。だからこそ、私たちは彼女が好きで、愛しているのよ」
「・・・・・そうだね。そんな気がする」
嬉しそうに笑いながら、巳星の言葉を聞いている令。
それと、千華留。
その3人を見ながら、天音は自然と微笑んでいた。
「あの子は否定するけれど、巳星ちゃんは、人の笑顔を守りたいと思っている節があるわ。恋人に起因しているのか、本来の性格なのかはわからないけれど」
「・・・・・・・・・」
「だからね。あなたみたいな人を見ると、どうしても手を差し出して助けたくなるのよ。あの子は」
それから何故かため息をついた祥子を、天音は不思議そうに見た。
「そのせいで、あの子に惚れる子が後を立たないの。私たちとしては、困ったことだわ」
「フフフ。それは確かに。・・・・・・・私も、その1人になっても良いかな?」
「そうね。今更増えても、仕方がない、と思えるようになったから、気にはしないわ」
「それは良かった」
祥子と天音は、楽しそうに笑いあった。
そこには、初対面などという雰囲気は、微塵もなかった。
鳳天音嬢も加わって、寮、いちご舎へと向かう。
はは、視線集中率、3倍くらいになったんですけど。
まあ、だんだんこの制服に慣れてきたから良いけど。
足は絶対に高く上げないけどね!
で、わたしは何故か、源千華留嬢と手を繋いでいます。
なんで?
いや、本気で。
「あ、あれがいちご舎よ」
「うわ、凄い」
「うん。素敵だね」
「そうね」
3人で顔を見合わせて笑い、案内されるままに中へと入っていく。
「へー。中もなかなか」
「うん。あ、巳星ちゃん、一枚とって良い?」
「どうせなら、3人一緒に撮ろうよ。源千華留嬢、頼んでも良いですか?」
「え?え、ええ」
「ありがとう、千華留さん」
「鳳天音嬢も、一緒に」
「え、私も?」
「当然。新しい友達、って紹介しますから」
手招きすると、鳳天音嬢は戸惑いつつ、でも嬉しそうにわたしの横に並んだ。
その横に支倉令。
わたしの反対側に、小笠原祥子が並んだ。
写真を撮った後は、今度は鳳天音嬢に写真係を頼んで、源千華留嬢と一緒に撮る。
「さて、と。これで、令の珍妙姿をフィルムに納めたわけだけど」
「珍妙って、酷いよ、巳星ちゃん」
「そろそろ奥に入らないと、視線が痛くてたまりません」
いつものことと、支倉令の苦情を流す。
それに笑いながら、源千華留嬢が建物の奥へと案内してくれた。
「お3方の部屋は・・・・・・」
と、源千華留嬢は紙を凝視、そのあとわたしを凝視してきた。
え?なに?
「どうしたの?千華留さん」
「あ、えっと、これ間違えているみたいなの。巳星さんが、4年生だなんて」
「4年生っていうことは、高校一年生ってことだよね。間違ってないよ?」
「え?」
「巳星ちゃんは、正真正銘、私たちの一つ下よ」
「「ええええ!!??」」
ええ!?
そんなに驚くこと!?
その驚きっぷりに驚きだよ!
「本当に、4年生なの?巳星さん」
「そうですけど・・・」
「本当なのかい?」
「いや、だから本当」
え?なんでそんなに驚くわけ?
見えない?
そんなに老けて見える?
若干ショック。
「じゃあ、先ほどから敬語なのは、初めてお会いしたからではなく、年下だから・・・?」
「いや、普通に考えたらそうでしょう」
そんなに礼儀正しくなくってよ?
頬に手を当てて言ってみる。
・・・・心の中で。
「見えない・・・」
「・・・・・・これは、老けているから、ととるべきだと思う?祥子、令」
「それはないのではないかしら」
「うん。多分、わたし達にも敬語使ってないし、名前も呼び捨てだからじゃないかな?」
「あ、なるほど」
酷く安心した。
始めて来た学校で、老けてる、とか言われたらどうしようかと思った。
一生こねぇよ、バーカ、とか思いそうになったよ。
嘘だけどね(即
「と、とりあえず、巳星さんのお部屋はここよ」
まだ少し取り乱し気味の源千華留嬢に、紙を渡され受け取った。
「それで、祥子さんと令さんのお部屋はここ」
同じように小笠原祥子と支倉令にも紙を渡している源千華留嬢を見ていると、視線を感じた。
見なくてもわかるけど、それは鳳天音嬢。
「?どうしました?」
「あ、えっとさ。敬語、使わなくても良いから」
「そうですか?」
「うん」
「なら、普通でね」
「うん。そうしてくれると助かるよ」
嬉しそうに笑う鳳天音嬢。
と、何故か周りから悲鳴に似た歓声が聞こえた。
「?」
辺りを見渡すと、なんていうか、凄い。
人人人。
ここは何処?
プチパニックに陥った。
なんて、軟弱なハートはしていない。
水野蓉子たちが囲まれてるの、よく見るし。
「なに、この人だかり」
「あ、多分私だ」
「なるほど」
彼女は、水野蓉子たちみたいによく囲われているのだろう。
ご愁傷さま。
「人気者は辛いね」
「まあ、そうだね」
「巳星さん、天音さん、行きましょう」
「はい。行こう、鳳天音嬢」
「そうだね」
源千華留嬢に促されて、わたしたちはいちご舎の案内を再開した。
カルガモの親子よろしく、な感じで後をついてくる生徒達を軽く無視しながら。
ブラウザバックでお戻りください。
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