【恋人】

	  












「こんな所に呼びだして、どうしたの?」

 朝、学校の下駄箱に入っていた一枚の手紙。

 名前もなく、『お昼休みに、屋上で待っています。誰にも言わないで』、そう書かれただけの手紙。

 でも、わたしにはそれが誰だがわかった。

 だって、普通気づくよ?

 見慣れているって言うのもあるけど、小笠原祥子の字は、絶対にわかる。

 だって、



















 ―――好きな人の、字だから。

























「良く、私だってわかったわね」

 微笑む祥子に、わたしは本心をいえるはずもなく、肩をすくめて返した。

「それで、話って?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もし、私があなたを好きだと言ったら、巳星ちゃんはどうする?」

 長い沈黙の後に言われた言葉に、わたしは目を見開いた。

「・・・・・・・・わたしも、好きだよ?」

 そう答えると、小笠原祥子は自嘲の笑みを浮かべる。

 似合わない。

 そう思った。

 小笠原祥子には、笑った表情が似合う。

 それは、他の人にも言えるけど。

 わたしは、小笠原祥子の笑顔が見たかった。

「そう言うと思ったわ。けれどね、巳星ちゃん。私が言っているのは、 L O V E の方なのよ」

「うん」

 わかるよ、それくらい。

「え?」

「真剣な表情で言われたら、誰だって L O V E の方の好きだって、気づくよ」

 大きな目が、さらに大きく見開かれた。

 驚いているその様子に、わたしは笑う。

「祥子にだけ言わせるのは、不公平だね。・・・・・・好きだよ、祥子」

 L I K E じゃなくて、L O V E の方で。

 付け加えて言うと、祥子から体当たりをくらった。

「おっと」

 それを受け止める。

 でも、もう少しで倒れるところだったよ。

 あっぶな〜。

「好き、好きよっ、巳星ちゃんっ」

「・・・・・うん」

 わたしの胸に顔を埋めていった小笠原祥子の声は、震えていた。

 わたしはそんな彼女を抱きしめる腕に力をこめ、頷く。

「愛してるのっ!」

「うん、わかったから」

 落ち着くように、背中を撫でてやる。

 落ち着くまで、ずっと。








「目、腫れてるよ?」

 泣き止んだ祥子の目元を、なるべく優しく撫でる。

 祥子はわたしの行動を、恥ずかしそうにしながら受け止めていた。

「治るまでに、どれくらいかかるかしら?」

「さあ?・・・・・・治るまで、さぼっちゃう?」

 笑って言うと、祥子は目を見開く。

 が、すぐに笑った。

「そうね。そうしましょう」

「おや。良いんですか?祥子さん」

 笑って返すと、ふふ、っと楽しそうに祥子は笑う。

「ええ、もちろんよ」

 一度、やってみたかったの。

 祥子のその言葉に、わたしは驚き、そして笑ってしまう。

「祥子、変わったね」

「そうかしら?」

 首を傾げる祥子に、わたしは笑いながら頷いた。

「変わったよ。・・・・・今の祥子は、家に縛られてない」

 そう言うと、祥子は目を見開いてわたしを見てくる。

 そんな祥子の頬を、わたしは撫でた。

「良いことだよ、それは」

 祥子の手が、わたしの手に重なる。

 浮かべる表情は、とても綺麗な笑み。

「巳星ちゃんの、おかげよ」

「なに言ってんの、祥子自身の力だ」

 そう言って、わたしは祥子の唇に、そっとキスをした。

          





 

トップに戻る 小説入口へ戻る  目次 


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送