【恋人】















	  
「巳星さん、少し良いかしら?」

 珍しく薔薇の館で1人でいると、藤堂志摩子がやってきた。

 珍しいこともあるものだ。

 だって、藤堂志摩子が挨拶せずに入ってきたのだから。

「何でわたしがいるってわかったの?」

「だって、他の方には来られないように細工したもの」

 ・・・・・・・・・・・・・・・何も聞いてない。

 うん、大丈夫。

 何が?と言いたいけど、大丈夫なものは大丈夫なのさ。

「それで?」

「その前に、紅茶で良いかしら?」

「うん、良いよ」

「・・・・・・そうだわ。今日の会議、巳星さんが議長でも良い?」

「まあ、良いけど」

「・・・・・・それと、調理実習の時にクッキーを焼いたの。お茶請けはそれで良いかしら?」

「うん、良いよ」

「・・・・・・ちょっと失敗したかもしれないけれど、味見してくれる?」

「うん、良いよ」

 今日は随分と話すな、藤堂志摩子。

 何か良いことあったのか?

「・・・・・・・巳星さん私と恋人同士になってくれる?」

「はい?」

 そう呟き、紅茶をテーブルに載せてくれた藤堂志摩子を見上げた。

 すると、藤堂志摩子はなんと、

「チッ」

 舌打ちぃぃ!!?

 微笑みながら、舌打ちをした。

 今聞いた!?

 今聞きましたか奥さん!!

 それもこの子、微笑みながらですよ!?

 何があったの!この子に!!

 どうしよう!

 この子普通に恐いし!

「と、藤堂志摩子?」

「気にしないで」

 微笑みながら、椅子に座ると鞄から何か本を取りだした。

「おかしいわね。この方法なら、絶対に引っかかると書いてあるのに・・・・・・」

 なんか見てる!

 なんか見てるよぉ〜!?

「全然効かないわ。・・・・・・・どうしてさしあげようかしら・・・・」

 呟き聞こえてくるし!

 君白薔薇なんだろ!?

 白くいこうよ!

 黒くならないでよ!!











「・・・ねぇ、巳星さん。ミカン好きかしら?」

「うん、好きだけど?」

「・・・ポンカンは?」

「好きだよ?」

「・・・猫は好き?」

「うん、好き」

「・・・犬は好きかしら?」

「うん、好きだよ」

 ・・・・・・勢いが、前と同じなんですけどね。

 っていうか、バレバレですけどね。

「・・・私のことは愛してる?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 とりあえず、藤堂志摩子を見つめるだけで止める。

「・・・・・・チッ」

 また舌打ちかよ!!

「ごきげんよう、巳星さん」

 そして去るか!お前は!

 去っていく背中に桜が舞っている。

 その光景だけ見ると、今までの会話を忘れそうな綺麗な光景。

 忘れないけどね。

 にしても・・・・。

 しょうがないな〜。

 わたしは苦笑し、どこか沈んだ雰囲気の藤堂志摩子の背中を見つめた。










「あ、巳星さん」

「藤堂志摩子、小笠原祥子が家の用事で今日来られないって」

「あ、そうなの?」

 わたしを見て三度何かを言おうとしていた藤堂志摩子に、先に声をかける。

「それと、島津由乃は定期検査だって」

「わかったわ」

「支倉令は、部活」

「ええ」

「福沢祐巳は、小笠原祥子が連れて行った」

「ええ」

「わたし達は、これからデートでもしようか」

「ええ・・・・・・・・え?」

 引っかかった藤堂志摩子に、わたしは片眉をあげてニヤリと笑う。

「誘導尋問っていうのは、これくらいの速さでやらないとね?」

「え・・・・え・・・・・?」

 混乱している藤堂志摩子に、わたしは手を差しだす。

「付き合おうよ、藤堂志摩子」

 恋人として。

 そうつけ加えると、藤堂志摩子の瞳が段々と見開かれていく。

 ここまで驚いた藤堂志摩子を、あまり見たことないね。

 珍しいな〜。

 藤堂志摩子は驚いていたが、少しして、嬉しそうに目を細めた。

 それは、白薔薇、と呼ばれるにふさわしい白さで。

「ええ」

 わたしは、そんな藤堂志摩子に笑みを返す。









「まさか、巳星さんからされるとは思わなかったわ」

「だって志摩子、問いかける前に間空くんだもん」

 あれじゃあ、相手に考える時間を与えるって。

「それに、わざわざあんな事しなくても良かったのに」

「巳星さんが、私を好きでいてくれるなんて思わないもの」

 苦笑する志摩子の、柔らかそうな髪に手を伸ばした。

「み、巳星さん、ここ街中よ?」

 それはそうだ。

 なんせ、今はデート中。

「なら、こっちに手を伸ばす」

 わたしは鞄をもっていない方の手をとり、笑みを向けた。

 志摩子は恥ずかしそうにはにかみ、わたしの手を握り返してくれる。

 このまま、志摩子が白くいてくれたらいいのに。

 まあ、黒い志摩子も嫌いじゃないけどね。

 でも、黒いとちょっと恐いんだよね。

「今度、志摩子の家に行っても良い?」

「ええ。父もきっと、喜ぶわ」

「友達って紹介されても、困るよ?」

「ちゃんと言うわよ。・・・・・・・恋人です、って」

 志摩子はそう言うと、頬を染めながら微笑んだ。

 その笑みは、とても綺麗だった。

「それに、あれ以上髪の毛少なくならないのだし、言っても平気よ」

 ・・・・・・何故か、一瞬黒く見えた。

 見間違い?








          

 

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