【恋人】


	  









「頼もう」

 突然、島津由乃が家に押し掛けてきた。

 もとい、やって来た。

 っていうか、頼もうってなんだ。

 頼もう、って。

「いらっしゃい」

「うむ、くるしゅうない、面をあげい」

「別に頭下げてないし」

 妙なテンションの島津由乃の相手をしつつ、家の中へと入れる。

「どうしたの、今日は」

「暇」

「帰れ」

 即答し、手でシッシッと払う。

 不満そうに頬をふくらませる島津由乃にため息。

「それで、なに?何か用でしょう?」

「・・・・・・わかる?」

 わかりますとも。

 頷く。

 緊張しているのを、妙なテンションで誤魔化そうとしているのがバレバレ。

「さすが巳星さん」

「だてに1年間、同じクラスじゃありません」

 とりあえず部屋に連れて行くと、島津由乃は途端に真剣な表情で床に座った。

 何故正座?

「今日は、相談にのってもらおうと思って」

「相談?」

 ベッドに座り、島津由乃へと顔を向ける。











「実は、須加巳星という子を好きになってしまったのよ。それで、どうすれば良いか、聞きに来たの」









 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?







「・・・・・・どういう意味?」

 一応、その名前ってわたしの名前なのですが。

「そのままの意味」

 即答する島津由乃。

 ・・・・・・・・驚けばいいの?

 それとも、軽く無視っとくべき?

「・・・・・・・・島津さん。わたしの名前、わかってて言ってる?」

「当たり前じゃない」

 ・・・・・・どうしよう。

 何がどうしようって。

 全てがどうしよう。

「・・・・・・なんで、その人のこと好きなわけ?」

「文句ある!?」

 はぁ!?

 なんでキレられたわけ!?

 意味わかんないっちゅーねん!

「落ち着け。とりあえず、その人のどこが好きなのさ」

 その人って、わたしなんだけどね・・・・・・。

「・・・・・・・全て」

 即答された言葉に、わたしは気まずくなる。

 全てって・・・・・言われて、どう答えればいい?

 っていうか、これは告白なのか?

 それとも、普通の相談?

 ・・・・・・・・・・・・・・本人に?

「例えば?」

「授業中に、起きてると見せかけて寝ているところも、先生に当てられてさも今まで起きていました、

みたいに答えを言うところも、テストで必ず一つ馬鹿な答えを書くところとか、5時間目の授業を終え

ると、『眠っ』って呟くところとか」

 ・・・・・・・・・・変なところばっかりやん。

「・・・・・よく見てますね」

「ええ。暇さえあれば見ているわ」

 それはそれで怖いです。

「それで、巳星さんはわたしのことをどう思っているのかしら?」

 急な問いかけ。

 やっぱり、これって告白だったんだ。

「そうだね・・・・・・。まあ、一緒、かな」

 そう答えると、島津由乃は眉をよせた。

「わかりやすく言ってくれない?」

 不機嫌そうな表情に、どこか嬉しそうな影。

 直球で言わないとダメ、ってこと?

「要するに、わたしも島津由乃のこと、好きだよ。もっとわかりやすく言うなら・・・・・・愛してるよ、由乃」

 微笑みいった途端、島津由乃に抱きつかれた。

「はぁ・・・・・・」

 わたしを抱きしめ、安堵したような息を吐く島津由乃に微笑み、わたしも抱きしめ返す。

「愛してるわ、巳星さん」

 囁くような島津由乃の告白に、わたしは目を閉じた。






「初め、何事かと思ったよ」

「意表をついてみたのよ」

 ニッコリと微笑む由乃は、わたしの膝の上。

 言うならば、膝枕をしている状態だ。

「なんだ、意表って」

 呆れるわたしに、由乃は嬉しさを隠さずに笑顔。

「面白いでしょう?」

 ・・・・・・鳥居江利子。

 君の遺伝子は、着実に由乃に受け継がれているぞ。

「なんて。本当は、凄くドキドキしていたのよ」

 由乃の顔が腹部に押しつけられ、腕がわたしの腰に回った。

「一種の賭けよね。本心では、もっとスッキリ告白するつもりだったんだけど、結局口から出てきたの
はあの言葉だった」

 顔をあげた由乃は、本当に嬉しそうな表情。

 わたしはそんな由乃に微笑み、髪を撫でる。

 由乃は目を細め、わたしの手をとり手の平にキスをしてきた。

「浮気、しないでよね」

「するように見える?」

 片眉をあげて問うと、笑顔で首を横に振る由乃。

「見えない」

「当たり前でしょうが」

 由乃の額にデコピンをかますけれと、頬をふくらませて額に手をあてた。

「見えなくても、不安だもの。巳星さんは、すっっっっっっっごく、モテるし」

「モテないモテない」

「巳星さんが知らないだけよ」

 そういい、由乃は目を閉じる。

「巳星さんは、わたしのなんだからね」

「わかってますとも」

 由乃の髪をなで続けた。

「?由乃?」

 返事がない。

 もしかして、寝てる?

 由乃を見つめると、穏やかな寝息。

 昨日、眠れなかったとか?

 わたしは浮かんだ思いに笑い、由乃の耳に囁いた。

「わたしだって、不安になることはあるんだよ?」

 もちろん、返事などは返ってこなかったけれど。






 もう、絶対に無くさない。

 何かあったら、命をかけても守ってみせるから。

 だから、ずっとわたしの側にいてよね。         









 

 

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