【病院で】

	







 わたしの好きな人は、とても変わった人。

 もちろん、嫌な意味ではなくて、とても良い意味で。

 彼女は知らない。

 わたしが、リリアンで彼女に会う前に、わたしはあなたを知っていたことを。

 リリアンかわら版で載った、巳星さんについて書いた取材にも書かなかった、本当。
 





 



 それは、今から3,4年前のこと。

 わたしが、いつものように発作を起こして入院していた時。

 わたしの隣の個室にいたのが、彼女だった。

 隣だったせいで、自分の病室と間違えて入ってしまった個室に、心電図と酸素マスクをつけた彼女が
ベッドで眠っていた。

 名前を見ると、須加巳星と書かれている。

 規則正しい音を鳴らす心電図。

 見るからに、絶対安静の状態。

 そんな彼女に、わたしは興味をひかれ近づいていった。

 そして、目を見張った。

 同じ年であろうその少女の、綺麗な顔立ちに。

 すぐに看護師さんに見つかって、自分の部屋に連れ戻されたけれど、わたしの興味は消えるどころか
増す一方。

 その日のうちに、担当の看護師さんに何度も何度も彼女について問いかけて、やっと教えてもらった事実。

 1週間前の雨の日、路地裏で1人、脇腹を刺されて倒れていたのを発見されたのだそうだ。

 周りには誰もおらず、彼女のものと思われる血痕だけが残っていたことから、1人でいたのを通り魔に
襲われたのだろうと警察は言っていたらしい。

 本当なら、出血多量で死んでいただろうけれど、その日はたまたま寒い日で、傷口が血で凍り、出血が
押さえられたらしい。

 けれど、凍傷にもかかっていて、助かったのは奇跡に近かったとか。

 それから今も、ずっと意識がないという。

 内緒よ?

 そういって病室を出ていった看護師さんを見送って、わたしは巳星さんに会いたくて会いたくて仕方
がなかった。

 声を聞いてみたい。

 閉じられた瞳に、わたしを映してほしい。

 今まで令ちゃん以外の人に、興味なんてなかったわたしが、令ちゃん以外に初めて興味を持ったのは、
この時だ。

 けれど、その想いも虚しく、わたしが安定期に入って退院するまでの間、巳星さんはずっと眠り続けた
ままだった。





 あれから、幾年が経ち、わたしは高校生になった。

 けれど、体調が思わしくなく、初日はベッドで眠っているしかなかったわたし。

 起きてみると、令ちゃんがどこか楽しそうにわたしを見ていた。

 珍しい事だと思う。

 いつもは、人を心配そうに見ている令ちゃんが、楽しそうなんだから。

「あ、起きたんだ。由乃」

「うん。どうしたの?」

 そう問うと、わかる?と笑顔で首を傾げる令ちゃんに、わたしは体を起こしながら頷いた。

「今日、お姉さまが面白い子の話をしてくださったんだ。外部からの編入生らしいんだけどね」

 そう言って、令ちゃんはその子の話をしてくれた。

「ドアを頭で?」

「うん。名前は、須加巳星ちゃんだったかな」

「え・・・・?」

 その名前に、わたしは目を見開いた。

 だってそれは、眠り続けていた彼女の名前だから。

「ん?どうかしたの?由乃」

「あ、なんでもない」
 
 慌てて手を横に振る。

「それで、お姉さまが明日、巳星ちゃんを昼休みに連れてきてほしいっていってたんだ」

「そ、そう」

 彼女がいる。
 
 あの学校に。
 
 リリアンに、巳星さんが。

 ダメ。

 今から緊張してきたわ。

 ドキドキと、耳に大きな音が聞こえてくる。

 もし明日、体調が悪くなったらどうしてくれるのよ。

 自分の体を叱咤して、わたしはその日早くに眠りについた。

 令ちゃんからもらった、ロザリオを首にかけて。
 




 早く会いたい。

 会って、今度こそ会話をしてみたい。

 それで、わたしを見つめてほしい。





 
          

 

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