【Happy New Year】


	  











 閑散とした室内。

 どうよ、これ。

 大晦日に、家に1人ってどうよ。

 両親は、当然のごとく泊まりでデート。

 家に置いてけぼりのわたし。

 年明け、1人で年越しそばか?

 うわ、寂しぃ・・・・。

 もう慣れたけど。

 そこに、

――― ピンポーン

 インターホンの音が聞こえた。

「?誰だ?」

 現在の時間は7時。

 遅くもなく、早くもない微妙な時間。

 そんな微妙な時間に来るのは、誰だ?

 窓から外を覗き、誰がきているかを確認する。

 ・・・・・勢揃いだよ。

 まだ久保栞とかいないだけマシか?

 とりあえず、わたしは玄関に行き、ドアを開けた。

 窓から見えた通り、そこには水野蓉子達がいた。

「どうしたの?全員揃って」

「巳星ちゃんのお母様から電話を頂いたのよ。デートに出かけるから、巳星ちゃんが1人になるから行ってあげてください、って」

 誰のせいでポッチなのさ。

「そっか。じゃあ、あがって」

 水野蓉子達を中に入れ、ドアのカギを閉める。

「適当に座って置いて。何か飲み物用意するから」

 リビングに案内し、わたしはキッチンへ。

 紅茶の蓋を開ければ、わたしも含めて9人分は余裕にある。

 なら、平気だろう。

 わたしはお湯を沸かし、お菓子なども用意した。

「巳星ちゃん、何か手伝うことある?」

 福沢祐巳が問いかけてきて、わたしは振り返る。

 他にも、島津由乃と藤堂志摩子もいた。

「いや、ないかな。持っていく時は、手伝ってもらうよ」

「わかったわ」

 藤堂志摩子は頷くと、他の2人と一緒に近づいてくる。

「相変わらず、広いキッチンよね〜」

「2,3日で狭くなるものか」

 相変わらずってなんだ、相変わらずって。

「それはそうだけど」

 肩をすくめて笑う島津由乃。

「そうだ!」

 福沢祐巳が何かを思いだしたように言うと、リビングへ戻っていった。

「?どうした?」

「「あ!」」

 続いて、島津由乃と藤堂志摩子も声をあげ、慌てたようにリビングへ。

「???」

 1人首を傾げていると、3人がビニール袋を持って戻ってきた。

「これ、来る途中で買ってきたんだ」

 笑顔でビニール袋を差し出す福沢祐巳から、袋を受けとり中を見てみる。

「あ、ローストチキンじゃん」

「それと、ケーキもあるわよ」

 戻ってきた島津由乃達の手には、各々一つの袋。

 どうやら、それがケーキらしい。

「・・・・・大晦日に、ローストチキンとケーキ?」

 大晦日って、普通和風じゃない?

 2つとも、完璧にクリスマス仕様じゃん。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 無言で顔を見あわせる3人。

 ヨシ、理由は聞かない。

「・・・・・・それは置いておいて、巳星さんはもう夕飯食べたの?」

 藤堂志摩子が、話を逸らすように聞いてくる。

 わたしはそんな藤堂志摩子に苦笑しながら、首を横に振った。

「まだ。今から作ろうと思ってたから。みんなは?」

「全員食べてないよ」

 福沢祐巳の返事に、わたしは一つ頷く。

「なら、作るから手伝ってもらおうかな」

 そういうと、なぜか3人は嬉しそうに頷いた。

 何がそんなに嬉しいんだ?





「凄いじゃない、4人とも」

 水野蓉子が、テーブルに並んだ夕食を見て呟いた。

 他の面々も、似たような表情。

 テーブルにのっているのは、もちろん、持ってきてくれたローストチキン。

 それと、お刺身、豆腐ハンバーグ、蟹のみそ汁、ほうれん草のごまあえ、キュウリとタコの酢の物。

 さすがに9人分は、多いな〜。

「ほとんど、巳星さんが作ったんですけどね」

 福沢祐巳が苦笑しながら言う。

 不満そうに頷く島津由乃。

 福沢祐巳と同じく、苦笑する藤堂志摩子。

「でも、ある程度は助かったよ。うちは、和風と洋風を一日おきに作ってるんだよね。わたしが」

 最後の言葉は、強調して言う。

 だって、本当のことだし。

 っていうか、母よ、少しは上達してくれ。

「ある程度・・・・・」

 ショックを受けたように呟く福沢祐巳。

「深く考えない考えない」

 わたしは福沢祐巳にそういって、頭をポンポンと軽く叩く。

「それより、食べようよ!」

 笑顔でわたしの差し出した箸を受けとる佐藤聖。

 目が輝いてるよ。
 
 まるで、面白いものを目の前に出された鳥居江利子みたいだね。

「そうですね。頂くわ、巳星ちゃん」

 小笠原祥子に続いて、全員がわたしに挨拶をすると、食事に手を伸ばした。

 それに習うように、わたしも食べ始める。

 が。

「聖、それは私が食べようと思っていたのよ」

「なら、名前書いておきなよ」

「馬鹿なこと言わないでよ。食べ物に名前なんて書く馬鹿、あなただけよ」

「わたしだって、書かないもん」

 鳥居江利子と佐藤聖が、お刺身の取り合い。

 まだ、自分の残ってるじゃないか、佐藤聖。

 って、火花を散らすな!

「令ちゃん、ハンバーグ頂戴」

「ええ!?それはダメ!」

「何でよ!ケチ!」

「け、ケチってっ・・・・。ああ!ダメだったら!」

 豆腐ハンバーグを巡って、黄薔薇姉妹も(一方的に)闘いが勃発。

 ・・・・・・・落ち着いて、食えよ。

「祐巳さん。ほうれん草のごまあえ、もらっても良いかしら?ついでに、酢の物も」

「あ、う、うん、良いよっ」

 比較的、穏やかに行き来するごまあえと酢の物。

 でもさ、黒い笑みを浮かべて脅すのはやめようね、藤堂志摩子。

 福沢祐巳、すっごい怯えてるじゃん。

 可哀想だって・・・・・。

「お姉さま、これ美味しいですね」

「そうね。さすが巳星ちゃんだわ」

 ここだけ、まともな会話をしてる。

 いつもは、唯我独尊ぶりを発揮する水野蓉子。

 いつもは、眉が生きているのではないかと思えるほど、眉がピクピクと動く小笠原祥子。

 そんな君たちが、まさか唯一の救いになるとはね・・・・・。

 世の中って、わからないものだよね。

 うん。








「あ、おそば持ってきたんだ!これで年越しそば作ってよ!」

 そろそろ12時になった頃、佐藤聖がそういってバックから袋を取りだした。

 ・・・・・大きいバックだと思ったら、そんなものが入ってたのか。

「了解」

 袋を受けとり、キッチンへと持っていく。

 重い・・・・・。

 持てないほどじゃないけど、重すぎるよこれ。

 何キロあるのさ。

 キッチンの台に袋を置き、中身を確認する。

 うわ、これ絶対に9人分以上あるし。

 重いわけだね。

「・・・・・・・・・・・・頑張るか」

 わたしは意気込み、お湯を沸かし始めた。

 それから、コンロを全て使ってソバを作る。

 ソバを茹でている間に、つゆも作り完成。

 茶碗に入れ、リビングに持っていくのを手伝ってもらおうとリビングに入った。

 そして、リビングの惨状を見てわたしは絶句。

「アハハハハハ!江利子のお凸広いね〜!アハハハハハ!」

「私だって、好きでお凸が広いんじゃないわ!!」

「祐巳ちゃん、人って言うのはね?支え合わなければ、生きていけないのよ」

「紅薔薇さま!!」

「志摩子、あなた最近生意気よ」

「すみませんっごめんなさいっ。私の、バカバカバカ!」

「令ちゃん、さっきは蹴ってごめんなさい!」

「そっ、そんなわたしこそ、由乃に逆らったりしてごめんね!!」

 佐藤聖は、鳥居江利子のデコを指さして笑い、

 鳥居江利子は、佐藤聖の言葉に泣き叫び、

 水野蓉子は、意味不明なことを言い、

 福沢祐巳は、なぜか感動している。

 小笠原祥子は、藤堂志摩子を睨み、

 藤堂志摩子は、自分の頭をぽかぽか叩いている。

 島津由乃は、泣きながら謝り、

 支倉令は、ヘタレ度を増して、泣きながら謝っている。

 意味不明な集団。

 一つ同じなのは、全員が頬を赤く染めて、目が据わっていること。

 ・・・・・・・・・・・なんだ、これ。

 っていうか、誰だお前ら。

 すっごい、酒臭っ!

 床中にばらまかれた、お酒の数々。

 人がソバ作っている間に、酒盛りしてやがったのか!

 なんてやつらだ!

 人が、人が一生懸命作ってるっていうのに!

 ソバが勿体ないじゃないかぁ!

 はあ・・・・・。

 わたしは多大なため息をつき、酔っぱらいどもを寝室へと1人1人連れていったのだった。

  お酒の缶をかたして、リビングでテレビを見る。

 酒臭い匂いを出すために窓を開けたため、ちょっと寒い。
 





 あいつら、覚えてやがれ。 



 
          

 

トップに戻る 小説入口へ戻る  目次 


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送