【恋人 〜江利子編〜】






「あれ?どうしたの?」

 インターホンが鳴り、ドアを開ければそこには鳥居江利子の姿。

 その表情は、いつも見るような笑みはなく、真剣な表情。

 というか、緊張したような表情で、鳥居江利子はたっていた。

「話があるの。あがっても、良いかしら」

 ジッと見つめられ、わたしは戸惑いつつ頷いて鳥居江利子を家の中に招き入れる。

「あがって」

「お邪魔するわね」

 部屋に行ってもらい、わたしはキッチンで飲み物を用意する。

「なんの話だろう・・・・・」

 もちろん、考えてもわかるはずもない。

 あの鳥居江利子が。

 あの、鳥居江利子が、真剣な表情だよ?

 なんの話か、興味はある。

 とりあえず、わたしは飲み物を2つ持って、自分の部屋へ。

 部屋にはいると、鳥居江利子は相変わらず緊張しているような、真剣な表情でテーブルの所に座って
いた。

「それで、話って?」

 飲み物を鳥居江利子の前におき、わたしは問う。

「・・・・・・・・好きな人がいるの」

「へ?」

 急な言葉に、わたしは目を見開いた。

 鳥居江利子に、好きな人?

 いたんだ。

 そう思ったのは事実。

 なのに、それ以上に、鼓動が早くなった。

 何故だかわからない。

 苦しいような、切ないような。

 かつて、一度だけ体験したことのある症状。

 それは、華南さんに対してのみ現れた症状だ。

 だからこそ、戸惑う。

 まさか、わたしは・・・・・・。

「彼女は、凄く綺麗な子なの。心が、特に」

 聞きたくない。

 無意識に、そう思った。
 
 やっぱり、わたしは、鳥居江利子が・・・・・・…。

「そう」

「それと同時に、強い子でもあるわ。みんなの先頭に立って、先導してくれる。そんな子」

 高校の頃の日々では見せなかったような、優しい、恋する女性の笑みを浮かべる鳥居江利子。

 苦しい。

 悲しい。

「そして、鋭い子。でも、自分のことに関しては、とても鈍感なの」

「え・・・・」

 わたしは驚き、鳥居江利子を凝視した。

 だってそれは、わたしが何度も言われた言葉だから。

 鳥居江利子は、真っ直ぐわたしを見ていた。

「あなたが好きよ、巳星ちゃん」

 目を見開く。

「初めて会った時から、ずっと、ずぅっと、あなたが好きだったの」

「江利子・・・・・」

 優しい笑みから、真剣な表情へと変わる。

「返事を、聞かせてくれないかしら?」

「・・・・・・・ありがとう」

 それ以外、何も言えなかった。

 何も、思いつかなかった。

「・・・・・・それは、O K という事かしら?」

 震えた、鳥居江利子の問いにわたしは頷く。

 鳥居江利子は、涙をこぼしながら立ち上がり、わたしの隣へとやって来た。

 そして、わたしを抱きしめてくる。

「良かった・・・・・・・・」

 安堵するような呟きを聞きながら、わたしも鳥居江利子を抱きしめ返した。








「初めて会った時って、廊下であった時?」

「覚えていないと思ったわ」

 江利子の両足の間に座り、抱きしめられながら問うと、江利子はクスクスと笑い出す。

「え?それ以前に、会ったことあるっけ?」

 驚き、小さく顔を後ろに向けた。

 嘘だ。

 マジで?

 会ったこと、あったっけ?

 もし会ったことあるなら、高校に入る前からすでにこっちの世界にいたってことか?

「私が、中学3年生の時よ。面白いものを探して、裏の道に行ったの。その時、変な男達に絡まれて、
それを助けてくれたのが巳星ちゃんだったわ」

 あ。

「そういえば、そんな事したような覚えがあるな」

 かなりうろ覚えだけど。

 って、ちょっと待て?

「ってことは、4年くらい、わたしのこと好きだったの?」

 そんな素振りあったっけ?

 あ、そういえば、付き合って、とか言われたことあったじゃん。

 あれって、そういう意味だったんだ・・・・・。

「ええ。私も驚いているわ。あまり、気の長くない私が、4年間も巳星ちゃんを思い続けていたんだも
の。それも、3年間は名前も知らないあなたを」

 それは、確かにずっと、ずぅっと、だね。

 って、まさか、水野蓉子や佐藤聖も、そういう意味・・・・?

 ・・・・・・・・・・・・・・・まさかね。

「それも、今は成就したわ。やっと、あなたを手に入れることが出来た」

 抱きしめてくる腕に、力がこもった。

「長い間、ご苦労様」

 苦笑しつついうと、

「本当よ」

 どこか、呆れを含んだ言葉が返ってきた。

「というわけで、キスしていい?」

「は?」

 どういうわけだよ。

「もしくは、それ以上」

「死ね」

 わたしは、江利子の頭を少し強めに叩いた。






 その日の夜。

【あなたも、濃い子を好きになるわね】

 夢の中に、楽しそうな華南さんが現れた。

「本当だよ」

 驚いたけれど、それ以上に同意してしまう。

 確かに、濃い人を好きになったものだ。

 自分でも、この想いにビックリだね。

【とりあえず、おめでとう、巳星。これで、私も安心出来るわ】

「・・・・・・ありがとう、今まで」

【それじゃあ、幸せにね】

 クスクスと笑いながら、華南さんは消えていった。

 うん、幸せになるよ。

 ・・・・・・・・江利子相手に、どれだけ出来るかわからないけどね。
 






          

 

トップに戻る 小説入口へ戻る


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送